非上場株式の評価見直しが進められる中で、実務上もっとも気になるのは、評価額が上がるのか、下がるのかという点です。
結論からいえば、全体としては「評価額が上がりやすい方向」に働く可能性が高いと考えられます。ただし、すべての会社で一律に上がるわけではありません。会社規模、利益水準、純資産の厚み、配当政策、株主構成によって影響は大きく異なります。
今回の見直しは、単なる計算式の修正ではなく、評価額の不均衡や操作可能性を是正するものです。そのため、従来の制度上のすき間を利用して評価額を下げていたケースほど、影響は大きくなると考えられます。
評価額が上がりやすい会社の特徴
評価額が上がりやすいのは、これまで類似業種比準方式や配当還元方式によって、純資産価額よりも低い評価が可能だった会社です。
特に、内部留保が厚く、実質的な純資産価値が高いにもかかわらず、配当を抑えたり、利益水準を調整したりすることで評価額を低くしていた会社は注意が必要です。
今回の見直しでは、評価方式間の差が大きすぎることが問題視されています。つまり、純資産価額と申告評価額の差が大きい会社ほど、見直し後に評価額が引き上げられる可能性があります。
会社規模による評価の崖の影響
現行制度では、大会社、中会社、小会社という区分によって評価方式が変わります。
大会社は類似業種比準方式が中心となり、中会社は併用方式、小会社は純資産価額方式が中心です。このため、会社規模の区分が少し変わるだけで評価額が大きく変わることがあります。
今回の見直しでは、この「評価の崖」を解消することが重要な論点とされています。
仮に評価方式の差が縮小されれば、会社規模を大きく見せることで評価額を下げる手法は使いにくくなります。その結果、これまで規模区分によって低い評価を受けていた会社では、評価額が上がる可能性があります。
配当還元方式の見直しによる影響
配当還元方式も大きな論点です。
配当還元方式は、少数株主が保有する株式について、配当を受ける権利に着目して評価する方法です。本来は、経営支配権を持たない株主の立場を反映するための特例的な評価方法です。
しかし実務上は、株主構成を調整することで配当還元方式を使える株主を作り出し、評価額を下げるようなスキームも問題視されています。
見直しによって、配当還元方式の適用範囲が厳格化されれば、これまで低い評価で済んでいた株式の評価額は上がる可能性があります。
評価額が下がる可能性がある会社
一方で、評価額が下がる可能性がある会社もあります。
例えば、純資産は大きいものの収益力が低い会社です。現行制度では、純資産価額方式によって高く評価されやすい会社でも、今後、収益力をより反映する方向に見直されれば、評価額が下がる余地があります。
また、事業継続を前提とした企業価値評価が重視される場合、単に資産を多く持っているだけでは高く評価されにくくなる可能性もあります。
ただし、今回の見直しの主な問題意識は評価額の過度な圧縮の是正にあります。そのため、制度全体としては「下げる見直し」よりも「不当に低い評価を是正する見直し」の色合いが強いと考えられます。
M&A価格との接近
もう一つ重要なのは、第三者承継やM&Aとの関係です。
近年は、親族内承継だけでなく、第三者への事業承継が増えています。その際には、実際の取引価格や企業価値評価が用いられます。
税務上の評価額が実際の企業価値と大きく乖離している場合、制度としての説明が難しくなります。
今後、M&Aで使われる評価手法や企業価値評価の考え方が一定程度取り込まれると、収益力のある会社では評価額が上がる可能性があります。特に、営業利益やキャッシュフローが安定している会社は、従来より高く評価される場面が増えるかもしれません。
事業承継への実務影響
評価額が上がる可能性がある以上、事業承継の実務では時間軸が重要になります。
改正通達の適用は早ければ令和10年とされています。一方で、法人版事業承継税制の特例措置は令和9年末に期限を迎える予定です。
この2つの時期が近接していることは重要です。
評価見直しの前に承継を進めるべきか、改正後の制度を見極めるべきか、判断が難しくなります。
ただし、単に「評価が上がる前に急ぐ」という判断は危険です。後継者の意思、経営権の移転、納税猶予制度の要件、将来の組織再編まで含めて検討する必要があります。
結論
非上場株式の評価見直しによって、株価は全体として上がりやすい方向に動く可能性があります。
特に、評価方式間の差、会社規模区分、配当還元方式を利用して評価額を下げていたケースでは、影響が大きくなると考えられます。
一方で、収益力が低く、資産だけが厚い会社では、評価方法の見直しによって評価額が下がる余地もあります。
重要なのは、今回の見直しを単なる増税・減税の問題として捉えないことです。問われているのは、非上場株式の価値をどのように測るべきかという制度の根本です。
今後の事業承継では、従来の株価対策だけでなく、会社の収益力、資本構成、株主構成、承継時期を一体で考える必要があります。評価見直しは、非上場会社に対して、より実態に即した経営と承継設計を求める転換点になると考えられます。
参考
税のしるべ 2026年4月24日「取引相場のない株式の評価見直しで有識者会議、改正通達の適用は早ければ令和10年から」
税のしるべ 令和8年4月27日号1面 取引相場のない株式の評価見直しに関する記事
国税庁 財産評価基本通達
会計検査院 取引相場のない株式の評価に関する指摘資料