営業や建設業、設備保守、配送業などでは、社有車を運転して現場や取引先へ向かうことが日常的に行われています。このような場合、「運転している時間は労働時間になるのか」という疑問を持つ企業や従業員は少なくありません。
新幹線や飛行機など公共交通機関による移動では、自由に時間を過ごせる場合は労働時間に当たらないことがあります。しかし、社有車を運転する場合は事情が異なります。
今回は、社有車による移動時間が労働時間として扱われる理由と、実務上の注意点について解説します。
運転は業務なのか
社有車を運転して現場や出張先へ向かう場合、運転そのものが会社から命じられた業務と考えられます。
運転中は道路状況に注意を払い、安全運転を行う義務があります。そのため、読書や休憩など自由に時間を利用することはできません。
会社の指示に従って車両を運転している以上、使用者の指揮命令下に置かれていると評価されやすく、労働時間に該当する可能性が高くなります。
つまり、「移動している」という点では公共交通機関と同じでも、「運転という業務を行っている」という点が大きな違いになります。
公共交通機関との違い
新幹線や飛行機による移動では、会社から業務指示がなく、自由利用が認められている場合には、通常は労働時間には当たりません。
一方で、社有車を運転する場合は、移動そのものが業務であり、自由利用が認められていないため、同じ考え方はできません。
例えば、新幹線で出張先へ向かう途中で自由に休息を取れる場合と、社有車を数時間運転して現場へ向かう場合では、身体的・精神的な負担や業務への拘束の程度が大きく異なります。
そのため、実務でも両者は区別して取り扱うことが重要です。
資材や機材を運搬する場合
社有車による移動では、工具や機材、製品、資材などを運搬することがあります。
このような場合は、単に目的地へ移動しているだけではなく、会社の財産や業務に必要な物品を運搬する業務も行っています。
また、重要な物品や貴重品を管理しながら移動する場合も、会社から一定の責任を負っているため、業務性がより強く認められることがあります。
このようなケースでは、労働時間として評価される可能性がさらに高くなります。
同僚を乗せて移動する場合
現場へ向かう際に、同僚を乗せて社有車を運転するケースもあります。
この場合、運転者は安全に目的地まで同僚を輸送する責任を負っており、自由な行動はできません。
さらに、会社が集合場所や出発時刻を指定し、資材の積み込みや打ち合わせを行った後に現場へ向かう場合には、集合時点から会社の指揮命令下にあると考えられることが一般的です。
したがって、このような移動時間も労働時間として取り扱われる可能性があります。
休日に社有車を運転する場合
休日に社有車を運転して出張先へ向かう場合も、運転そのものが業務である以上、通常の公共交通機関による移動とは異なる考え方になります。
例えば、自家用車や社有車を運転して現地へ向かうよう会社から指示されている場合には、その時間は労働時間と判断される可能性があります。
一方で、公共交通機関を利用し、自由利用が認められているだけの移動であれば、休日労働に当たらないケースもあります。
休日出張では、「休日だから」ではなく、「どのような移動をしていたか」が重要になります。
実務上の注意点
企業が社有車による移動を管理する場合には、就業規則や出張規程で取扱いを明確にしておくことが重要です。
例えば、次のような事項を定めておくと、労務トラブルの防止につながります。
- 社有車運転時の勤務開始時刻
- 集合場所から現場までの取扱い
- 資材や機材運搬時の勤怠管理
- 休日運転時の賃金処理
- 運転日報や運行記録の保存方法
また、運転日報だけでなく、運行記録やGPS、ETC利用履歴なども活用し、客観的な勤務記録を残すことが望まれます。
結論
社有車による移動時間は、単なる「移動」ではなく、「運転という業務」を行っている時間として評価されることが多くあります。そのため、公共交通機関による移動とは異なり、労働時間に該当する可能性が高い点を理解しておく必要があります。
企業は、運転業務の実態に応じた勤怠管理を行い、就業規則や出張規程でルールを明確に定めることが重要です。適切な制度運用を行うことで、未払残業代や労務トラブルの防止につながるでしょう。
参考
企業実務 2026年8月号
「出張時等の『移動時間』の取扱いと未払残業代を防ぐ制度設計」 社会保険労務士法人岡佳伸事務所 特定社会保険労務士 岡佳伸 著