インフレになるとモノやサービスの価格が上がります。
土地や建物などの不動産価格も上昇することがあります。
そのため、不動産を大量に保有するREITはインフレに強いと考えられることがあります。
確かに、インフレによって不動産価格や賃料が上昇すれば、REITには追い風になります。
しかし、現実はそれほど単純ではありません。
インフレによって金利が上昇すれば、REITの借入コストが増える可能性があります。
債券利回りが上がれば、REITの分配金の相対的な魅力も低下します。
不動産価格が上昇しているのにREITの投資口価格が低迷することがあるのは、このためです。
REITは実物資産を持っている
REITの大きな特徴は、投資先の中心が実物不動産であることです。
株式会社であれば、工場、ブランド、技術、現預金などさまざまな資産を持っています。
REITは投資家から集めた資金や借入金を使って、オフィス、住宅、物流施設、ホテルなどを保有します。
物価が上昇すると、建築資材や人件費なども上昇する場合があります。
新しい建物を建設するコストが上がれば、既存不動産の価値が相対的に高くなる可能性があります。
このため、実物資産を保有するREITにはインフレへの耐性があると考えられています。
不動産価格が上がればNAVも上がる
REITが保有する不動産の価値が上昇すれば、NAVにも影響します。
NAVはREITが保有する不動産などの資産から負債を差し引いた純資産価値を示す考え方です。
例えば、保有不動産の価値が1000億円から1200億円へ上昇し、負債が変わらなければ、純資産価値は増加します。
そのため、インフレによる不動産価格上昇はREITの資産価値にとってプラスになる可能性があります。
ところが、NAVが上昇しても投資口価格まで同じように上昇するとは限りません。
ここが重要です。
投資口価格は将来の収益も見る
投資家がREITを買う理由は、保有不動産の価値だけではありません。
そこから将来どの程度の分配金を受け取れるのかも重要です。
不動産価格が上昇していても、賃料収入がほとんど増えなければ、投資家に分配できる利益は大きく増えない可能性があります。
さらに金利上昇によって利払いが増えれば、利益が減ることもあります。
つまり、不動産価格が上昇することと、REITの収益力が高まることは同じではありません。
市場は資産価値と収益力の両方を見て投資口価格を決めます。
インフレ時には賃料を上げられるかが重要
REITがインフレの恩恵を受けるためには、賃料を引き上げられることが重要です。
物価が2パーセント上昇しても、賃料が何年間も変わらなければ、実質的な賃料収入の価値は低下します。
一方、物価上昇に合わせて賃料を引き上げることができれば、REITの収入も増えます。
収入が増えれば、管理費や修繕費、利払いなどの増加を吸収しやすくなります。
最終的には分配金の増加につながる可能性もあります。
インフレに強いREITかどうかを考えるときには、物件価格より賃料を上げる力を見ることが重要です。
住宅は賃料改定に時間がかかる
不動産の種類によって賃料の上げやすさは異なります。
住宅の場合、入居者が住んでいる途中で家賃を大幅に引き上げることは簡単ではありません。
新しい入居者との契約や契約更新などを通じて、徐々に賃料水準が変化する場合があります。
そのため、市場賃料が上昇してもREITの賃料収入に反映されるまで時間がかかることがあります。
一方、安定した入居需要がある地域なら、長期的には賃料上昇を取り込める可能性があります。
オフィスは需給の影響が大きい
オフィス賃料は企業の需要と供給の影響を強く受けます。
景気が良く、企業が人員を増やしてオフィスを拡張している局面では、賃料を引き上げやすくなる可能性があります。
一方、インフレでも景気が悪く、オフィス需要が弱ければ賃料を上げることは難しくなります。
新しい大型オフィスの供給が増えれば、競争が激しくなることもあります。
したがって、インフレ率が高いからオフィスREITの収益が自動的に増えるわけではありません。
ホテルは価格を変えやすい
ホテルは、他の不動産と比べて価格を短期間で変更しやすい特徴があります。
オフィスでは数年間の賃貸契約を結ぶことがあります。
ホテルは宿泊料金を日々変更できます。
旅行需要が強く、物価が上昇している局面では宿泊料金を引き上げやすくなります。
そのため、ホテル関連のREITはインフレによる価格上昇を比較的早く収益へ反映できる場合があります。
ただし、景気後退や旅行需要の減少が起きれば収益が急速に悪化する可能性もあります。
価格を変えやすいことは、収益の変動も大きくなりやすいことを意味します。
物流施設は契約期間を見る
物流施設では、テナントと比較的長期の契約を結ぶ場合があります。
長期契約は収益の安定につながります。
一方、インフレが急速に進んでも契約期間中の賃料を簡単に引き上げられない場合があります。
契約更新時に初めて市場賃料の上昇を反映できることもあります。
そのため、物流施設を見る場合には契約期間や賃料改定の仕組みが重要になります。
同じインフレでも、不動産の種類や契約内容によってREITへの影響は異なります。
インフレと金利上昇は同時に起こりやすい
REITにとって難しいのは、インフレによる追い風と金利上昇による逆風が同時に起きることです。
物価が上昇すれば、不動産価格や賃料が上がる可能性があります。
これはプラスです。
しかし、中央銀行がインフレを抑えるために金融政策を引き締めれば、市場金利が上昇する可能性があります。
REITの借入コストが上がります。
債券利回りも上昇します。
こちらはマイナスです。
どちらの影響が大きいかによって、REITの投資口価格は変わります。
現物不動産とREITが違う動きをする理由
現在の日本では、この関係が分かりやすく表れています。
現物不動産価格が上昇している一方で、J REIT市場は低迷してきました。
9日時点では、上場する58銘柄すべてのNAV倍率が1倍を下回っていました。
つまり、保有する不動産の純資産価値に比べて、投資口が市場で低く評価されている状態です。
現物不動産には価格上昇という追い風があります。
一方、金融商品としてのREITには金利上昇という逆風があります。
同じ不動産でも、直接保有する場合と証券市場でREITとして保有する場合では価格の動きが異なることがあります。
良いインフレと悪いインフレを分けて考える
REITにとって比較的望ましいのは、経済成長を伴うインフレです。
企業業績や賃金が伸び、オフィスや住宅、ホテルなどへの需要が強ければ、賃料や利用料金を引き上げやすくなります。
収入の増加によって金利上昇の影響を吸収できる可能性があります。
一方、景気が弱いのに物価や金利だけが上昇する状況では、賃料を上げにくいまま費用や利払いだけが増える可能性があります。
インフレ率の数字だけでREITに有利か不利かを判断することはできません。
インフレ時代にはREITの選別が進む
超低金利時代には、安定した分配金を出していること自体がREITの大きな魅力でした。
しかし、インフレと金利上昇が続く時代には、それだけでは十分ではありません。
賃料を上げられる物件を持っているか。
借入金の金利上昇を管理できているか。
低収益の物件を売却できるか。
成長分野の不動産を取得できるか。
こうした違いによってREIT間の格差が広がる可能性があります。
インフレに強いかどうかは、REITという金融商品の名前ではなく、個々のREITの中身によって決まります。
結論
REITは実物不動産を保有しているため、インフレに一定の強さを持つ金融商品です。
物価上昇によって不動産価格や賃料が上昇すれば、NAVや賃料収入が増える可能性があります。
しかし、不動産価格が上昇すればREITの投資口価格も必ず上昇するわけではありません。
インフレと同時に金利が上昇すれば、REITの借入コストが増え、債券との利回り競争も厳しくなるからです。
さらに、インフレへの強さは不動産の種類によって違います。
住宅、オフィス、ホテル、物流施設では賃料を変更できる速度や契約期間が異なります。
重要なのは、REITはインフレに強いと一括りにすることではありません。
保有不動産の賃料をどれだけ引き上げられるのか。
金利上昇をどこまで吸収できるのか。
その両方を見る必要があります。
現物不動産価格が上昇しているのにJ REITが低迷している現在の状況は、不動産価格とREIT価格が同じものではないことをよく示しています。
インフレ時代のREIT投資では、不動産を持っているという事実より、その不動産から増える収益を生み出せるかどうかが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 不動産高騰でもREIT低迷
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 よろい脱ぎ、時代に合った変革を