会社員の給与明細を見ると、所得税や社会保険料などとともに「住民税」という項目があります。
この住民税は、会社が独自に計算して徴収しているわけではありません。
前年の所得などを基に市区町村が税額を計算し、その税額を会社が毎月の給与から差し引いて、従業員に代わって自治体へ納めています。
この仕組みが「個人住民税の特別徴収」です。
令和8年9月24日に予定されているeLTAXのシステム更改では、この特別徴収に関する手続きがPCdeskのWEB版へ集約されます。
給与支払報告書の提出から特別徴収税額通知の受取り、共通納税までをWEBブラウザ上で行えるようになるため、企業の給与事務にも関係する重要な変更です。
今回は、個人住民税の特別徴収とはどのような制度なのか、その基本的な仕組みを整理します。
個人住民税とは何か
個人住民税は、都道府県と市区町村に納める地方税です。
一般に、市町村民税と道府県民税を合わせて住民税と呼んでいます。
所得税と似ていますが、大きな違いがあります。
所得税は、原則としてその年の所得に対してその年に課税されます。
一方、個人住民税は、原則として前年の所得を基に翌年度の税額が決まります。
例えば、令和8年度の個人住民税は、基本的には令和7年中の所得を基に計算されます。
この前年所得を基準とする仕組みを理解しておくことが、特別徴収を理解する第一歩です。
特別徴収とは何か
個人住民税の納付方法には、大きく分けて特別徴収と普通徴収があります。
特別徴収とは、給与を支払う会社などが、従業員の給与から住民税を差し引き、本人に代わって市区町村へ納入する方法です。
所得税の源泉徴収に似ています。
ただし、税額の決まり方には違いがあります。
所得税の源泉徴収では、会社が給与額などを基に源泉徴収税額表を使って毎月の所得税額を求めます。
これに対して個人住民税の特別徴収では、基本的に市区町村が従業員ごとの税額を計算します。
会社は自治体から通知された税額を給与から差し引きます。
つまり会社は、住民税額そのものを毎月計算するのではなく、市区町村から通知された金額を徴収する役割を担っています。
普通徴収とは何が違うのか
普通徴収は、納税者本人が住民税を自治体へ納付する方法です。
市区町村から本人へ納税通知書や納付書などが送られ、それに基づいて本人が納付します。
これに対して特別徴収では、会社が給与から毎月差し引いて納付します。
会社員の場合には、原則として特別徴収によって個人住民税を納めます。
普通徴収では通常、年数回に分けて納めるのに対し、給与からの特別徴収では原則として6月から翌年5月までの12回に分けて徴収します。
そのため、一回当たりの支払負担が分散されるという特徴もあります。
住民税は前年の給与を基に計算される
会社員の住民税について重要な役割を持つのが「給与支払報告書」です。
会社は、前年中に従業員へ支払った給与などについて給与支払報告書を作成し、原則として翌年1月末までに従業員の住所地の市区町村へ提出します。
市区町村は、この給与支払報告書や確定申告などの情報を基に住民税額を計算します。
その後、会社へ従業員ごとの特別徴収税額が通知されます。
したがって、
会社が給与を支払う
給与支払報告書を提出する
市区町村が住民税を計算する
会社へ税額が通知される
会社が給与から住民税を差し引く
会社が自治体へ納入する
という流れになります。
住民税は6月から切り替わる
給与所得者の特別徴収では、原則として6月から翌年5月までの12か月で住民税を徴収します。
このため給与担当者にとって、毎年6月は重要な時期になります。
例えば、5月給与まで差し引いていた住民税額と、6月給与から差し引く住民税額が異なることがあります。
前年の所得や所得控除などが変われば、住民税額も変わるからです。
給与担当者は、市区町村から通知された新しい特別徴収税額を給与システムへ反映しなければなりません。
ここで入力を誤ると、従業員の給与から差し引く金額そのものが間違ってしまいます。
特別徴収税額通知とは何か
市区町村が会社へ知らせる住民税額に関する通知が、特別徴収税額通知です。
会社はこの通知に基づいて、従業員ごとの住民税を給与から差し引きます。
特別徴収税額通知には、特別徴収義務者である会社向けのものと、納税義務者である従業員向けのものがあります。
電子化も進められており、一定の場合にはeLTAXを通じて電子データとして受け取ることができます。
この電子データを給与システムなどへ取り込めれば、従業員数の多い企業では手入力の負担や入力ミスを減らすことにつながります。
会社は特別徴収義務者になる
個人住民税の特別徴収では、会社は「特別徴収義務者」という立場になります。
従業員本人に代わって住民税を徴収し、市区町村へ納入する義務を負うからです。
会社が給与から差し引いた住民税は、会社のお金ではありません。
従業員が負担する税金を会社が預かり、自治体へ納めるという関係になります。
したがって、給与から徴収したにもかかわらず納付しないということは認められません。
給与計算と納税管理を一体として管理することが重要です。
従業員が退職した場合にはどうなるのか
特別徴収では、従業員の退職や転勤などにも対応する必要があります。
例えば従業員が退職すれば、その会社から給与が支払われなくなるため、それまでと同じ方法で住民税を差し引くことができなくなります。
このような場合には、給与所得者異動届出書を市区町村へ提出するなどの手続きが必要になります。
退職時期などによっては、残っている住民税を最後の給与や退職金からまとめて差し引く一括徴収が行われることもあります。
一方、本人がその後自分で納める普通徴収へ切り替わるケースもあります。
さらに転職先で一定の手続きを行えば、新しい勤務先で特別徴収を継続することもあります。
このため特別徴収は、毎月給与から税金を差し引くだけの制度ではなく、従業員の入退社管理とも密接に関係しています。
eLTAXは特別徴収事務をどう変えるのか
個人住民税の特別徴収は、企業にとって事務負担の大きい地方税手続きの一つです。
従業員が複数の市区町村に居住していれば、それぞれの自治体との間で手続きが発生するからです。
そこで重要になるのがeLTAXです。
eLTAXを利用することで、給与支払報告書などを電子的に提出できます。
また、特別徴収税額通知の電子データを受け取ったり、地方税共通納税システムを利用して納付したりすることもできます。
特に全国に従業員を抱える企業では、自治体ごとに紙の書類や納付書を処理する場合と比べ、電子化による効果は大きくなります。
9月24日の更改でWEB完結へ進む
令和8年9月24日のeLTAX更改では、個人住民税の特別徴収に関する機能がPCdeskのWEB版へ集約されます。
利用届出から給与支払報告書の提出、特別徴収税額通知の電子データの受取り、共通納税まで、一連の手続きをWEBブラウザから利用できるようになります。
給与所得者異動届出や退職所得に係る納入申告についてもWEB版を利用することになります。
これは単なるシステム変更ではありません。
これまで自治体ごとに発生していた住民税事務を、eLTAXという共通基盤を通じて処理する方向がさらに強まることを意味します。
給与計算、税額通知、納税という一連の業務が電子的につながれば、企業の給与事務そのものが変わっていく可能性があります。
結論
個人住民税の特別徴収とは、会社が従業員の給与から住民税を差し引き、本人に代わって市区町村へ納入する仕組みです。
所得税の源泉徴収と似ていますが、住民税では原則として前年所得を基に市区町村が税額を計算し、その税額を会社へ通知するという特徴があります。
会社は通知された税額を原則として6月から翌年5月までの給与から徴収し、自治体へ納入します。
さらに退職や転勤があれば、異動届出などの手続きも必要になります。
令和8年9月24日のeLTAX更改では、こうした個人住民税の特別徴収に関する手続きがPCdeskのWEB版へ集約されます。
給与支払報告書の提出から税額通知の受取り、納税までをWEB上で処理する仕組みが整うことで、個人住民税の特別徴収事務はさらに電子化されていくことになるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年8月10日号 eLTAXを9月24日に更改、地方税共同機構が変更点と注意事項を公表