職場の運動時間とは何か 業務時間中に体操やヨガをする企業が増える理由編

人生100年時代

社員の健康づくりというと、スポーツジムの利用補助や休日のスポーツイベントなどを思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし最近は、もう一歩踏み込んで、業務時間の中に運動を取り入れる企業が出てきています。

朝礼で体操をする。

昼休みの前後にストレッチをする。

勤務時間中にヨガやダンスを行う。

長時間座り続けないよう、短時間の運動を促す。

一見すると、仕事をする時間を運動に使えば生産性が下がるようにも思えます。

ところが、人手不足が深刻になるなか、企業の考え方は変わりつつあります。

短時間の運動によって社員の健康を維持し、病欠や休職、離職を減らすことができれば、企業にとって運動時間は単なる福利厚生ではなく、長期的な生産性を高めるための投資になる可能性があるからです。

勤務時間に運動してもよいのか

会社は社員に給与を支払い、その時間に仕事をしてもらいます。

そのため、業務時間中に運動することについて、仕事をしていない時間ではないかと考える人もいるでしょう。

しかし、会社が健康施策として体操や運動を業務の一部に組み込むのであれば、考え方は変わります。

たとえば工場などでは、昔から始業前や作業の合間に体操を行うケースがあります。

身体を動かす仕事では、準備運動によってけがを防ぐことにも意味があります。

オフィスでも同様です。

長時間のデスクワークが続く社員にストレッチや軽い運動を促すことは、健康管理という意味を持ちます。

つまり、運動と仕事を完全に別のものとして考える必要はありません。

社員が健康な状態で仕事を続けるための活動も、広い意味では企業の生産活動を支える取り組みと考えることができます。

仕事が忙しい世代ほど運動できない

企業が職場で運動する機会をつくることには大きな理由があります。

働く世代ほど運動する時間を確保することが難しいからです。

特に30代から50代は、仕事上の責任が大きくなる一方、家庭では家事や育児、場合によっては親の介護なども重なります。

会社から帰宅してから毎日スポーツジムへ行くことは、誰にでもできることではありません。

健康のために運動してくださいと呼びかけるだけでは、もともと運動する人だけが参加することにもなりかねません。

そこで職場そのものを運動する場所にするという発想が生まれます。

会社であれば、普段運動しない社員にも働きかけることができます。

運動のために新たに移動時間を確保する必要もありません。

職場は、現役世代の運動習慣を変えるうえで非常に重要な場所なのです。

短時間の運動でも続けることが重要

職場で運動するといっても、毎日1時間スポーツをする必要があるわけではありません。

むしろ企業で取り入れやすいのは、数分から数十分程度の短時間運動です。

ストレッチをする。

階段を使う。

昼休みに歩く。

会議の前後に身体を動かす。

一定時間座ったら立ち上がる。

こうした小さな行動を積み重ねる方法です。

大規模なスポーツイベントを年1回開催しても、それだけで日常的な運動習慣が身につくとは限りません。

一方、1回の運動時間が短くても、毎日の生活に組み込まれていれば継続しやすくなります。

健康づくりでは、一度に大量の運動をすること以上に、身体を動かす習慣をつくることが重要になります。

5分なら仕事に組み込みやすい

職場で運動を定着させるポイントの一つが、参加するためのハードルを下げることです。

着替えが必要で、運動場所まで移動し、1時間運動しなければならない制度では、忙しい社員ほど参加しなくなります。

反対に5分程度であれば、仕事の合間にも実施できます。

握力などを測る簡単な体力測定も一つの方法です。

短時間で自分の体力を確認できれば、それ自体が運動への関心を高めるきっかけになります。

企業の健康施策では、立派な設備を用意することよりも、社員が参加しやすい仕組みをつくることの方が重要な場合があります。

運動は病欠防止にもつながる

企業が社員の運動を支援する理由は、社員本人の健康だけではありません。

企業経営にも影響します。

社員が体調を崩して仕事を休めば、その社員の仕事をほかの社員が引き受けなければなりません。

病欠が長期化すれば、休職や離職につながることもあります。

人手不足の職場では、一人が欠ける影響はさらに大きくなります。

特に運送業、建設業、介護など、身体を使う仕事では健康状態がそのまま就業継続に影響することがあります。

短時間の運動によって身体機能を維持できれば、病欠やけがの予防につながる可能性があります。

社員の健康問題を個人だけの問題ではなく、企業の経営リスクとして捉える必要が出てきているのです。

メンタル不調への効果も期待される

運動は身体だけの問題ではありません。

精神面への効果も期待されています。

働く人のメンタルヘルスは、企業にとって大きな課題になっています。

ストレスによって仕事への集中力が低下したり、休職したりする社員が増えれば、企業全体の生産性にも影響します。

身体を動かすことは気分転換にもなります。

さらに職場で複数の社員が一緒に体操やスポーツを行えば、社員同士のコミュニケーションが生まれる可能性もあります。

職場の運動時間には、体力向上だけではなく、精神面や職場環境を改善する役割も期待されているのです。

30分の運動は30分の損失なのか

企業側から見ると、最も難しいのが時間の問題です。

たとえば社員100人が業務時間中に30分運動すれば、単純計算では合計50時間の労働時間を運動に使うことになります。

短期的に見れば、仕事をする時間は減ります。

しかし企業経営は、その日だけで考えるものではありません。

運動によって疲労が軽減される。

病欠が減る。

メンタル不調による休職が減る。

離職する社員が減る。

高齢になっても働ける社員が増える。

こうした効果が生まれれば、長期的には企業にとってプラスになる可能性があります。

重要なのは、働いた時間の長さではなく、その時間からどれだけの成果を生み出したかです。

働き方改革との相性がよい

職場での運動は、働き方改革とも密接に関係しています。

従来の働き方改革では、長時間労働の是正や有給休暇の取得など、労働時間を減らすことが注目されてきました。

これからは、限られた時間の中で健康に働き続けられる環境をつくることも重要になります。

長時間座り続ける働き方を見直す。

休憩時間に身体を動かす。

オンライン会議が続いたら短い休憩を入れる。

歩きながら打ち合わせをする。

こうした小さな工夫も働き方改革の一つと考えることができます。

労働時間を単純に短くするだけではなく、働く時間の質そのものを改善するという考え方です。

運動を強制しないことも重要

一方で注意しなければならないことがあります。

健康に良いからといって、社員全員に同じ運動を強制すればよいわけではありません。

年齢や体力、身体の状態は人によって異なります。

運動が難しい人もいます。

また、運動そのものが好きではない人もいるでしょう。

企業が健康づくりを進める場合には、社員が自分の状態に合わせて選択できる仕組みにすることが重要です。

ヨガをする人。

ウォーキングをする人。

ストレッチだけする人。

体力測定だけ参加する人。

さまざまな参加方法を用意することで、無理なく続けられる制度になります。

健康経営が行き過ぎて健康の強制にならないようにする視点も必要です。

運動時間は福利厚生から経営戦略へ

日本では今後、働く人の数が減っていきます。

企業が必要な人材を簡単に採用できる時代ではなくなります。

そうなれば、現在働いている社員が健康な状態で長く働けることの価値は高まります。

社員の健康を本人任せにするのではなく、企業も支える。

その手段の一つが職場での運動です。

業務時間中に運動するというと、一昔前なら仕事を休んでいるように見えたかもしれません。

しかし、人手不足が深刻になる社会では、社員の健康を守るために使う時間も企業の将来への投資として考える必要があります。

結論

職場の運動時間とは、単に社員に仕事を休ませてスポーツをしてもらう時間ではありません。

社員が健康な状態で長く働くために、企業が仕事の中へ意図的に身体活動を組み込む取り組みです。

ポイントは、大掛かりな運動ではなく、短時間でも継続できる仕組みをつくることです。

数分の体操やストレッチ、ウォーキングなどであれば、多くの職場で導入する余地があります。

一時的には労働時間が減るように見えても、病欠や休職、離職が減り、生産性や就業期間が伸びれば、企業全体では大きな利益になる可能性があります。

人口減少によって人材の価値が高まる日本では、社員にできるだけ長時間働いてもらうことより、健康な状態でできるだけ長期間働いてもらうことが重要になります。

業務時間中の運動は、福利厚生の一つから、人手不足時代の働き方改革と人的資本投資へと役割を変えていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 スポーツ推進企業に支援

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