メガバンクが超富裕層向けビジネスを急速に強化しています。
かつて銀行の富裕層向けサービスといえば、預金を預かり、投資信託や債券などの金融商品を提案する資産運用が中心でした。
しかし現在、大手金融機関が力を入れているウェルスマネジメントは、それだけではありません。
企業オーナーであれば会社の経営やM&A、事業承継、自社株対策まで対象になります。個人についても資産運用だけでなく、不動産、相続、遺言、家族への資産承継などを長期的に支援します。
つまりウェルスマネジメントとは、金融資産だけを見るのではなく、顧客が持つ会社や不動産、そして家族まで含めて資産全体を管理していく考え方です。
ウェルスマネジメントとは何か
ウェルスとは英語で富や財産を意味します。
ウェルスマネジメントを直訳すると富の管理となりますが、実際のサービス範囲は単純な資産管理よりはるかに広くなります。
例えば企業オーナーが10億円の金融資産と自社株、不動産を保有しているとします。
この人にとって重要なのは、10億円をどの商品で運用するかだけではありません。
会社を誰に引き継ぐのか、自社株をどうするのか、不動産をどのように管理するのか、相続税の納税資金をどう準備するのかといった問題が相互に関係します。
そこで資産を個別に考えるのではなく、顧客の財産全体を一つのものとして捉えるのがウェルスマネジメントです。
従来の資産運用とは何が違うのか
一般的な資産運用では、主に金融資産をどう増やすかを考えます。
例えば1億円の金融資産があれば、株式、債券、投資信託、預金などにどの程度配分するかを考えます。
これに対してウェルスマネジメントでは、そもそも何のために資産を保有しているのかというところから考えます。
老後の生活に使うのか。
子どもへ引き継ぐのか。
会社を次世代へ残すのか。
社会貢献に使うのか。
こうした目的によって適切な資産管理の方法は変わります。
したがってウェルスマネジメントでは、運用利回りだけではなく、人生や家族、企業経営まで含めた長期的な設計が重要になります。
銀行は何を担当するのか
ウェルスマネジメントでは一つの金融機関だけですべての問題を解決することは難しくなります。
そこでメガバンクはグループ内の銀行、証券会社、信託銀行などを組み合わせてサービスを提供します。
銀行が得意とするのは預金と融資です。
企業オーナーであれば会社への融資だけでなく、個人への融資もあります。
巨額の株式や不動産を保有していても、それを売却したくない場合があります。
その場合、銀行から資金を借りることで資産を保有したまま必要な現金を確保できます。
融資は超富裕層との長期的な関係を築く重要な入り口にもなります。
証券会社は何を担当するのか
証券会社は金融資産の運用や資本市場に関するサービスを得意とします。
株式や債券などによる資産運用だけではありません。
企業オーナーであれば、自社株の売却やM&A、資本政策などにも関係します。
例えば創業した会社を第三者へ売却する場合、企業価値が数十億円、数百億円になることもあります。
証券会社などがM&Aを支援し、オーナーが保有する株式を売却すると、今度はオーナー個人の手元に巨額の現金が入ります。
そこで次に、その資金をどう運用するのかというウェルスマネジメントの仕事が生まれます。
企業金融と個人資産管理がつながっているわけです。
信託銀行は何を担当するのか
超富裕層では資産を増やすこと以上に、資産をどう引き継ぐかが大きな問題になります。
ここで重要になるのが信託銀行です。
信託銀行は相続、遺言、不動産、資産承継などの分野を得意としています。
例えば金融資産が10億円あっても、それを単純に子どもへ均等に相続させればよいとは限りません。
企業オーナーの場合、自社株まで均等に分けてしまうと会社の経営権が分散する可能性があります。
後継者には自社株を集中させ、ほかの相続人には金融資産や不動産を渡すといった設計が必要になることがあります。
資産運用と相続、事業承継を別々に考えることができないのです。
なぜM&Aまで扱うのか
ウェルスマネジメントとM&Aは一見すると別のビジネスに見えます。
しかし企業オーナーの場合、両者は密接につながっています。
例えば創業者が保有する会社の株式価値が30億円だったとします。
会社を経営している間は、この30億円は自社株という形で存在します。
会社を売却すると、自社株が現金などの金融資産へ変わります。
これを資産の現金化と考えることができます。
企業オーナーの資産構成が一瞬で大きく変わるため、その後の資産管理が必要になります。
金融機関にとってはM&Aを支援して終わりではありません。
売却によって生まれた資金を預金や運用資産として受け入れれば、その後も長期間にわたって取引を続けられます。
だからこそM&Aとウェルスマネジメントが一体化していきます。
なぜ不動産まで扱うのか
超富裕層の財産は金融資産だけとは限りません。
むしろ企業オーナーや資産家では、不動産が財産の大きな割合を占めることがあります。
自宅、賃貸マンション、オフィスビル、商業施設、土地など、さまざまな不動産を保有しているケースがあります。
不動産は資産運用だけでなく、相続とも密接に関係します。
どの不動産を保有し続けるのか、売却するのか、建て替えるのか、次世代へ引き継ぐのかによって資産全体の設計が変わります。
そのためウェルスマネジメントでは金融商品だけを提案していても、顧客の資産全体を管理することはできません。
不動産まで含めて考える必要があります。
メガバンクが強化する背景
日本のメガバンクがウェルスマネジメントを強化する最大の理由の一つは、超富裕層の資産規模が拡大していることです。
野村総合研究所によると、純金融資産5億円以上を保有する超富裕層は2023年に約12万世帯となり、2019年から約4割増えました。
保有する金融資産は約135兆円に達しています。
株価や不動産価格の上昇に加えて、企業売却や相続などによって巨額の金融資産を持つ人が増えています。
こうした顧客を獲得できれば、銀行は預金だけでなく、融資、資産運用、M&A、不動産、相続など幅広い取引から収益を得られます。
一人の顧客との取引規模が非常に大きいのです。
預金と融資から資産管理へ
日本の銀行は長い間、預金を集め、その資金を企業や個人へ貸し出し、金利差から利益を得るビジネスを中心としてきました。
ウェルスマネジメントでは収益源が大きく異なります。
資産運用の手数料、M&Aの助言手数料、不動産取引、相続や資産承継など、さまざまなサービスから収益を得ます。
さらに顧客本人だけで終わりません。
子どもや孫へ資産が引き継がれれば、金融機関との関係も次世代へ続く可能性があります。
一人の超富裕層を顧客にするというより、一族全体と数十年単位の関係を築くビジネスになっていくわけです。
結論
ウェルスマネジメントとは、富裕層の金融資産を運用するだけのサービスではありません。
銀行による預金や融資、証券会社による資産運用やM&A、信託銀行による不動産、相続、事業承継などを組み合わせ、顧客が持つ財産全体を長期的に管理する仕組みです。
特に企業オーナーの場合、会社と個人の資産を切り離して考えることは難しくなります。
会社を売却すれば自社株が巨額の金融資産へ変わり、事業を承継すれば自社株と経営権を次世代へ移す必要があります。
そこに相続や不動産の問題も加わります。
だからこそメガバンクは銀行、証券、信託をまたいだ一体運営を強化しています。
銀行が管理する対象は、預金から金融資産へ、さらに企業、不動産、家族へと広がっています。
ウェルスマネジメントの拡大は、日本の銀行が単にお金を預かって貸す存在から、顧客の資産と事業、そしてその承継まで長期間支える存在へ変わろうとしていることを示しているといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 メガ銀、「超富裕層」を争奪 三井住友は営業担当者2倍
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 超富裕層 金融資産5億円以上の世帯