少子高齢化による人手不足が深刻化する中で、企業にとって人材は最も重要な経営資源となっています。こうした背景から近年注目されているのが「人的資本経営」です。
人的資本経営では、従業員を単なる労働力ではなく、企業価値を生み出す資本として捉えます。その中で、これまで十分に活用されてこなかったシニア女性の経験や知識に改めて注目が集まっています。
男女雇用機会均等法の施行から40年が経過し、多くの女性が定年を迎える時代になりました。長年にわたり培った経験をどのように企業価値へ結び付けるかは、これからの企業経営にとって重要なテーマとなっています。
今回は、人的資本開示との関係、多様性指標、企業の取り組みについて解説します。
人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材への投資を企業の成長や企業価値の向上につなげる経営の考え方です。
従来は、人件費はコストとして考えられることが多くありました。
一方、人的資本経営では、
・知識
・技能
・経験
・創造性
・健康
など、人が持つ能力そのものを企業の資産として捉えます。
従業員が能力を発揮し続けられる環境を整えることが、中長期的な企業価値向上につながると考えられています。
なぜシニア女性が重要なのか
現在、定年を迎える女性の多くは、長年にわたり企業で実務経験を積んできました。
管理職経験が少ない人もいますが、
・事務改善
・顧客対応
・営業支援
・社内調整
・人材育成
など、企業運営を支える豊富な知識や経験を持っています。
こうした経験は簡単に代替できるものではありません。
しかし、再雇用後は補助的な仕事だけを任されるケースもあり、能力を十分に生かし切れていない企業もあります。
人的資本経営では、このような経験を積極的に活用することが重要になります。
人的資本開示との関係
近年、多くの上場企業では人的資本に関する情報開示が進んでいます。
人的資本開示では、
・人材育成
・多様性
・従業員エンゲージメント
・健康
・リーダー育成
などについて説明することが求められています。
シニア女性が活躍できる環境を整えることは、多様な人材を活用する企業として投資家からの評価にもつながります。
制度だけでなく、実際に経験豊富な人材が活躍しているかどうかが重要になっています。
多様性指標が示すもの
人的資本経営では、多様性も重要なテーマです。
これまで多様性というと、
・女性比率
・外国人比率
・障害者雇用
などが注目されてきました。
しかし現在では、
・年齢の多様性
・経験の多様性
・価値観の多様性
も重要視されています。
シニア女性は、長年の経験と女性ならではの視点を兼ね備えた存在です。
年齢や性別を理由に役割を限定するのではなく、多様な視点を組織へ取り入れることが企業競争力の向上につながります。
活躍の場を広げるために
シニア女性が能力を発揮するためには、仕事内容を見直すことも重要です。
例えば、
・若手社員の育成担当
・業務改善プロジェクト
・品質管理
・社内研修講師
・顧客対応のアドバイザー
など、経験を生かせる役割は数多くあります。
これまで培った知識を組織全体へ伝えることは、企業にとっても大きな財産となります。
企業が取り組むべきこと
人的資本経営を実践するためには、制度面の整備も欠かせません。
例えば、
・リスキリングの機会提供
・柔軟な勤務制度
・公平な評価制度
・キャリア面談の実施
・健康支援
などが挙げられます。
特に再雇用後も学び続けられる環境を整えることで、新しい分野でも活躍できる可能性が広がります。
また、更年期や介護などライフステージの変化にも配慮した働き方を整えることが、長期的な活躍につながります。
成功企業に共通する考え方
シニア人材を積極的に活用している企業には、いくつかの共通点があります。
年齢だけで役割を決めるのではなく、
・経験を評価する
・本人の希望を尊重する
・学び直しを支援する
・世代間の交流を促進する
といった取り組みを進めています。
こうした企業では、若手とシニアが互いに学び合う文化が生まれ、組織全体の成長にもつながっています。
結論
人的資本経営では、人材を企業価値を生み出す重要な資本として捉えます。その中でもシニア女性は、長年にわたり培った知識や経験を持つ貴重な存在です。
年齢や性別だけで役割を限定するのではなく、多様な経験や能力を正しく評価し、活躍の場を広げることが企業の競争力向上につながります。
人手不足が続くこれからの時代には、シニア女性の経験を組織全体で共有し、次世代へ継承していくことが人的資本経営の重要なテーマとなるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 私見卓見「女性の定年にも目を向けて」
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」
内閣官房「人的資本可視化指針」