結婚や出産、育児、介護、配偶者の転勤など、人生には仕事を続けたくても一度離職せざるを得ない場面があります。しかし、近年では人手不足が深刻化する中で、一度職場を離れた経験豊富な人材を再び迎え入れる「リターンシップ」が注目されています。
従来は、新卒採用や中途採用が人材確保の中心でしたが、近年ではブランクのある人材の経験や能力を積極的に活用する企業が増えています。
特に、育児や介護を理由に退職した女性や、高度な専門知識を持つ人材が再び活躍できる環境を整えることは、多様な人材を生かす人的資本経営の観点からも重要です。
今回は、リターンシップ制度の仕組みや女性活躍との関係、海外企業の事例について解説します。
リターンシップとは
リターンシップとは、一度離職した人が職場へ復帰するための支援制度です。
英語の「Return」と「Internship」を組み合わせた言葉で、一定期間の研修や試用期間を設けながら、職場への再適応を支援する仕組みとして広がっています。
一般的な中途採用との違いは、ブランクがあることを前提に教育やサポートを行う点です。
そのため、
・育児で数年間離職した人
・介護を終えて再就職を希望する人
・家庭の事情で退職した人
・別業界へ転職した後に元の分野へ戻る人
などが対象となります。
なぜ注目されているのか
日本では少子高齢化による人手不足が深刻化しています。
一方で、出産や育児を理由に離職した女性の中には、高い専門性や豊富な実務経験を持つ人も数多くいます。
企業にとっては、新たな人材を一から育成するよりも、経験者が再び活躍できる環境を整えることは大きなメリットがあります。
また、働く側にとっても、ブランクがあることへの不安を軽減しながら職場へ復帰できる点が魅力です。
女性活躍との関係
リターンシップが特に注目される理由の一つは、女性のキャリア形成との関係です。
日本では、以前に比べて就業継続率は向上したものの、出産や育児を機に離職する女性は依然として少なくありません。
離職期間が長くなるほど、
・仕事の勘を取り戻せるか不安
・デジタル技術の変化についていけるか心配
・家庭との両立ができるか分からない
といった悩みを抱える人もいます。
リターンシップでは、こうした不安に配慮しながら段階的に職場へ復帰できるため、女性が再び能力を発揮する機会を広げることができます。
海外企業の事例
リターンシップは欧米を中心に広がっています。
特にアメリカやイギリスでは、金融機関やIT企業、コンサルティング会社などが積極的に制度を導入しています。
代表的な取り組みでは、
・一定期間の研修プログラム
・メンターによる支援
・最新技術の学習機会
・職場への段階的な復帰
などを組み合わせ、ブランクがある人でも安心して働き始められる環境を整えています。
これらの制度を通じて、企業は即戦力となる経験豊富な人材を確保し、働く人は自信を持ってキャリアを再開できるという効果が期待されています。
日本企業への広がり
日本でも近年、リターンシップに近い制度を導入する企業が増えています。
例えば、
・退職者の再雇用制度
・アルムナイ採用
・育児後の復職支援
・再就職研修
などがその例です。
特に専門職や技術職では、一度退職した人材の知識や経験を生かそうという動きが広がっています。
今後、人材不足が一層深刻化すれば、このような制度の重要性はさらに高まるでしょう。
人的資本経営との関係
人的資本経営では、多様な経験を持つ人材を活用することが企業価値向上につながると考えられています。
一度離職した経験がある人は、
・育児や介護の経験
・他業界での経験
・多様な価値観
など、新しい視点を持っていることがあります。
こうした経験は、組織に新たな発想や柔軟性をもたらす可能性があります。
リターンシップは、単なる人手不足対策ではなく、多様な人材を生かす経営戦略としても注目されています。
今後の課題
リターンシップを広げるためには、制度だけでなく職場の理解も欠かせません。
ブランクを理由に能力を過小評価したり、重要な仕事を任せなかったりすれば、本来の力を発揮することはできません。
また、
・柔軟な勤務制度
・リスキリングの機会
・管理職の理解
・公平な評価制度
なども重要になります。
安心して職場へ戻れる環境づくりが、制度の成功を左右するといえるでしょう。
結論
リターンシップとは、一度離職した人が安心して職場へ復帰できるよう支援する仕組みです。育児や介護などでキャリアが中断した人に対して、研修やサポートを行いながら再び能力を発揮できる環境を整えることを目的としています。
少子高齢化による人手不足が進む日本では、経験豊富な人材を再び活用することの重要性が高まっています。特に女性のキャリア継続を支援する手段として、リターンシップは大きな可能性を持っています。
企業が多様な人材を人的資本として生かすためには、ブランクではなく能力や経験に目を向け、誰もが再挑戦できる職場づくりを進めることが求められるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 私見卓見「女性の定年にも目を向けて」
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」
厚生労働省「女性活躍推進に関する各種資料」