親が亡くなり、実家を相続することになったものの、子どもたちはすでに別の地域に自宅を持っている。
地方では、このようなケースが珍しくなくなっています。
預貯金であれば相続人で分けることができますが、不動産は簡単にはいきません。築年数が古い、駅から遠い、買い手が見つからないといった事情が重なると、誰も住まないまま空き家として残されることがあります。
しかし、空き家だからといって何もしなくてよいわけではありません。
固定資産税や維持管理費が発生するだけでなく、現在は相続登記も義務化されています。
相続した実家をどうするか決められない場合でも、まず登記の期限を意識する必要があります。
相続登記とは何か
不動産の所有者は、法務局の登記簿に記録されています。
例えば父親名義の土地と建物を父親の死亡によって子どもが相続した場合、登記簿上の所有者を父親から相続人へ変更する必要があります。
これが相続登記です。
以前は相続登記をしなくても直ちに罰則があるわけではなく、実質的には任意の制度でした。
そのため、
祖父名義のままになっている土地
何十年も前に亡くなった人の名義になっている建物
相続人が何人いるのか分からなくなった不動産
といったケースが全国で増えてきました。
そこで2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
相続登記には3年の期限がある
相続によって不動産を取得した相続人は、原則として、
不動産を相続したことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日
から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
重要なのは、2024年4月1日以降に発生した相続だけが対象ではないことです。
それ以前に発生した相続についても義務化の対象となっています。
過去の相続については原則として2027年3月31日までに対応する必要があります。
昔相続した実家だから関係ない、と考えることはできません。
長期間名義変更していない不動産がある家庭ほど、一度登記状況を確認しておく必要があります。
放置すると過料を科される可能性がある
相続登記の申請義務があるにもかかわらず、正当な理由なく申請しなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
もっとも、期限を1日過ぎれば自動的に10万円を支払うという制度ではありません。
例えば、
遺言書の有効性を巡って争いがある
相続人が非常に多く戸籍収集などに時間がかかる
相続人が重病で手続きが困難である
といった事情があれば、正当な理由として考慮されることがあります。
とはいえ、単に面倒だから放置していたという理由では対応が難しくなります。
相続が発生したら、預貯金だけでなく不動産の登記についても確認することが重要です。
相続登記はどのように進めるのか
一般的な相続では、まず誰が相続人なのかを確定します。
そのために被相続人の出生から死亡までの戸籍などを集めます。
さらに相続人の戸籍や住民票などを準備し、土地や建物を含めた相続財産を確認します。
遺言書がなく、複数の相続人がいる場合には、誰がどの財産を取得するのかについて遺産分割協議を行うことになります。
協議がまとまれば遺産分割協議書を作成し、必要書類と登記申請書を法務局へ提出します。
相続登記そのものは自分で申請することもできますが、不動産や相続人が多い場合などには司法書士へ依頼することも選択肢になります。
戸籍集めは以前より便利になった
相続手続きで大きな負担となっていたのが戸籍の収集です。
被相続人が転籍を繰り返していると、それぞれの本籍地の市区町村から戸籍を取り寄せる必要がありました。
この負担を軽減するため、2024年3月から戸籍証明書等の広域交付制度が始まっています。
一定の戸籍について、本籍地以外の市区町村窓口でもまとめて請求できるようになりました。
相続登記が義務化される一方で、相続人の手続きを簡素化する制度も整備されているわけです。
故人が持っていた不動産をどう探すのか
相続では、そもそも親がどこに不動産を所有していたのか分からないことがあります。
従来は固定資産税の納税通知書を確認したり、市区町村の名寄帳などを調べたりする方法が中心でした。
しかし、名寄帳で把握できるのは基本的にその市区町村の管轄内にある不動産です。
別の地域に土地を所有していれば、それを見落とす可能性がありました。
そこで2026年2月から所有不動産記録証明制度が始まりました。
登記簿に記録されている名義人の氏名や住所などを基に、全国の不動産について一定の範囲で一覧的に確認できる仕組みです。
親が地方に山林を持っていた、昔購入した土地が残っていた、といったケースでは特に重要な制度になります。
遺産分割がまとまらない場合はどうするのか
問題になるのが、相続人同士の話し合いがまとまらない場合です。
例えば兄弟3人で実家を相続したものの、
誰も実家を欲しくない
売却するか残すか意見が違う
不動産の評価額について合意できない
といった事情から、3年以内に遺産分割が終わらないことがあります。
こうした場合に利用できるのが相続人申告登記です。
相続人申告登記とは何か
相続人申告登記は、相続登記の申請義務を簡易な方法で履行できる制度です。
自分が登記簿上の所有者の相続人であることなどを法務局に申し出ます。
必要な申出を期限内に行えば、その申出をした相続人については相続登記の申請義務を履行したものと扱われます。
登録免許税もかかりません。
遺産分割協議が長期化している場合には非常に重要な制度です。
ただし、相続人が複数いる場合、原則として申出をした人についてのみ義務を履行したことになります。
一人が申し出れば他の相続人も自動的に済む、というわけではない点には注意が必要です。
相続人申告登記だけでは売却できない
ここは特に注意したいところです。
相続人申告登記は、不動産を誰が最終的に取得したのかを確定して公示する通常の相続登記とは性格が異なります。
あくまで相続登記の申請義務を簡易に履行するための仕組みです。
したがって、相続人申告登記をしただけでは、その不動産を自由に売却したり、担保に入れたりすることはできません。
その後に遺産分割協議が成立して不動産を取得する人が決まった場合には、その遺産分割の日から3年以内に改めて相続登記をする必要があります。
相続人申告登記は最終的な登記ではなく、遺産分割がまとまるまでの重要な対応策と理解すると分かりやすいでしょう。
住所や氏名の変更登記も義務化された
不動産登記を巡るもう一つの大きな変更が、住所や氏名の変更登記の義務化です。
2026年4月から、不動産所有者が引っ越しなどによって住所を変更した場合や、結婚などによって氏名が変わった場合には、原則として変更から2年以内に変更登記をする必要があります。
過去に発生した住所や氏名の変更も対象となり、義務化前の変更については原則として2028年3月31日までに対応する必要があります。
正当な理由なく申請を怠った場合には5万円以下の過料が科される可能性があります。
不動産を所有している人にとって、登記は相続時だけの問題ではなくなっているのです。
スマート変更登記で負担を軽くできる
住所変更のたびに法務局で手続きをするのは面倒です。
そこで導入されたのが、いわゆるスマート変更登記です。
所有者が必要な情報をあらかじめ申し出ておくことで、法務局側が住基ネットなどから住所変更情報を確認し、一定の仕組みの下で住所変更登記を行えるようになっています。
所有者自身がその都度変更登記を申請する負担を軽減できる仕組みです。
相続登記や住所変更登記を義務化するだけでなく、国も手続きのデジタル化や簡素化を進めています。
なぜ登記制度がこれほど変わっているのか
背景にある大きな問題が所有者不明土地です。
長期間にわたって相続登記が行われないと、登記簿には何十年も前に亡くなった人の名前が残ります。
さらに、その人の相続人が死亡すると次の世代へ相続権が移り、相続関係者が増えていきます。
結果として現在の所有者を確認するだけでも大変な作業になります。
所有者が分からなければ、道路などの公共事業、災害復旧、土地の再開発などにも支障が生じます。
空き家や土地が適切に管理されず、周辺環境が悪化することもあります。
相続登記の義務化は、単なる相続手続きの変更ではありません。
日本で増え続ける空き家と所有者不明土地に対応するための制度改革でもあるのです。
空き家相続では登記後の問題も考える
相続登記を済ませれば問題がすべて解決するわけではありません。
むしろ実家を誰も利用しない場合、本当の問題はそこから始まります。
固定資産税を誰が負担するのか。
建物を誰が管理するのか。
修繕費をどうするのか。
売却するのか。
賃貸するのか。
解体するのか。
それとも一定の要件を満たした上で土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度を検討するのか。
相続人同士で早い段階から出口を話し合っておく必要があります。
築年数が経過した空き家ほど、時間がたてば価値が上がるとは限りません。
管理費用だけが積み上がり、建物の老朽化によって売却や活用がさらに難しくなる可能性もあります。
結論
相続した実家を誰も必要としないからといって、そのまま放置することはできない時代になりました。
2024年4月から相続登記が義務化され、原則として不動産を相続したことなどを知った日から3年以内の申請が必要です。
過去に発生した相続も対象となります。
遺産分割協議がまとまらず期限に間に合わない場合には、相続人申告登記という選択肢もあります。
さらに2026年4月からは住所や氏名の変更登記も義務化されました。
一方で、戸籍の広域交付、所有不動産記録証明制度、スマート変更登記など、相続人や所有者の負担を軽くする仕組みも整備されています。
これからの相続では、財産を誰がもらうかだけでは不十分です。
特に誰も住む予定のない実家については、
誰が相続するのか
誰が管理するのか
いつまで保有するのか
最終的に売却、賃貸、解体などのどの出口を選ぶのか
まで考える必要があります。
相続空き家は、受け取った時点では資産に見えても、管理と処分の方針が決まっていなければ長期間にわたって費用と手間を生み続ける財産にもなります。
相続登記はゴールではありません。
空き家を次の世代へ先送りしないための最初の手続きと考えることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月 マネー相談 黄金堂パーラー 相続空き家 上 登記の手続き
日本経済新聞 2026年8月 分割協議難航なら簡易申告