地方には森林、農地、水、再生可能エネルギー、農林水産物、観光資源など様々な資源があります。
ところが、地域で生活するために必要な食料やエネルギー、商品などを地域外から購入する割合が高くなると、地域で稼いだお金が外へ流出します。
一方、都市には大きな消費市場や企業、資金、人材がありますが、食料や水、エネルギーなどを都市だけで供給することはできません。
そこで、地域がそれぞれの資源を生かしながら自立性を高め、同時に他の地域とも支え合うという考え方が地域循環共生圏です。
環境政策として始まった考え方ですが、地域資源を産業や雇用へ結び付けるという意味では地方創生やSDGsとも深く関係します。
地域循環共生圏とは何か
地域循環共生圏とは、それぞれの地域が持つ自然資源や経済資源を活用しながら、地域内で資源やお金を循環させ、地域同士も補完し合う社会を目指す考え方です。
すべてを地域内だけで完結させることを意味するわけではありません。
地域には得意なものと不得意なものがあります。
森林の豊かな地域もあれば、農業が盛んな地域もあります。
再生可能エネルギーを豊富に生産できる地域もあります。
都市部には大きな市場や企業、人材、資金があります。
それぞれが持つ強みを生かし、足りないものを他地域と補完し合うことが基本になります。
地域内経済循環とは何か
地域循環共生圏を考えるうえで重要になるのが地域内経済循環です。
地域で企業や住民が稼いだお金が、地域内でどれだけ使われ、再び地域企業や住民の所得になるかを見る考え方です。
例えば地域住民が地元の店で買い物をします。
その店が地元企業から商品を仕入れます。
地元企業が地域住民を雇用します。
従業員が給与を地域の店で使います。
こうした流れが続けば、お金が地域内を何度も循環します。
反対に、地域外から商品やサービスを購入する割合が大きければ、お金は地域外へ流出します。
エネルギー代金は地域外へ流出しやすい
地域外への資金流出を考える際、重要な分野の一つがエネルギーです。
地域では電気やガス、ガソリンなどを利用します。
これらを地域外から購入すれば、住民や企業が支払った代金の多くは地域外へ流れます。
一方、地域内で太陽光、風力、小水力、バイオマスなどによってエネルギーを生産できれば、代金の一部を地域内に残せる可能性があります。
発電設備の維持管理を地元企業が担当すれば、地域の仕事にもなります。
環境政策だった再生可能エネルギーが、地域経済政策にもなるわけです。
森林も地域の経済資源になる
森林の多い地域では、木材や間伐材などを地域資源として利用できます。
建築材として利用する。
家具や製品へ加工する。
利用しにくい木材をバイオマス燃料として使う。
森林を観光や教育に活用する。
一つの森林から様々な経済活動を生み出すことができます。
適切な森林管理が進めば、防災や二酸化炭素の吸収、生物多様性の保全にもつながります。
経済、環境、防災など複数の効果を一つの地域資源から生み出すところに地域循環共生圏の特徴があります。
農林水産資源を地域で高付加価値化する
農林水産物も重要な地域資源です。
農産物をそのまま地域外へ出荷するだけではなく、地域内で加工すれば付加価値を地域に残すことができます。
例えば果物をジャムや菓子に加工する。
野菜を加工食品にする。
魚を加工して地域ブランドの商品にする。
さらに飲食店や観光と組み合わせることもできます。
栃木県小山市で桑をお茶やパン、ジャムなどに加工している取り組みも、地域資源の価値を地域内で高める事例と考えることができます。
廃棄物も地域資源として考える
地域循環共生圏では、これまで捨てていたものも資源として考えることができます。
福井県の繊維産業では、製造工程から出る廃材を新しい糸へ再生する取り組みが進められています。
ある企業にとって不要なものが、別の企業にとって原材料になることがあります。
食品残さを肥料にする。
家畜排せつ物からエネルギーをつくる。
間伐材を燃料にする。
地域内で資源を循環させることで、廃棄物を減らしながら新しい産業をつくれる可能性があります。
地域だけですべてを賄うわけではない
地域循環共生圏という言葉から、地域内ですべてを自給する仕組みだと思われることがあります。
しかし、それは現実的ではありません。
地方には大きな消費市場が不足している場合があります。
専門的な技術や資金が地域内にないこともあります。
都市側も食料や水、エネルギーなどを地方に依存しています。
そこで地域間の連携が必要になります。
地方が食料やエネルギー、自然環境などを提供する。
都市が資金、人材、技術、市場を提供する。
双方が一方的に依存するのではなく、互いの強みを交換する関係をつくることが重要です。
都市と地方の関係を変える
従来、地方から都市へ若者や資金が流出する構造が問題になってきました。
地域循環共生圏では、都市と地方の関係を一方向のものにしないことが重要になります。
例えば都市企業が地方の森林保全事業へ資金を提供する。
地方の再生可能エネルギーを都市で利用する。
都市住民が地方の農産物を購入する。
企業の人材が地方の地域課題解決に参加する。
地方で生まれた環境価値を都市企業が利用する。
こうした様々な交換を通じて、地域間で資源や資金を循環させることができます。
SDGsとは何が違うのか
SDGsは、貧困、教育、福祉、経済、環境など17の目標から構成される世界共通の目標です。
地域循環共生圏は、それらの目標を地域で実現するための具体的な地域づくりの考え方の一つと捉えることができます。
SDGsが何を目指すのかを示す大きな枠組みだとすれば、地域循環共生圏は地域資源をどう利用し、地域間でどう支え合うのかという仕組みに重点があります。
両者は競合するものではありません。
地域循環共生圏を進めることが、複数のSDGs目標の達成につながる関係にあります。
サーキュラーエコノミーとの違い
サーキュラーエコノミーも資源循環を重視します。
ただし、サーキュラーエコノミーでは製品や原材料をできるだけ長く利用し、廃棄物を減らすことに重点があります。
地域循環共生圏では、それに加えて地域経済や自然環境、地域間の関係まで含めて考えます。
資源だけでなく、お金、人材、エネルギーなども地域内や地域間で循環させることを目指します。
循環経済の考え方を地域づくりへ広げたものとして見ることもできます。
地域企業が主役になる
地域循環共生圏を実現するためには、自治体だけでは不十分です。
実際に商品をつくり、サービスを提供し、人を雇用するのは企業だからです。
農業者。
林業者。
製造業者。
物流企業。
金融機関。
小売店。
観光事業者。
エネルギー事業者。
こうした地域企業が連携することで資源やお金の循環が生まれます。
自治体には、企業同士をつなぎ、地域全体の方向性を示す役割が求められます。
地域金融機関も重要になる
地域内で新しい事業を始めるためには資金が必要です。
再生可能エネルギー設備を導入する。
食品加工施設を整備する。
廃棄物を再資源化する設備をつくる。
新しい地域交通サービスを始める。
こうした投資を支えるのが銀行や信用金庫などの地域金融機関です。
地域金融機関が地域資源の可能性を理解し、企業同士をつなぎ、資金を供給できれば、地域内の投資を増やすことができます。
地域で集めた預金が地域企業への融資として使われれば、金融面でも地域内循環が生まれます。
地域内だけにこだわりすぎない
一方、地域内循環を重視するあまり、何でも地域内で調達すればよいと考えるのも適切ではありません。
地域外企業の方が優れた技術を持っている場合があります。
地域内で生産するより、外部から購入した方が効率的な商品もあります。
重要なのは地域外との取引をなくすことではありません。
地域が持つ強みを生かし、外部から得るべきものと地域内で循環させるものを適切に組み合わせることです。
地域を閉じるのではなく、外部とつながりながら地域の自立性を高めることが求められます。
地域の経済構造を知ることから始まる
地域循環共生圏をつくるためには、まず地域から何が流出しているのかを知る必要があります。
地域住民はどこで買い物をしているのか。
企業はどこから原材料を購入しているのか。
エネルギー代金はいくら地域外へ出ているのか。
地域にはどのような未利用資源があるのか。
どの産業が地域外から所得を稼いでいるのか。
こうした地域の経済構造を把握することで、どこに新しい事業の可能性があるのかが見えてきます。
地域資源を探すことと、お金の流れを調べることの両方が重要です。
結論
地域循環共生圏とは、それぞれの地域が持つ自然資源、産業、人材などを生かしながら、資源やお金を地域内で循環させ、さらに地域同士が互いの強みを生かして支え合う仕組みです。
単なる環境政策ではありません。
再生可能エネルギーを地域で生産すれば、環境負荷を減らしながらエネルギー代金を地域内に残せる可能性があります。
農林水産物を地域で加工すれば、付加価値と雇用を地域に残すことができます。
廃棄物を新しい原材料へ変えれば、環境問題の解決と新産業の創出を同時に目指せます。
重要なのは、すべてを地域内だけで完結させることではありません。
地方の自然資源と都市の資金や人材、技術などを組み合わせ、地域同士が補完し合うことです。
人口減少時代には、外部から企業や人口を呼び込むことだけを地方創生と考えるのではなく、すでに地域に存在する資源を見直し、その価値を地域内で高める視点が重要になります。
地域で生まれた資源とお金をできるだけ地域に残しながら、必要なものは外部と交換する。
地域循環共生圏は、環境と経済を対立させず、両方を持続させる地域づくりの考え方といえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 自治体SDGs、企業が相棒
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 SDGsパートナー 甲府の登山用品店、天然素材の衣類提案