高齢者の貢献が現役世代の負担を増やすのはなぜか 後期高齢者医療制度の矛盾を読み解く

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75歳以上でも元気に働き、社会を支える高齢者が増えています。本来であれば、高齢者が働き続けることは税収の増加や社会保障制度の支えとなり、現役世代の負担軽減につながると考えられます。

しかし、後期高齢者医療制度には意外な仕組みがあります。現役並みの所得がある高齢者が増えるほど、現役世代が負担する支援金(いわゆる「仕送り」)が増えてしまうという逆転現象が起きているのです。

日本経済新聞は2025年度、この制度上の影響によって現役世代の負担が約400億円増えたと試算しました。

今回は、この制度の仕組みと課題、今後の制度改革の方向性について分かりやすく解説します。

後期高齢者医療制度とは何か

75歳以上の人が加入する公的医療保険制度です。

現役世代とは別の医療保険制度として2008年にスタートしました。

医療費は次の3つの財源で支えられています。

・本人が支払う保険料
・現役世代からの支援金
・国・都道府県・市町村による公費

制度全体では、おおむね次の割合となっています。

・本人保険料 約1割
・現役世代からの支援金 約4割
・公費 約5割

つまり、高齢者医療は保険料だけではなく、税金と現役世代の保険料によって成り立っています。

現役並み所得とは何か

75歳以上でも一定以上の所得がある人を「現役並み所得者」と呼びます。

代表的な基準は次のとおりです。

・単身世帯で年収約383万円以上
・夫婦世帯で年収約520万円以上

この水準に達すると、医療費の自己負担割合は3割になります。

一般的な75歳以上は1割負担ですが、一定所得以上の人には現役世代と同じ負担割合が適用されます。

なぜ現役世代の負担が増えるのか

ここが今回の記事の最大のポイントです。

一般的な高齢者の医療費には公費が投入されます。

しかし、3割負担となる現役並み所得者については、公費が投入されません。

不足する財源は現役世代からの支援金で補われる仕組みとなっています。

つまり、

高齢者が働く

所得が増える

3割負担対象になる

公費がなくなる

現役世代の支援金が増える

という逆転現象が起きるのです。

制度設計上の「落とし穴」ともいえる部分です。

なぜこの制度になったのか

背景には制度改正の歴史があります。

2002年、老人保健制度では現役並み所得者を2割負担としました。

所得が高い人には税金を投入しなくてもよいという考え方が採用されました。

その後、2008年に後期高齢者医療制度へ移行し、現役並み所得者は3割負担となりました。

しかし、公費を投入しないというルールはそのまま残されました。

当時は対象者が少なかったため、大きな問題にはなりませんでした。

なぜ今になって問題が大きくなったのか

社会環境が大きく変わったためです。

第一に、団塊の世代がすべて75歳以上となり、後期高齢者が急増しました。

第二に、健康寿命が延びました。

元気なまま働き続ける高齢者が増えています。

第三に、高齢者の賃金水準も上昇しています。

70歳以上の給与も上昇し、現役並み所得に達する人が増えています。

制度が想定していた以上に3割負担対象者が増えたことが、現在の問題につながっています。

400億円増加とは何を意味するのか

日本経済新聞の試算では、2025年度に3割負担対象者が約13万人増加しました。

その結果、現役世代から後期高齢者医療制度へ支払う支援金は約400億円増えたとされています。

一方で、公費は約500億円抑制されたと試算されています。

つまり、

税金は減った

しかし

現役世代の保険料は増えた

という構図です。

負担の主体が税金から保険料へ移ったともいえます。

現在議論されている改革案

現在、複数の改革案が議論されています。

一つは75歳以上の窓口負担を原則3割へ拡大する案です。

一方で、それだけでは現役世代の負担は十分には減らないという指摘があります。

そこで、

3割負担対象者にも公費を投入する

という案も浮上しています。

健康保険組合連合会は、給付費の半額程度を公費で負担すべきだとして約5,000億円規模の公費投入を提言しています。

今後は、

・高齢者の自己負担
・現役世代の支援金
・国や自治体の公費

この3つを一体で見直す議論が進む可能性があります。

この問題から私たちが考えるべきこと

高齢者が働くこと自体は、日本経済にとって非常に望ましいことです。

人手不足の緩和につながり、税収も増えます。

しかし、制度設計が時代の変化に追いついていなければ、そのメリットを十分に生かすことはできません。

「働く高齢者が増えるほど現役世代の負担が増える」という状況は、多くの国民にとって直感に反する仕組みです。

今後は、高齢者の就労促進と現役世代の負担軽減を両立できるよう、医療保険制度全体の財源配分を見直すことが重要になるでしょう。

結論

後期高齢者医療制度では、現役並み所得のある75歳以上が3割負担になる一方、その給付費には公費が投入されない仕組みとなっています。このため、働く高齢者が増えるほど現役世代の支援金負担が増えるという制度上の矛盾が生じています。

少子高齢化が進む中で、高齢者の活躍を社会全体の利益につなげるためには、自己負担割合だけでなく、公費負担のあり方も含めた制度改革が欠かせません。公平性と持続可能性の両立を図ることが、今後の社会保障改革の大きな課題となるでしょう。

参考

日本経済新聞(2026年8月7日 朝刊)
「高齢者の貢献、現役に打撃 医療費3割負担なら公費ゼロ 昨年度日経試算、『仕送り』400億円増の矛盾」

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