上場企業の決算を確認するとき、売上高や営業利益、純利益などには目を通しても、監査報告書まで読む人はそれほど多くないかもしれません。
しかし、監査報告書には企業を分析するうえで重要な情報があります。
その代表的なものがKAMです。
KAMを読むと、監査を担当した公認会計士が、その企業の決算のどこを特に重要だと考え、慎重に監査したのかを知ることができます。
2028年3月期から適用が見込まれている不正に関する監査基準の改正では、不正リスクとKAMの関係がさらに重要になります。
KAMとは何か
KAMはKey Audit Mattersの略で、日本語では「監査上の主要な検討事項」と呼ばれます。
簡単にいえば、監査人が財務諸表を監査するなかで、特に重要だと判断した事項です。
企業の決算には、さまざまな会計処理が含まれています。
現金や預金のように比較的金額を確認しやすいものがある一方、将来の予測や経営者の判断が大きく影響する項目もあります。
例えば、固定資産の減損、のれんの評価、貸倒引当金、企業買収に伴う資産評価などです。
こうした項目では、単純に帳簿と証拠書類を照合するだけでは十分ではありません。
将来の収益予測なども含めて検討する必要があります。
監査人が特に注意を払った事項のなかから、最も重要なものとして選ばれるのがKAMです。
なぜKAMが導入されたのか
従来の監査報告書は、企業が違っても記載内容が似てしまいやすいという問題がありました。
投資家から見ると、監査法人が実際に何を重要だと考え、どこに時間をかけて監査したのかが分かりにくかったのです。
そこで監査の透明性を高めるため、KAMが導入されました。
日本では2021年3月期から、上場企業などの監査報告書へのKAM記載が本格的に始まりました。
KAMによって、監査報告書は単に監査結果を示す書類から、監査の過程についても一定の情報を伝える書類へと変化しました。
企業ごとに異なる重要な監査領域が示されるため、投資家にとっても企業分析の材料になります。
KAMと監査意見は違う
ここで注意したいのが、KAMと監査意見を混同しないことです。
監査意見は、財務諸表が会計基準に従って適正に表示されているかについて、監査人が表明する結論です。
一方、KAMは監査のなかで特に重要だった事項を説明するものです。
したがって、ある項目がKAMとして記載されているからといって、その会計処理に問題があるという意味ではありません。
ましてや、不正が行われていることを示しているわけでもありません。
例えば、大型企業買収を行った会社では、買収によって発生したのれんの評価がKAMになることがあります。
これは、のれんの評価には将来の事業計画など多くの見積もりが必要となり、監査上の判断が難しいためです。
KAMは企業に対する警告一覧ではなく、監査人が特に注意を払った領域を示す情報と考えると分かりやすいでしょう。
KAMには何が書かれているのか
KAMでは一般的に、なぜその事項が重要だと判断されたのかと、監査人がどのように対応したのかが説明されます。
ここが投資家にとって重要です。
例えば、固定資産の減損がKAMになっている場合、その背景として事業環境の悪化や将来収益の見積もりの不確実性などが説明されることがあります。
さらに監査人が、経営者の事業計画をどのように検討したのか、将来のキャッシュフローの前提をどのように確認したのかといった監査上の対応も記載されます。
つまりKAMを読むと、企業側の説明だけではなく、第三者である監査人が決算のどこに難しさを感じていたのかを知ることができます。
不正リスクとの関係がさらに重要になる
今後はKAMと不正リスクの関係にも注目する必要があります。
日本公認会計士協会が進めている監査基準報告書240号「財務諸表監査における不正」の改正では、監査人が特に重要と判断した不正リスクに関する事項をKAMとして監査報告書に記載することが想定されています。
これによって、投資家は監査人がどの領域について不正リスクを重く見たのかを把握しやすくなります。
例えば、売上高の計上や経営者による会計上の見積もりなどが重要な不正リスクと判断される可能性があります。
ただし、不正リスクがKAMとして記載された場合も、不正が実際に発生しているという意味ではありません。
不正が発生する可能性を考慮して、監査人が特に慎重な監査を行ったということです。
投資家はKAMの変化にも注目したい
KAMを読むときは、単年度の内容だけでなく、前年との変化を見ることも有効です。
毎年同じKAMが続いている企業もあれば、新しいKAMが加わる企業もあります。
例えば、大型買収を実施したことでのれんの評価が新たにKAMになる場合があります。
事業環境が急速に悪化すれば、固定資産の減損が重要な監査領域になることもあります。
反対に、前年まで記載されていたKAMがなくなる場合もあります。
なぜ増えたのか、なぜ消えたのかを企業の決算説明資料や有価証券報告書と合わせて確認すると、その企業で何が変化しているのかを理解しやすくなります。
KAMは企業分析の入口になる
個人投資家が企業の会計処理を専門家と同じ水準で分析することは簡単ではありません。
そこで役立つのがKAMです。
監査人は企業の財務諸表を詳しく調べたうえで、特に重要だった監査領域を選んでいます。
そのため、まずKAMを確認し、そこから関連する財務諸表の注記や事業内容を調べていく方法があります。
例えば、のれんがKAMなら、企業がどのような買収を行い、どれだけののれんを抱えているのかを見ることができます。
減損がKAMなら、対象となる事業の収益性や将来計画を確認できます。
KAMは専門家だけの情報ではなく、個人投資家が企業を深く理解するための入口として利用できるのです。
結論
KAMとは、監査人が財務諸表監査のなかで特に重要だと判断した「監査上の主要な検討事項」です。
KAMに記載されたからといって、会計処理に誤りがあったり、不正が発生していたりするわけではありません。
重要なのは、監査人がその企業の決算のどこを難しい領域と考え、どのような監査を行ったのかが見えることです。
さらに2028年3月期から適用が見込まれる不正に関する監査基準の改正によって、不正リスクとKAMの関係はこれまで以上に重要になると考えられます。
企業分析では、決算短信の売上高や利益だけを見るのではなく、監査報告書のKAMまで確認する習慣を持つと、企業を見る角度を一つ増やすことができます。
監査報告書は決算書の最後に付いている難しい書類ではなく、企業の重要な会計リスクを知るための情報源なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載