健康経営は採用に有利なのか 社員を大切にする会社が人材を集める時代編

人生100年時代

企業が社員の健康づくりに取り組む目的というと、病気の予防や医療費の抑制、生産性の向上などが考えられます。

しかし、人手不足が深刻になる日本では、もう一つ重要な効果が注目されています。

採用です。

給与が高い。

休日が多い。

勤務地が希望に合っている。

こうした条件は、これからも会社を選ぶ重要な要素です。

一方で、長く安心して働けるのか、社員を大切にしている会社なのかという視点も、求職者にとって重要になります。

企業による健康経営やスポーツ推進は、単なる福利厚生ではなく、社員を大切にする企業であることを示す一つの材料になります。

健康への投資が企業の採用ブランドになり、人材獲得競争にも影響する時代が始まりつつあります。

人手不足で企業と求職者の関係が変わる

人口減少が進む日本では、企業が必要な人材を簡単に採用できる時代ではなくなっています。

企業が応募者を選ぶだけではありません。

求職者も複数の企業を比較し、自分が働く会社を選びます。

この変化によって、企業には働く場所として選ばれる努力が必要になります。

給与だけではありません。

労働時間。

休日。

柔軟な働き方。

育児や介護との両立。

職場環境。

健康への配慮。

さまざまな条件が比較されます。

健康経営も、こうした企業選びの要素の一つになる可能性があります。

福利厚生も会社選びの判断材料になる

求職者が企業を調べるときには、仕事内容や給与だけでなく福利厚生を見ることがあります。

スポーツジムの利用補助。

健康相談。

ウォーキングイベント。

健康ポイント。

運動時間の確保。

こうした制度があれば、それ自体に魅力を感じる人もいるでしょう。

しかし、さらに重要なのは制度の背景です。

社員の健康に会社がお金や時間を使っていることは、社員を単なる労働力ではなく、長く働いてもらう人材として考えていることを示す材料になります。

健康経営の価値は、福利厚生メニューの数だけでは測れません。

会社が社員をどのように考えているかという経営姿勢にも表れます。

健康経営が企業ブランドになる

企業には商品やサービスのブランドだけでなく、働く場所としてのブランドがあります。

この会社で働きたい。

この会社なら長く働けそうだ。

社員を大切にしている会社だ。

求職者からそう思ってもらえる企業は、人材獲得で有利になる可能性があります。

健康経営は、そのブランドをつくる一つの方法です。

社員の健康を本人任せにせず、企業も積極的に支援する。

病気になってから対応するだけでなく、健康な状態を維持できる職場をつくる。

こうした姿勢を外部へ伝えることで、採用活動にも利用できます。

健康経営を志望動機にする人もいる

日本経済新聞の記事では、運送業のサイショウ・エクスプレスの事例が紹介されています。

同社は月1回、ヨガやダンスなどを業務時間内に実施し、トラック内でも簡単にできる体操を広めています。

その結果、ドライバーの病欠が減ったとされています。

さらに注目したいのが採用への効果です。

同社では離職が減り、健康経営を志望動機に掲げる就職希望者が増えたといいます。

運送業では高齢化が進み、人材確保が大きな課題です。

その中で社員の健康を重視する会社であることが、採用上の特徴になっているわけです。

特に人手不足業界では意味が大きい

健康経営による採用効果は、人手不足が深刻な業界ほど重要になる可能性があります。

運送。

建設。

介護。

製造。

サービス。

こうした業界では、必要な人数を採用できないことが事業成長そのものを制約する場合があります。

さらに身体を使う仕事では、社員が健康であることが就業継続にも直結します。

新しい人を採用する。

現在の社員に長く働いてもらう。

この二つを同時に進めなければなりません。

健康経営は、その両方に関係します。

社員を大切にする会社という評価が採用につながり、実際の健康施策が既存社員の就業継続を支えるからです。

採用して終わりではない

企業の人材戦略では、採用人数が注目されがちです。

しかし、せっかく採用した社員が短期間で辞めてしまえば、再び採用活動が必要になります。

求人広告を出す。

応募者を選考する。

面接する。

入社手続きをする。

研修する。

仕事を覚えてもらう。

一人の社員を戦力化するまでには、多くの時間と費用がかかります。

したがって、本当に重要なのは採用人数だけではありません。

採用した社員に長く働いてもらうことです。

健康経営は採用施策であると同時に、人材定着施策でもあります。

採用コストと離職コストを一体で考える

人手不足の時代には、採用と離職を別々に考えない方がよいでしょう。

10人採用しても10人辞めれば、人員は増えません。

それどころか、採用や教育に使った費用が発生します。

企業は採用コストだけでなく、社員が辞めることで発生する離職コストにも目を向ける必要があります。

健康上の問題による離職や休職を減らせれば、人材への投資を長期間生かすことができます。

その意味では、健康経営に使う費用と採用費用は無関係ではありません。

健康投資によって人材定着率が高まれば、結果として採用負担を軽減できる可能性があります。

社員の口コミも採用ブランドをつくる

企業が自社の健康経営を宣伝するだけでは、求職者から十分に信頼されない場合があります。

実際に働いている社員がどう感じているかも重要です。

会社が健康を大切にしてくれる。

休暇を取りやすい。

無理な働き方を求められない。

業務時間中にも健康づくりの機会がある。

こうした実感が社員にあれば、口コミや知人への紹介などを通じて企業の評判につながる可能性があります。

逆に、健康経営を掲げていても長時間労働が常態化していれば、企業イメージとの矛盾が生まれます。

採用ブランドは制度をつくっただけでは完成しません。

社員が実際に体験している職場環境によって形成されます。

健康経営の看板だけでは意味がない

健康経営が採用に有利になるからといって、制度を形式的に導入すればよいわけではありません。

ウォーキングイベントを開催している。

健康ポイント制度がある。

スポーツイベントを実施している。

それだけで社員を大切にする会社になるわけではありません。

長時間労働が続いている。

有給休暇を取りにくい。

メンタル不調を相談できない。

運動イベントへの参加を事実上強制される。

このような職場では、健康施策が逆に企業への不信感につながる可能性があります。

健康経営は、働き方そのものと一体で考える必要があります。

若い人だけを対象にした施策ではない

健康経営による採用力というと、新卒や若手人材を想像するかもしれません。

しかし、人手不足が進めば、企業が採用対象とする年齢層も広がります。

中高年の転職者。

定年後の再雇用者。

シニア人材。

育児や介護から職場へ戻る人。

多様な人材が働くようになります。

特に年齢が高くなるほど、長く健康に働ける環境は会社選びの重要な条件になる可能性があります。

70歳まで働く社会を考えれば、健康経営は若手採用のためだけではなく、幅広い世代を確保する人材戦略になります。

人的資本投資として採用に結び付ける

健康経営を採用活動に生かすためには、単に福利厚生制度として説明するだけでは十分ではありません。

企業がなぜ社員の健康へ投資するのかを伝える必要があります。

社員に長く働いてもらいたい。

心身ともに健康な状態で能力を発揮してもらいたい。

仕事と生活を両立してもらいたい。

社員の成長を長期的に支援したい。

こうした人材に対する考え方まで伝えることで、健康経営は人的資本経営の一部になります。

求職者が見るのは、スポーツイベントがあるかどうかだけではありません。

自分がこの会社でどのように扱われるのかということです。

選ばれる企業になることが重要になる

労働力が豊富だった時代には、企業側が応募者を選ぶ力が強くありました。

しかし人口減少が続けば、状況は変わります。

企業も働く人から選ばれます。

給与を上げることはもちろん重要です。

しかし、すべての企業が給与だけで人材獲得競争を続けられるわけではありません。

そこで職場環境や働き方、健康支援などによって企業としての魅力を高める必要があります。

社員を大切にすることが人材確保につながり、人材が定着することで企業の競争力が高まる。

健康経営は、この循環をつくるための一つの手段になります。

結論

健康経営は、社員の病気を予防するためだけの取り組みではありません。

人手不足が深刻になる日本では、企業が人材から選ばれるための採用戦略としても重要性を増しています。

求職者は給与や休日だけでなく、長く安心して働ける会社なのか、社員を大切にする会社なのかという点も見ています。

社員の運動や健康を企業が支援することは、その経営姿勢を示す一つの材料になります。

さらに健康経営によって病欠や休職、離職が減れば、採用した人材に長く働いてもらうことにもつながります。

つまり、健康経営には採用と定着の両方に働きかける可能性があります。

ただし、健康経営という看板を掲げるだけでは意味がありません。

長時間労働を放置したままスポーツイベントだけを開催しても、社員を大切にする企業とはいえないでしょう。

健康施策と働き方改革を一体で進め、実際に働いている社員がその効果を実感できることが重要です。

人材を採用して使う企業から、人材へ投資し、健康を守り、長く活躍してもらう企業へ。

人口減少時代の採用競争では、社員を大切にすることそのものが企業の強さになっていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 スポーツ推進企業に支援

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