高市トレードの勝率はなぜ2割なのか 日経平均32%上昇の裏側で進む国策銘柄の選別

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高市早苗政権が発足してから、まもなく1年を迎えます。

この間、日本の株式市場は大きく上昇しました。日経平均株価は政権発足前と比較して32%上昇し、積極財政と成長投資に対する期待が株価を押し上げてきました。

ところが、個別企業の株価を詳しく調べると、意外な事実が浮かび上がります。

政府が重点投資を掲げる17の戦略分野に関連する約230銘柄のうち、日経平均株価の上昇率を上回ったのは57銘柄にとどまりました。

全体の約2割です。

つまり、国策関連銘柄として注目された企業の約8割は、市場平均に勝てなかったことになります。

なぜ、政府が成長を後押しする企業の株価が期待ほど上昇しなかったのでしょうか。

その背景には、政策期待と企業収益の間に存在する大きな隔たりがあります。

日経平均32%上昇と国策銘柄の明暗

高市政権は2025年10月の発足以来、責任ある積極財政を経済政策の柱として掲げてきました。

2026年7月にまとめた日本成長戦略では、人工知能、半導体、防衛、宇宙など17の戦略分野に対し、2040年度までに官民で370兆円超を投資する構想を打ち出しました。

370兆円という数字は、日本の年間国内総生産の半分を超える規模に相当します。

もっとも、これは政府が370兆円を直接支出するという意味ではありません。

民間企業による設備投資や研究開発投資なども含む長期的な投資構想です。

政権発足直後には、こうした積極財政への期待から日本株が買われ、円が売られる高市トレードが広がりました。

しかし、株価上昇の恩恵は、すべての国策関連企業に均等に及んだわけではありません。

QUICKが選定した日本成長戦略関連銘柄約230銘柄のうち、日経平均を上回ったのは57銘柄でした。

ここで重要なのは、株価が上昇したかどうかと、市場平均を上回ったかどうかは異なるという点です。

例えば、株価が20%上昇した企業であっても、日経平均が32%上昇していれば、市場平均には負けたことになります。

投資家にとっては、政策関連企業を購入するだけでは十分な投資成果を得られなかったということです。

防衛関連株が失速した理由

高市政権の発足当初、最も注目された分野の一つが防衛産業でした。

安全保障環境の変化を背景に、防衛予算の拡大や防衛装備品の需要増加が期待されたためです。

ところが、2025年9月末を基準とした株価騰落率では、三菱重工業が3%下落、IHIが7%下落しました。

日経平均が32%上昇したことを考えると、大きな差があります。

この背景として考えられるのが、政策期待の先取りです。

株式市場では、企業の利益が実際に増える前から将来の成長を織り込んで株価が上昇することがあります。

防衛関連株についても、予算拡大や受注増加への期待が早い段階で株価に反映されていた可能性があります。

三菱重工業の予想PERは、2026年1月には71倍台まで上昇しました。

PERとは、株価が企業の1株当たり予想利益の何倍まで買われているかを示す指標です。

PERが71倍ということは、現在の利益水準に対して極めて高い成長期待が織り込まれていることを意味します。

その後、予想PERは33倍台まで低下しました。

ただし、PERの低下だけで割安になったとは判断できません。

株価の下落によって低下したのか、予想利益の増加によって低下したのかを確認する必要があります。

防衛産業の長期的な成長可能性と、現在の株価水準が適正かどうかは分けて考えるべきです。

AIと半導体に資金が集中した背景

一方、国策関連銘柄の中でも突出した上昇を記録したのがAIと半導体関連企業です。

キオクシアホールディングスの株価は約8.4倍となりました。

イビデンは約4.2倍、アドバンテストは約2.4倍に上昇しました。

この違いを考えるうえで重要なのは、政府の政策だけでなく、世界的な需要拡大という要因です。

AIの普及によって、データセンター向けの半導体やメモリー、半導体検査装置などの需要が拡大しています。

こうした企業は、日本政府の成長戦略とは別に、世界市場の成長による恩恵を受けています。

つまり、国策関連銘柄の中でも、実際の需要拡大が企業収益につながる分野に投資資金が集中したと考えられます。

ただし、半導体関連株の上昇をすべて業績改善だけで説明することもできません。

海外投資家の資金流入や株価指数先物の売買など、市場全体の需給要因も影響します。

政策期待、業績成長、投資資金の流れという3つの要素を区別することが重要です。

370兆円の投資構想で問われる資金配分

高市政権の成長戦略において、今後の最大の焦点となるのが370兆円の具体的な使い道です。

投資総額が大きいことと、経済成長への効果が大きいことは必ずしも一致しません。

例えば、研究開発に多額の資金を投入しても、技術の事業化に失敗すれば期待した収益は得られません。

一方、比較的小規模な投資であっても、生産性向上や輸出拡大につながれば大きな経済効果を生む可能性があります。

重要なのは、投資金額そのものではなく、投資によってどれだけの付加価値が生み出されるかという点です。

企業経営でいえば、投下資本利益率であるROICの考え方に近いものがあります。

ROICは、事業に投じた資本からどれだけ効率的に利益を生み出しているかを測定する指標です。

政府の成長投資についても、資金投入後の成果を継続的に検証する仕組みが求められます。

もちろん、防衛や防災のように、直接的な利益だけでは評価できない分野もあります。

国民の安全確保や災害被害の軽減など、社会的な便益を含めた評価が必要です。

そのため、17分野すべてを同じ基準で評価することは適切ではありません。

国策に売りなしという格言の限界

株式市場には、国策に売りなしという格言があります。

政府が重点的に支援する産業には資金が流入し、関連企業の株価が上昇しやすいという考え方です。

しかし、今回の高市トレードの結果は、この格言をそのまま投資判断に利用することの危険性を示しています。

政策によって市場が拡大しても、企業の利益が増えるとは限りません。

補助金によって設備投資が拡大しても、過剰供給が発生すれば価格競争が激しくなる可能性があります。

また、政府の支援対象となる企業が増えれば、限られた予算が分散することも考えられます。

国策関連企業の投資価値を判断する際には、少なくとも次の5つの視点が必要です。

第一に、政策によって実際の需要がどれだけ増えるのか。

第二に、その需要を自社の売上高として取り込めるのか。

第三に、売上高の増加が営業利益やキャッシュフローの増加につながるのか。

第四に、成長期待がすでに株価に織り込まれていないか。

第五に、政府の支援が縮小しても競争力を維持できるのか。

これらを確認することで、政策期待だけで株価が上昇している企業と、持続的な利益成長が期待できる企業を区別しやすくなります。

今後5年間の実行計画が重要になる

2026年末にかけて策定される日本成長戦略実行計画は、今後の国策関連銘柄を考えるうえで重要な材料になります。

この計画では、今後5年間の投資の道筋や政府の支援内容、必要な予算額などが示される見通しです。

これまでの市場は、370兆円という投資規模そのものに注目してきました。

しかし、今後は具体的な予算配分や投資効果を重視する段階に移ると考えられます。

特に防衛、半導体、AI、国土強靱化などの分野では、政策の継続性と民間企業の収益機会を見極めることが重要になります。

例えば、防衛関連企業であれば、政府予算の増加だけでなく、受注残高、採算性、生産能力、納期、研究開発負担などを確認する必要があります。

半導体関連企業では、世界的な需要動向や設備投資循環、技術競争力などが重要になります。

防災関連企業では、国内需要だけでなく、海外市場への展開可能性も評価対象となります。

同じ国策関連銘柄であっても、投資判断に必要な指標は業種によって異なるのです。

結論

高市政権の発足から約1年間で、日経平均株価は32%上昇しました。

しかし、成長戦略関連銘柄約230銘柄のうち、市場平均を上回ったのは57銘柄にとどまりました。

この結果が示しているのは、国策関連銘柄を購入すれば必ず利益が得られるという単純な時代ではないということです。

政府の成長戦略は、企業に新たな事業機会を提供します。

しかし、その機会を実際の売上高や利益、キャッシュフローに転換できるかどうかは、それぞれの企業の競争力と経営判断に左右されます。

さらに、優れた企業であっても、株価が将来の成長を過大に織り込んでいれば、投資成果が期待を下回る可能性があります。

今後の日本株投資では、政策の方向性を理解したうえで、企業の収益力と株価水準を冷静に評価する姿勢が重要になります。

370兆円という巨額の投資構想が、日本経済の持続的な成長につながるかどうか。

その答えは、投資総額の大きさではなく、資金配分の質と企業が生み出す成果によって決まります。

国策に売りなしという格言から、国策の中身と企業の実力を見極める投資へ。

高市トレードの勝率2割という数字は、日本の株式市場が新たな選別の段階に入ったことを示しているのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月20日 高市トレード勝率2割 どう使う370兆円、三菱重やIHIに再評価余地

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