ステーブルコインは海外送金をどう変えるのか 銀行を何行も経由せず資金を動かす仕組み編

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日本から海外へお金を送る場合、国内の銀行振込ほど単純ではありません。

送金する銀行と受取人の銀行が直接取引関係を持っていなければ、その間に別の銀行が入ることがあります。

国境を越えて複数の金融機関が関係するため、国内送金に比べて時間や手数料がかかる場合があります。

これに対してステーブルコインでは、ブロックチェーンなどの共通ネットワークを利用して、送り手から受け手へデジタル資産を移転できます。

例えば日本企業が海外企業へ100万ドルを支払う場合、100万ドル相当のドル建てステーブルコインを相手のウォレットへ送るという方法が考えられます。

ステーブルコインが海外送金で注目される理由は、単に送金速度が速くなる可能性があるからではありません。

国ごとに分断された銀行決済網とは異なる、24時間動く国際的な決済基盤を作れる可能性があるからです。

現在の海外送金はどうなっているのか

例えば日本企業A社が米国企業B社へ10万ドルを支払うとします。

A社は日本の取引銀行へ海外送金を依頼します。

しかしA社の取引銀行が、B社の取引銀行との間で直接決済できるとは限りません。

そこで両銀行の間に別の金融機関が入り、資金を受け渡すことがあります。

単純化すると、

日本企業

日本の銀行

中継する銀行

海外の銀行

海外企業

という流れです。

実際の経路は取引によって異なりますが、国内振込より多くの金融機関が関係することがあります。

そのため海外送金では、資金がどの経路を通るのかという問題が重要になります。

コルレス銀行とは何か

海外送金を理解するときに登場するのがコルレス銀行です。

銀行が海外の銀行と決済を行うためには、海外の金融機関との取引関係が必要になります。

こうした銀行同士の関係をコルレス関係といいます。

例えば日本の銀行がドル決済を行うために、米国の銀行に口座を持つことがあります。

その口座を利用してドル資金を受け渡します。

私たちが海外送金をするとき、利用者自身がこうした銀行間取引を意識することはほとんどありません。

しかし銀行の裏側では、国境を越えて資金を決済するためのネットワークが存在しています。

世界の銀行が互いに口座関係などを利用することで、国際送金が成り立っているわけです。

なぜ銀行を何行も経由することがあるのか

世界中のすべての銀行が、互いに直接取引関係を持つことは現実的ではありません。

例えば日本の地方銀行と海外の小規模銀行が直接決済関係を持っていないことがあります。

その場合、双方と取引関係を持つ大手銀行などが間に入ります。

これは宅配便で考えると分かりやすいでしょう。

送り主から受取人まで荷物を一人の配達員が直接運ぶとは限りません。

営業所や物流拠点を経由しながら目的地へ運ばれます。

国際送金でも、複数の金融機関を経由して最終的な受取銀行まで資金を届ける場合があります。

この仕組みによって世界中へ資金を送れる一方、経由する金融機関が増えるほど処理も複雑になります。

海外送金では手数料が発生する

海外送金にはさまざまなコストが発生します。

送金銀行へ支払う手数料があります。

中継銀行などで手数料が差し引かれる場合もあります。

受取銀行側で手数料が発生することもあります。

さらに円からドルへ交換するのであれば、為替交換に伴うコストもあります。

例えば日本企業が100万ドルを海外へ送る場合、単に100万ドル分の円を用意すればよいとは限りません。

銀行の海外送金手数料や為替コストなどを含めて考える必要があります。

特に企業が毎月大量の海外送金を行う場合、1件ごとの小さなコストでも年間では大きな金額になります。

着金まで時間がかかる場合もある

海外送金では、国内送金に比べて着金まで時間がかかる場合があります。

複数の金融機関が取引を確認し、各国の決済システムを通じて処理するためです。

さらに国ごとに営業時間や休日が異なります。

日本では営業日でも、送金先の国では休日ということがあります。

時差もあります。

そのため企業から見ると、

送金手続きをした

しかし相手企業ではまだ入金を確認できない

という時間が発生することがあります。

この時間差は、企業の資金管理にも影響します。

ステーブルコインでは共通ネットワークを使える

ステーブルコインでは考え方が変わります。

例えば日本企業A社が海外企業B社へ10万ドル相当のドル建てステーブルコインを送るとします。

A社が利用するウォレットなどからB社のウォレットなどへ、10万ドル相当のステーブルコインを移転します。

ブロックチェーンなどのネットワーク上で取引が処理されれば、B社はステーブルコインを受け取ります。

ここでは、

日本の銀行

中継銀行

海外の銀行

という銀行間の送金経路をそのまま利用する必要はありません。

送り手と受け手が同じステーブルコインと対応するネットワークを利用できれば、デジタル資産をネットワーク上で移転できます。

銀行を完全に使わなくなるわけではない

ただし、ステーブルコインによる海外送金を銀行が完全に不要になる仕組みと考えるのは適切ではありません。

例えば日本企業が円しか持っていない場合、まず円からステーブルコインへ交換する必要があります。

海外企業が受け取ったステーブルコインを現地の銀行預金へ変えたいなら、ステーブルコインを法定通貨へ交換する必要があります。

つまり、

法定通貨からステーブルコインへ入る入口

ステーブルコインから法定通貨へ戻る出口

では金融機関や交換サービスなどが重要になります。

ステーブルコインが変える可能性があるのは、特にその入口と出口の間にある国際的な資金移動の部分です。

送金時間を短縮できる可能性がある

ステーブルコインのネットワークは、原則として国境や銀行の店舗営業時間とは関係なく動かすことができます。

例えば日本時間の日曜日午後10時に海外企業へ送金するとします。

従来の銀行送金では、関係する金融機関や決済システムの処理時間を考える必要があります。

一方、ステーブルコインではネットワークが正常に稼働していれば、休日や夜間でも取引を処理できる可能性があります。

相手企業もネットワーク上で着金を確認できます。

そのため海外企業との取引で、

金曜日に送金したが週明けまで確認できない

といった時間差を小さくできる可能性があります。

24時間決済の意味は企業ほど大きい

個人が年に1回海外送金する程度なら、数時間の差は大きな問題にならないかもしれません。

しかし世界中で事業を行う企業は違います。

日本が夜でも米国では昼です。

米国が夜になれば欧州やアジアの市場が動きます。

世界企業の経済活動は24時間続いています。

ところが資金決済は国ごとの銀行営業時間や決済システムに影響されます。

ステーブルコインによって24時間利用できる決済インフラが整えば、経済活動の時間と資金決済の時間を近づけられる可能性があります。

これはグローバル企業の資金管理に大きな意味を持ちます。

企業グループ内の資金移動にも利用できる

海外送金というと商品代金の支払いを想像しますが、企業グループ内部でも大量の国際送金が行われています。

例えば日本企業が、

米国子会社

シンガポール子会社

欧州子会社

を持っているとします。

ある子会社では資金が余り、別の子会社では資金が不足していることがあります。

企業グループでは、こうした資金を効率的に管理する必要があります。

ステーブルコインを利用してグループ企業間で資金を迅速に移動できれば、余剰資金をより効率的に利用できる可能性があります。

企業間決済でステーブルコインが注目される理由の一つです。

円建てでも海外へ送れる

海外送金だからドル建てステーブルコインでなければならないわけではありません。

例えば海外企業が日本企業から商品を購入し、代金が1億円だとします。

契約が円建てなら、海外企業が1億円相当の円建てステーブルコインを日本企業へ送る方法も考えられます。

この場合、日本企業は為替交換をせずに円相当の価値を受け取れます。

逆に日本企業がドル建てステーブルコインで代金を受け取れば、円へ戻す際に為替相場の影響を受けます。

ステーブルコインになっても、取引をどの通貨建てにするのかという問題は残ります。

為替取引も変わる可能性がある

円建てステーブルコインとドル建てステーブルコインが広く流通すれば、外国為替取引そのものもデジタル化する可能性があります。

例えば1ドル150円のとき、

1万ドル相当のドル建てステーブルコイン

150万円相当の円建てステーブルコイン

を交換する仕組みです。

双方の資産がデジタル化されていれば、円とドルを同時に交換する仕組みを作れる可能性があります。

これによって、

円を売ったのにドルを受け取れない

ドルを渡したのに円を受け取れない

という決済リスクを小さくする仕組みも考えられます。

資産の同時決済だけでなく、異なる通貨同士の同時決済にもデジタル通貨を応用できる可能性があります。

マネーロンダリング対策は必要になる

国境を越えて簡単に送金できることは便利ですが、同時に不正送金への対策も重要になります。

誰でも匿名で何億円でも世界中へ自由に送れる仕組みにすれば、犯罪収益の移転などに利用される可能性があります。

そのため実際のステーブルコインサービスでは、

本人確認

取引確認

マネーロンダリング対策

制裁対象者への対応

不正取引の監視

などが重要になります。

国際送金を効率化することと、金融犯罪を防止することを両立させる必要があります。

ステーブルコインだから金融規制が不要になるわけではありません。

送金コストが必ず安くなるとは限らない

ステーブルコインには送金コストを下げられる可能性がありますが、必ず従来の海外送金より安くなるとは限りません。

円からステーブルコインへ交換する費用があります。

ブロックチェーンを利用するための手数料が発生する場合があります。

受取側で法定通貨へ交換する費用もあります。

円からドル建てステーブルコインへ交換するなら、為替コストも考える必要があります。

したがって比較するときには、

銀行送金の手数料

為替コスト

ステーブルコインの取得費用

送金費用

償還費用

まで含めた総コストを見る必要があります。

重要なのは、ステーブルコインなら無料ということではなく、複数の金融機関を経由してきた国際決済の構造を簡素化できる可能性があることです。

結論

現在の海外送金では、送金銀行と受取銀行だけでなく、コルレス銀行など複数の金融機関が関係する場合があります。

この仕組みによって世界中へ安全に資金を送れる一方、国内送金と比べて時間や手数料がかかることがあります。

ステーブルコインでは、送り手と受け手が共通のブロックチェーンなどを利用することで、デジタル資産を国境を越えて直接移転できる可能性があります。

銀行を何行も経由する従来の仕組みをそのまま使わず、24時間動く新しい国際決済基盤を構築できる可能性があるわけです。

ただし銀行が完全に不要になるわけではありません。

法定通貨からステーブルコインへ交換する入口と、ステーブルコインから法定通貨へ戻す出口は必要です。

本人確認やマネーロンダリング対策も欠かせません。

ステーブルコインが海外送金にもたらす最大の変化は、単に送金時間を数時間短縮することではありません。

国ごと、銀行ごとに分かれていた決済インフラの上に、国境を越えて24時間動く共通のデジタル決済層を作れる可能性があることです。

ステーブルコインが普及すれば、海外送金は銀行から銀行へお金をリレーする仕組みから、共通のデジタルネットワーク上で価値そのものを移転する仕組みへ変わっていく可能性があるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 家・車もステーブルコイン

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