株主総会資料の電子提供制度とは何か 分厚い総会資料を郵送しなくてもよくなった仕組み編

経営

上場企業の株主総会が近づくと、株主には総会に関する案内が届きます。

かつては事業報告や計算書類、株主総会の議案などをまとめた分厚い資料を、株主一人ひとりに郵送する方法が一般的でした。

大企業になると総会資料が100ページを超えることもあります。

株主が数10万人、数100万人いる企業がこうした資料を全員に郵送すれば、印刷費や郵便料金だけでも大きな負担になります。

そこで導入されたのが株主総会資料の電子提供制度です。

総会資料そのものを紙で届けるのではなく、インターネット上で株主が閲覧できるようにする仕組みです。

電子提供制度とは何か

電子提供制度とは、株主総会資料を自社のウェブサイトなどに掲載し、株主がインターネットを通じて確認できるようにする制度です。

2022年施行の改正会社法によって制度が導入され、上場企業には電子提供制度の利用が義務づけられました。

2023年3月以降に開催される株主総会から本格的に適用されています。

従来は株主総会に必要な情報をまとめた資料を株主へ郵送することが基本でした。

電子提供制度では、情報そのものをインターネット上に置きます。

株主は案内されたウェブサイトへアクセスして内容を確認します。

紙そのものを届ける仕組みから、情報へアクセスする方法を届ける仕組みへ変わったと考えると分かりやすいでしょう。

どのような資料が電子提供されるのか

株主総会資料には、株主が議案について判断するための重要な情報が含まれています。

たとえば、

事業報告

計算書類

監査報告

株主総会の議案

取締役候補者に関する情報

などです。

株主はこうした情報を確認したうえで、取締役の選任などの議案に賛成するか反対するかを判断します。

電子提供制度になったからといって、株主へ提供する情報そのものが不要になるわけではありません。

情報を提供する手段が紙からインターネットへ移ったということです。

アクセス通知書とは何か

総会資料をインターネットに掲載しただけでは、株主はどこを見ればよいのか分かりません。

そこで企業から株主へ送られるのがアクセス通知書です。

アクセス通知書には、株主総会の日時などに加えて、総会資料を閲覧できるウェブサイトのURLなどが記載されます。

株主は通知書を受け取ったあと、スマートフォンやパソコンなどを使って指定された場所へアクセスします。

そこで事業報告や議案などを確認します。

つまりアクセス通知書は、総会資料そのものではなく、総会資料が置かれている場所を知らせる案内です。

議決権行使書とは何が違うのか

アクセス通知書と一緒に送られるものとして、議決権行使書があります。

両者の役割は異なります。

アクセス通知書は、総会資料を見るための案内です。

議決権行使書は、株主が株主総会の議案について賛成や反対の意思を示すために使います。

たとえば取締役選任議案があれば、株主は候補者の情報を総会資料で確認します。

そのうえで議決権行使書などを利用して意思表示します。

つまり、

アクセス通知書は情報を見るためのもの

議決権行使書は意思を示すためのもの

という違いがあります。

電子化すると企業の負担を減らせる

電子提供制度の大きな目的の一つが企業負担の軽減です。

紙の総会資料を株主全員に送る場合、

大量の資料を印刷する

封筒へ入れる

配送の準備をする

郵便料金を支払う

といった作業が必要です。

株主が増えるほど費用も増えます。

一方、インターネット上で資料を提供すれば、株主数が増えるたびに同じページ数の資料を印刷する必要はありません。

デジタル化によって株主一人あたりの情報提供コストを下げやすくなります。

紙の総会資料には大きなコストがかかっている

東京証券取引所の2024年時点の調査によると、株主総会書類などの郵送物は上場企業全体で年間約2.2億件ありました。

重量では約1万4000トンです。

郵便料金だけでも約300億円のコストがかかっていました。

これに印刷費や封入費なども加わります。

上場企業全体で考えると、株主への紙の情報提供は巨大なコストです。

電子提供制度は、こうした負担を減らすための重要な仕組みです。

なぜ電子提供制度ができても紙が残っているのか

ところが電子提供制度が導入されても、紙の総会資料はなくなっていません。

大きな理由が書面交付請求制度です。

インターネットの利用が難しい株主などへの配慮から、株主が紙の資料を求めた場合、企業が書面を交付する仕組みが残されています。

高齢の株主などにとっては重要な制度です。

しかし企業側から見ると、一部の株主から紙の資料を求められる可能性があるため、紙の総会資料を作成して発送できる体制を維持する必要があります。

電子提供制度を導入しただけでは、完全なペーパーレスにならない理由です。

すべての株主に紙を送る企業も多い

企業にとっては、誰が書面交付を請求するのかを確認し、それぞれ個別に対応することにも事務負担があります。

そのため、最初からすべての株主に紙の資料を送る企業もあります。

東京証券取引所によると、2026年6月の株主総会でアクセス通知書のみの送付に切り替えた企業は、全上場企業の8.6%にとどまりました。

事業報告や計算書類、監査報告など資料一式を送付した企業は47.4%でした。

アクセス通知書とサマリー資料を送った企業も44.0%ありました。

制度上は電子化されていても、実務では紙が広く残っていることが分かります。

書面交付請求の廃止が検討されている

政府は2027年にも会社法を改正し、株主による総会資料の書面交付請求制度を廃止する方向で検討しています。

これが実現すれば、企業は個別の株主から紙の総会資料を求められることを前提として発送体制を維持する必要がなくなります。

電子提供制度がより本格的なデジタル制度になる可能性があります。

ただし、インターネットを利用することが難しい高齢株主などへの配慮は課題として残ります。

政府は制度変更を周知するため、法改正後2年から3年程度の経過措置も検討しています。

アクセス通知書の郵送は残る

書面交付請求制度が廃止されたとしても、すべての郵便物がなくなる予定ではありません。

企業が株主総会の2週間前までに、総会資料を閲覧できるURLなどを記載したアクセス通知書を株主へ郵送する仕組みは残る予定です。

つまり、

総会資料そのものはインターネット

総会資料の場所を知らせる通知は郵便

という仕組みです。

完全に紙をゼロにするというより、100ページを超えることもある分厚い資料の郵送を減らすことに大きな意味があります。

電子化は単元株撤廃とも関係する

総会資料の電子化には、さらに大きな意味があります。

単元株制度の見直しです。

現在は原則として100株単位で日本株を売買します。

これを1株単位にすれば、最低投資額は大幅に下がります。

その結果、個人株主が増える可能性があります。

しかし株主が増えるたびに紙の総会資料を郵送していれば、企業の株主管理コストは大きく膨らみます。

そこで先に総会資料を電子化し、株主一人あたりの管理コストを下げる必要があります。

総会資料の電子化は、将来の1株投資を支える市場インフラという側面もあるのです。

結論

株主総会資料の電子提供制度とは、事業報告や計算書類、株主総会の議案などを紙で株主へ郵送する代わりに、インターネット上で提供する仕組みです。

2022年施行の改正会社法によって導入され、2023年3月以降に開催される株主総会から上場企業に適用されています。

企業は総会資料をウェブサイトなどに掲載し、株主には資料を見るためのURLなどを記載したアクセス通知書を送ります。

議決権行使書は、資料を見るためのものではなく、議案について株主が意思表示するためのものです。

電子提供制度には、企業の印刷費や郵便料金などを減らす効果があります。

一方、現在は書面交付請求制度があるため、企業は紙の総会資料を用意する体制を完全にはなくせません。

政府が書面交付請求制度の廃止を検討しているのは、総会のデジタル化をさらに進めるためです。

そして、その先には単元株制度の見直しがあります。

1株から投資できるようになって株主が大幅に増えても対応できるようにするためには、株主管理そのものを紙からデジタルへ変える必要があります。

株主総会資料の電子提供制度は、紙を減らすためだけの制度ではありません。

個人株主が増える時代の株式市場を支えるための基盤でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 総会資料の書面交付を廃止 企業の負担軽く

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 総会デジタル化、少額投資後押し

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