遠方への出張では、新幹線や飛行機を利用することが多くあります。数時間に及ぶ移動となることも珍しくないため、「会社のために移動しているのだから、その時間も労働時間ではないか」と考える人も少なくありません。
しかし、長距離移動であることだけを理由に労働時間になるわけではありません。労働時間かどうかは、移動距離や交通手段ではなく、その時間に会社の指揮命令下に置かれていたかどうかによって判断されます。
今回は、新幹線や飛行機での移動時間の考え方と、企業が注意すべき実務上のポイントについて解説します。
自由利用の考え方
長距離移動で最も重要な判断基準となるのが、「移動時間を自由に利用できるかどうか」です。
例えば、新幹線や飛行機で出張先へ向かう際、会社から特別な業務指示はなく、読書や休憩、食事などを自由に行える状態であれば、その時間は通常、労働時間には該当しないと考えられています。
会社のために移動していることは事実ですが、その時間の使い方を本人が自由に決められるのであれば、会社の指揮命令下にあるとはいえないからです。
したがって、「出張中だから全て労働時間」という考え方は適切ではありません。
パソコン作業との違い
移動時間中にパソコンで資料を作成したり、プレゼン資料を修正したりする場合は、判断が変わることがあります。
会社から業務を行うよう指示され、その作業が業務として必要なものであれば、その時間は会社の指揮命令下で仕事をしていることになります。
つまり、同じ新幹線の車内でも、自由に過ごしている時間と、会社の指示で業務を行っている時間では、労働時間としての評価が異なります。
実務では、「移動時間」と「業務時間」を区別して管理することが重要です。
メール対応の扱い
近年では、スマートフォンやノートパソコンの普及により、移動中でも容易に仕事ができるようになりました。
例えば、移動中にメール返信を行ったり、チャットで業務連絡に対応したりすることがあります。
会社からこれらの対応を求められている場合には、その時間は労働時間として評価される可能性が高くなります。
一方で、自主的にメールを確認しただけで、会社から業務命令がなく、対応も任意である場合には、必ずしも労働時間になるとは限りません。
企業は、移動中にどの範囲まで業務対応を求めるのかを明確にしておくことが重要です。
オンライン会議への参加はどう考えるか
近年は、移動中にオンライン会議へ参加するケースも増えています。
オンライン会議は、会社から参加を求められ、業務として会議に出席するものであるため、その時間は労働時間と判断される可能性が高いと考えられます。
会議への参加だけでなく、その準備や会議中の発言、資料共有なども業務の一部です。
したがって、新幹線や飛行機に乗っているという事実だけではなく、「移動中に何をしていたか」が重要になります。
会社がルールを明確にする重要性
移動中の業務対応が常態化すると、労働時間の管理は複雑になります。
そのため、企業は就業規則や出張規程などで、移動時間中の取扱いを明確に定めておく必要があります。
例えば、
- 移動中のメール対応は緊急時のみとする。
- オンライン会議へ参加した時間は勤怠申告の対象とする。
- 資料作成などの業務を行った時間は労働時間として記録する。
このようなルールを整備しておけば、従業員も判断に迷うことが少なくなり、未払残業代のリスクも軽減できます。
実務上の注意点
企業は、「新幹線だから労働時間ではない」「移動中だから全て労働時間ではない」といった画一的な運用を避ける必要があります。
重要なのは、実際の勤務実態を把握することです。
メール送受信履歴、チャット履歴、オンライン会議の参加記録、業務報告書などを活用し、移動中に実際に業務が行われた時間を客観的に確認できる体制を整えることが望まれます。
適切な記録を残すことは、企業にとっても従業員にとっても、公平な労務管理につながります。
結論
新幹線や飛行機による長距離移動は、それだけで労働時間になるわけではありません。判断のポイントは、移動時間を自由に利用できたか、それとも会社の指揮命令下で業務を行っていたかにあります。
移動中に読書や休憩をしていた時間は通常労働時間に当たりませんが、資料作成やメール対応、オンライン会議など会社の指示による業務を行っていた時間は、労働時間として取り扱われる可能性があります。
企業は実態に即したルールを整備し、移動時間と業務時間を適切に区分して管理することが、未払残業代や労務トラブルを防ぐために重要です。
参考
企業実務 2026年8月号
「出張時等の『移動時間』の取扱いと未払残業代を防ぐ制度設計」 社会保険労務士法人岡佳伸事務所 特定社会保険労務士 岡佳伸 著