健康経営と離職率とは何か 社員の健康支援が人材定着につながる理由編

人生100年時代

人手不足が深刻になる日本では、人材を採用することと同じくらい、採用した社員に長く働いてもらうことが重要になっています。

せっかく人を採用しても、短期間で辞めてしまえば、企業は再び採用活動をしなければなりません。

そこで注目されているのが健康経営と人材定着の関係です。

社員が心身の健康を保ちながら働ける職場をつくる。

運動する機会を用意する。

働き過ぎを防ぐ。

メンタルヘルスを支援する。

こうした取り組みによって、病気や体力面の問題を理由とする休職や離職を減らすことができれば、企業にとって大きな意味があります。

これまで社員の健康は福利厚生の問題として扱われることが少なくありませんでした。

しかし、人材を簡単に補充できない時代には、社員の健康を守ることそのものが人材戦略になります。

離職率とは何か

離職率とは、一定期間にどれだけの社員が会社を辞めたのかを示す指標です。

離職にはさまざまな理由があります。

よりよい仕事への転職。

給与や処遇への不満。

仕事内容とのミスマッチ。

職場の人間関係。

育児や介護。

そして本人の健康問題です。

企業がすべての離職を防ぐことはできません。

本人にとって転職が望ましい場合もあります。

重要なのは、会社の環境を改善することで防ぐことのできた離職まで放置しないことです。

健康上の問題もその一つです。

健康問題が働き続けることを難しくする

健康と就業は密接に関係しています。

体力が低下する。

慢性的な不調を抱える。

メンタル不調になる。

こうした状態が続けば、本人に働く意思があっても仕事を続けることが難しくなる場合があります。

特に年齢が高くなるほど、健康状態は就業継続を左右する重要な要素になります。

労働政策研究・研修機構の調査では、55歳以上の就業希望者が仕事に就けなかった理由の4割は、自身または家族の健康問題だったとされています。

定年を延ばしたり70歳まで働ける制度をつくったりするだけでは、就業期間を延ばすことはできません。

実際に働ける健康状態を維持する必要があります。

健康支援は離職予防にもなる

企業が社員の健康を支援する意味は、病気になった社員を支えることだけではありません。

不調が深刻になる前の段階から健康を維持することにもあります。

ウォーキングを促す。

短時間の体操を取り入れる。

健康診断を活用する。

適切な休憩を取れるようにする。

長時間労働を減らす。

メンタルヘルスの相談体制を整える。

一つ一つの施策だけで離職率が大幅に下がるとは限りません。

しかし、複数の施策を組み合わせて社員が健康に働ける環境をつくれば、健康上の理由によって仕事を続けられなくなるリスクを小さくできる可能性があります。

病欠が増える段階で対策する

社員が突然退職するように見えても、その前にさまざまな兆候が現れている場合があります。

体調不良による欠勤が増える。

仕事への集中が難しくなる。

休職する。

復職しても再び休職する。

最終的に退職する。

こうした流れです。

企業にとって重要なのは、退職届が提出されてから対応することではありません。

その前の段階から社員の健康を支えることです。

特に健康経営では、病気になってから治療を支援するだけでなく、健康な状態を維持する予防の考え方が重要になります。

社員の満足度にも影響する

健康経営は、身体的な健康だけに影響するものではありません。

会社が自分を大切にしてくれているという社員の認識にも関係します。

会社が健康づくりのために時間を確保する。

健康相談を利用できる。

無理な働き方をさせない。

休暇を取りやすい。

こうした環境があれば、社員が会社に対して持つ印象も変わります。

反対に、健康経営を掲げながら過度な長時間労働を求めていれば、社員は会社のメッセージを信用しないでしょう。

制度そのもの以上に、社員が実際に会社から大切にされていると感じられるかが重要です。

エンゲージメントとの関係

人材経営ではエンゲージメントという言葉も使われます。

簡単にいえば、社員が会社や仕事にどの程度前向きに関わっているかという考え方です。

社員の健康を会社が支援することは、エンゲージメントにも影響する可能性があります。

自分の健康を会社が気にかけてくれる。

安心して働ける。

長く働けそうだ。

こうした感覚があれば、会社への信頼につながることがあります。

もちろん、スポーツイベントを一度開催しただけでエンゲージメントが高まるわけではありません。

健康施策だけでなく、仕事の内容、処遇、人間関係、働き方などを含めた総合的な職場環境が重要です。

健康経営だけで離職を防げるわけではない

ここは注意が必要です。

社員が辞める理由は健康問題だけではありません。

給与が低い。

仕事に魅力を感じない。

上司との関係が悪い。

キャリアアップできない。

会社の将来に不安がある。

こうした問題を放置したままウォーキングイベントを開催しても、離職を防ぐことは難しいでしょう。

健康経営は離職防止の万能策ではありません。

人事制度や処遇、職場環境、キャリア形成などと組み合わせる必要があります。

社員が長く働きたいと思える会社をつくる施策の一つとして健康経営を位置付けることが重要です。

一人の離職にもコストがかかる

社員が辞めれば、その人の給与を支払わなくてよくなるため、短期的には人件費が減ります。

しかし、それだけを見てはいけません。

新しい社員を募集する費用がかかります。

採用担当者が時間を使います。

面接を行います。

入社後には教育が必要です。

仕事を覚えるまでには時間がかかります。

経験豊富な社員が退職した場合には、その人が持っていた知識や取引先との関係などが失われる可能性もあります。

離職には目に見える費用だけでなく、さまざまな見えにくいコストがあります。

健康投資と採用コストを比較する

そこで企業に必要になるのが、健康施策を単なる費用として見ないことです。

社員の運動支援に費用を使う。

健康ポイントを支給する。

ウェアラブル端末の利用を支援する。

健康相談体制を整える。

これらには当然コストがかかります。

しかし、その結果として休職や離職が減れば、新しい人材を採用して教育する費用を抑えられる可能性があります。

健康投資にいくら使ったのかだけではなく、その結果としてどのような経済的効果が生まれたのかを見る必要があります。

離職率だけで効果を判断しない

健康経営の成果を検証するときにも注意が必要です。

離職率が下がったから健康経営が成功した。

離職率が上がったから失敗した。

それほど単純ではありません。

景気や雇用市場の状況、企業の業績、賃金制度など、離職率にはさまざまな要因が影響します。

そのため、病欠日数や休職者数、社員の運動習慣、職場への満足度など複数の指標を見る必要があります。

健康経営を実施した結果として社員の状態がどのように変化したのかを継続的に検証することが重要です。

シニア社員の定着にも重要になる

今後特に重要になるのが、中高年やシニア社員です。

企業が70歳までの就業機会を広げても、社員が健康でなければ働き続けることはできません。

若い頃から運動習慣をつくる。

年齢に応じて仕事内容を調整する。

身体的な負担を減らす。

健康状態に合わせた働き方を用意する。

こうした取り組みを長期的に進める必要があります。

健康経営は現在の病欠を減らすだけではなく、10年後、20年後にも働ける人材をつくるための投資という側面を持っています。

採用から定着へ人材戦略を変える

人手不足が深刻になると、企業は採用人数を増やすだけでは対応できなくなります。

採用する。

育成する。

健康を守る。

長く働いてもらう。

シニアになっても能力を発揮してもらう。

この一連の流れを人材戦略として考える必要があります。

社員が辞めるたびに新しい人を採用するモデルには限界があります。

現在いる社員が長く活躍できる企業をつくることの価値が高まります。

健康経営は、その土台の一つになります。

結論

健康経営と離職率の関係を考えるうえで重要なのは、社員の健康を個人だけの問題として扱わないことです。

健康上の理由で働き続けられなくなれば、社員本人だけでなく企業にも大きな影響があります。

病欠や休職が増え、最終的に離職すれば、企業は新しい人材を採用し、教育しなければなりません。

一方、社員が心身ともに健康な状態で長く働ければ、それまで蓄積してきた経験や知識を企業の中で生かし続けることができます。

もちろん、健康経営だけですべての離職を防ぐことはできません。

給与、仕事内容、人間関係、キャリア形成なども重要です。

だからこそ健康施策を単独で考えるのではなく、働き方改革や人事制度と一体で進める必要があります。

人口減少社会では、人材を何人採用したかだけでなく、採用した人材に何年活躍してもらえるかが企業の競争力を左右します。

社員の健康を守ることは、福利厚生から人材定着への投資へ。

健康経営は、採用して補充する経営から、今いる人材に長く活躍してもらう経営へ転換するための重要な仕組みになっていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 スポーツ推進企業に支援

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