会社員が毎月の給与から支払っている個人住民税は、会社が自由に計算しているわけではありません。
市区町村が前年の所得などを基に住民税額を計算し、その金額を会社へ通知しています。
では、市区町村は会社員が前年にいくら給与を受け取ったのかを、どのように把握しているのでしょうか。
その重要な情報源となるのが「給与支払報告書」です。
会社などの給与支払者は、原則として毎年1月末までに給与支払報告書を市区町村へ提出します。
給与支払報告書は、単なる給与の報告書ではありません。
会社員の個人住民税を計算するための基礎資料となり、その後の特別徴収税額通知や給与からの住民税徴収につながる重要な書類です。
今回は、給与支払報告書の役割、源泉徴収票との違い、提出先や提出期限、eLTAXによる電子提出について整理します。
給与支払報告書とは何か
給与支払報告書とは、会社などが従業員に支払った前年1年間の給与などについて、市区町村へ報告する書類です。
給与の支払金額だけではありません。
給与所得控除後の金額や所得控除に関する情報など、住民税を計算するために必要となる情報が記載されます。
会社は毎月給与を支払っていますが、市区町村が企業の給与データを自動的にすべて把握しているわけではありません。
そこで給与支払者である会社から、前年の給与に関する情報を市区町村へ報告する仕組みが設けられています。
市区町村は、その情報などを基に翌年度の個人住民税を計算します。
なぜ毎年1月に提出するのか
個人住民税は、原則として前年の所得を基に翌年度の税額が計算されます。
例えば、令和8年中に支払われた給与に関する給与支払報告書は、原則として令和9年1月末までに提出します。
市区町村は提出された情報などを基に令和9年度の住民税を計算します。
給与からの特別徴収の場合、その新しい税額による徴収が原則として6月から始まります。
つまり、
前年中に給与が支払われる
翌年1月に給与支払報告書が提出される
市区町村が住民税を計算する
会社へ特別徴収税額が通知される
6月から新しい住民税額で特別徴収が始まる
という流れになります。
毎年1月の給与支払報告書提出は、半年近く先の給与計算にもつながっているわけです。
どこの市区町村へ提出するのか
給与支払報告書で重要なのが提出先です。
原則として、給与の支払いを受けた人の翌年1月1日現在の住所地である市区町村へ提出します。
会社の所在地の市区町村へまとめて提出するわけではありません。
例えば東京に本社がある会社でも、従業員が東京、神奈川、千葉、埼玉など各地に居住していれば、それぞれの住所地の市区町村が関係します。
全国に従業員がいる企業では、提出先となる自治体の数が非常に多くなる場合があります。
そのため給与支払報告書は、地方税手続きの電子化によるメリットが大きい業務の一つです。
源泉徴収票とは何が違うのか
給与支払報告書とよく似ているのが源泉徴収票です。
年末調整を行った後、会社から従業員へ交付される源泉徴収票を見たことがある人は多いでしょう。
給与支払報告書と源泉徴収票には、給与の支払金額や所得控除など共通する情報が多く記載されています。
しかし、目的と提出先が違います。
源泉徴収票は所得税に関係する書類です。
一方、給与支払報告書は個人住民税に関係する書類です。
国税である所得税と、地方税である個人住民税という違いが背景にあります。
似た情報を扱っていても、それぞれ異なる税務手続きで利用されるわけです。
給与支払報告書には二つの種類がある
給与支払報告書は、大きく総括表と個人別明細書から構成されます。
個人別明細書には、従業員一人一人の給与や所得控除などの情報が記載されます。
一方、総括表は、その市区町村へ提出する給与支払報告書を取りまとめる役割を持っています。
紙で提出する場合、従業員が居住する自治体ごとに書類を整理する必要があります。
従業員数が多く、居住する自治体も多い企業では、この作業だけでも相当な事務負担になります。
こうした地方税特有の事務負担を軽減する仕組みとして重要になるのがeLTAXです。
退職した従業員にも注意が必要
給与支払報告書は、年末時点で在籍している従業員だけを考えればよいわけではありません。
年の途中で退職した人についても、一定の場合には給与支払報告書の提出が必要になります。
給与担当者にとっては、12月末時点の在籍者だけではなく、前年中の退職者についても確認することが重要です。
年末調整の対象者と給与支払報告書の提出対象者が必ずしも完全に一致するとは限らないためです。
退職者を含めた前年中の給与支払状況を確認し、提出漏れがないようにする必要があります。
給与支払報告書から住民税額が決まる
市区町村へ提出された給与支払報告書は、その後の住民税計算に利用されます。
市区町村は給与支払報告書だけでなく、確定申告など必要な情報も踏まえて個人の所得や所得控除を把握し、住民税額を計算します。
そして給与から特別徴収する従業員については、会社へ特別徴収税額通知を送ります。
会社はその通知を基に、6月以降の給与から住民税を差し引きます。
したがって、給与支払報告書に誤りがあれば、その後の住民税額にも影響する可能性があります。
給与支払報告書は「前年の給与を自治体へ知らせて終わり」の書類ではありません。
翌年度の住民税課税へつながる重要なデータなのです。
eLTAXなら電子的に提出できる
給与支払報告書は、eLTAXを利用して電子的に提出することができます。
電子提出の大きなメリットは、複数の自治体へ提出する場合です。
紙による手続きでは、従業員の住所地ごとに提出先を分け、各市区町村へ書類を送る必要があります。
従業員が全国各地に居住する企業ほど負担が大きくなります。
eLTAXを利用すれば、地方税の共通電子基盤を通じて給与支払報告書を提出できます。
従業員数が多い企業や全国に事業所を持つ企業にとって、電子化による事務効率化の効果は大きいといえます。
源泉徴収票との一括提出もできる
給与支払報告書の電子化を考えるうえで重要なのが、源泉徴収票との関係です。
給与支払報告書は市区町村へ提出する地方税の書類です。
一方、一定の源泉徴収票は税務署へ提出する国税関係の書類です。
本来は提出先が異なります。
しかし電子化によって、給与支払報告書と源泉徴収票に関するデータを一括して送信し、それぞれ必要な提出先へ振り分ける仕組みも利用できます。
同じような給与情報を国税と地方税でそれぞれ処理する企業にとって、データを一元的に扱えることには大きな意味があります。
税務行政のデジタル化では、単に紙を電子データへ置き換えるだけでなく、国税と地方税の手続きをどのようにつなげるかも重要になっています。
9月24日のeLTAX更改でWEB版へ集約される
令和8年9月24日に予定されているeLTAXのシステム更改では、個人住民税の特別徴収に関する機能がPCdeskのWEB版へ集約されます。
給与支払報告書の提出も、その重要な手続きの一つです。
利用届出から給与支払報告書の提出、特別徴収税額通知の電子データの受取り、共通納税までの一連の流れを、WEBブラウザから利用できるようになります。
企業の給与担当者から見ると、
給与データを報告する
自治体が税額を計算する
税額通知を電子的に受け取る
給与計算へ反映する
徴収した住民税を電子納税する
という住民税業務の流れが、eLTAXを中心に電子的につながっていくことになります。
給与事務はデータ連携の時代へ
給与支払報告書の電子化には、単なる提出方法の変更以上の意味があります。
従来の給与事務では、給与システムから帳票を作成し、紙へ印刷して自治体へ提出し、自治体から届いた税額通知を再び給与システムへ入力するという作業が発生していました。
電子化が進めば、給与システムからデータを出力し、eLTAXで提出し、自治体から電子データを受け取り、再び給与システムへ取り込むという流れへ変わります。
人が紙から数字を読み取り、別のシステムへ入力する作業を減らせれば、事務負担だけでなく入力ミスの削減にもつながります。
eLTAXの更改は、給与事務を「書類を処理する仕事」から「データを管理する仕事」へ変えていく流れの一つと見ることができます。
結論
給与支払報告書とは、会社などが前年中に従業員へ支払った給与などの情報を市区町村へ報告するための重要な書類です。
原則として翌年1月末までに、従業員の1月1日現在の住所地である市区町村へ提出します。
市区町村は給与支払報告書などを基に翌年度の個人住民税を計算し、特別徴収の場合には会社へ税額を通知します。
そのため給与支払報告書は、毎年6月から始まる新しい住民税額による特別徴収の出発点ともいえる書類です。
源泉徴収票と似ていますが、源泉徴収票が主として所得税に関係するのに対し、給与支払報告書は個人住民税に関係するという違いがあります。
そしてeLTAXの利用によって、複数の自治体への給与支払報告書を電子的に提出することができます。
令和8年9月24日のシステム更改後は、個人住民税の特別徴収に関する機能がPCdeskのWEB版へ集約されます。
給与支払報告書の提出から税額通知の受取り、納税までが電子的につながることで、企業の住民税実務は紙中心の事務からデータ中心の事務へ、さらに変わっていくことになるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年8月10日号 eLTAXを9月24日に更改、地方税共同機構が変更点と注意事項を公表