非上場株の相続税評価見直しに自民党が異議―「白地から議論」が意味する事業承継と税負担の行方

税理士
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非上場株式の相続税評価を巡り、政府・与党内で大きな議論が起きています。

2026年10月29日、自民党の日本成長戦略本部は、国税庁が検討している非上場株式の相続税評価の見直し案について、「容認できない」とする緊急決議を取りまとめました。

決議では、国税庁の現行案を検討の前提とせず、白地から議論を行うべきだと主張しています。

非上場株式の評価方法は、中小企業の経営者や後継者にとって極めて重要な問題です。評価額が上昇すれば、相続税や贈与税の負担が増え、円滑な事業承継が難しくなる可能性があるためです。

一方、現行制度には、企業の実態と評価額が乖離する問題や、財産の保有形態によって税負担に差が生じる問題も指摘されています。

今回の議論は、単なる株式評価方法の変更ではありません。税負担の公平性と中小企業の成長・事業承継をどのように両立させるのかという、日本の税制が抱える根本的な課題を浮き彫りにしています。

非上場株式の相続税評価の基本的な仕組み

非上場株式とは、証券取引所に上場していない企業の株式です。

上場株式には市場価格がありますが、非上場株式には日々の取引によって形成される客観的な市場価格がありません。

そのため、相続税や贈与税を計算する際には、会社の規模や財務内容、株主の立場などに応じて評価額を算定します。

現行の財産評価基本通達では、同族株主等が取得する株式について、原則的評価方式として主に次の方法が採用されています。

類似業種比準方式

事業内容が類似する上場企業の株価を参考にし、配当金額、利益金額、純資産価額などを比較して評価する方法です。

純資産価額方式

会社の資産と負債を相続税評価の考え方に基づいて評価し、一定の法人税額等相当額を調整した純資産価額から株式価値を算定する方法です。

併用方式

類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で組み合わせる方法です。

一般に、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両方式の併用が基本となります。ただし、選択可能な評価方法や特定の評価会社に関する例外もあります。

また、同族株主以外の一定の少数株主については、配当還元方式が適用される場合があります。

このように、非上場株式の評価は会社の規模だけでなく、株主構成や資産内容によっても大きく変わります。

国税庁が評価方法の見直しを検討する背景

今回の見直しの背景には、会計検査院による問題提起があります。

現行の非上場株式評価について、企業の実態との乖離や税負担の公平性に関する問題が指摘されました。

例えば、収益力が高い企業であっても、評価方法によっては企業の経済的価値が相続税評価額に十分反映されない場合があります。

逆に、利益が少ない企業でも、不動産や有価証券などを多く保有していれば、純資産価額が高くなる場合があります。

さらに、会社規模の判定や評価方式の違いによって、類似した経済的実態を持つ企業でも株式評価額に大きな差が生じることがあります。

国税庁は2026年8月、純資産と数年分の収益を基準に評価する新たなルール案を示しました。

企業の保有資産だけでなく、収益を生み出す力も評価に反映させる方向です。

ただし、具体的な計算方法や調整措置は今後の議論によって変わる可能性があります。

したがって、現段階で個々の企業の評価額が何%上昇するかを一律に判断することはできません。

自民党が国税庁案に強く反対する理由

自民党の日本成長戦略本部が問題視しているのは、評価方法の変更によって中小企業の税負担が大幅に増加する可能性です。

特に、資産規模が大きい企業や収益性の高い企業では、新しい評価方法によって株式評価額が上昇することが懸念されています。

企業が利益を積み重ね、財務基盤を強化し、競争力を高めるほど、将来の相続税負担が重くなるのであれば、経営者の投資意欲を損なう可能性があります。

岸田文雄元首相は、企業の稼ぐ力を高めて経済成長につなげる政策と、今回の見直し案との整合性に疑問を示しています。

今回の緊急決議では、現行案を修正するだけではなく、検討の出発点そのものを見直すよう求めました。

これは、個別の評価計算の問題を超えて、成長する中小企業に対して相続税がどのような役割を果たすべきかという政策判断を求めるものです。

株式評価額の上昇が事業承継に与える影響

非上場株式の相続で特に問題になるのは、評価額と納税資金が必ずしも一致しないことです。

例えば、創業者が保有する非上場株式の評価額が3億円であっても、その株式を相続した後継者が3億円の現金を受け取るわけではありません。

株式の価値は企業の資産や収益力に基づいて算定されますが、相続税は原則として金銭で納付する必要があります。

非上場株式は市場で容易に売却できないため、後継者が納税資金を確保できない場合があります。

仮に株式評価額が3億円から5億円に上昇すれば、相続財産全体の構成や各種控除などの条件によっては、相続税負担が大きく増える可能性があります。

この場合、後継者は自己資金の投入、金融機関からの借入れ、会社からの配当などによって納税資金を準備しなければなりません。

資金調達が難しければ、株式や事業資産の売却を検討する事態も考えられます。

企業の成長によって株式価値が上昇すること自体は望ましいことですが、その結果として事業承継が困難になるのであれば、税制上の調整が必要だという議論には合理性があります。

事業承継税制との関係

非上場株式の相続税評価を考える際には、事業承継税制との関係も重要です。

法人版事業承継税制には、一定の要件を満たす非上場株式について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度があります。

特例措置では、対象株式について一定の条件の下で納税猶予を受けられます。

ただし、制度の適用には、後継者や会社の要件、必要な手続き、継続的な報告などがあり、すべての企業が無条件に利用できるわけではありません。

また、納税猶予は原則として直ちに税負担が消滅する制度ではなく、一定の事由によって猶予税額の納付が必要になる場合があります。

今回の自民党決議では、非上場株式の評価方法の見直しと、事業承継税制の特例措置に関する議論を切り分けるよう求めています。

これは重要な視点です。

株式評価額を算定する仕組みと、その評価額に基づいて発生する税負担を猶予する仕組みは、本来異なる政策目的を持っています。

評価方法そのものに問題がある場合、事業承継税制による納税猶予だけで解決できるとは限りません。

税負担の公平性と企業成長の両立

一方で、現行制度の問題を放置することにも課題があります。

相続税は、財産を相続した人の経済的負担能力に応じて課税する仕組みです。

非上場株式について、実際の経済的価値より著しく低い評価額が認められる場合には、他の財産を相続する人との公平性が問題になります。

例えば、同じ経済的価値を持つ財産であっても、現金や上場株式として保有する場合と、非上場会社の株式として保有する場合で、相続税評価額が大きく異なることがあります。

財産の保有形態によって税負担が過度に変わるのであれば、税制への信頼が損なわれる可能性があります。

そのため、今回の議論では、単純に評価額を引き上げるか、現行制度を維持するかという二者択一では不十分です。

企業の経済的価値を適切に評価しながら、事業継続に必要な資金を過度に圧迫しない仕組みが求められます。

評価方法の合理性、税負担の公平性、納税資金への配慮、企業の成長促進という複数の目的を総合的に検討する必要があります。

中小企業経営者が今から確認すべき事項

2027年度税制改正に向けた議論は、2026年11月以降に本格化する見通しです。

現時点では、国税庁案がそのまま制度化されると決まったわけではありません。

そのため、制度変更を前提として拙速に株式を贈与したり、資産構成を変更したりすることは避ける必要があります。

一方、現行制度に基づく自社株評価を把握しておくことには意味があります。

特に、次の事項を確認することが重要です。

  • 現在の自社株式の相続税評価額
  • 適用される評価方式と会社規模の判定
  • 利益や純資産の増加による評価額への影響
  • 株主構成と後継者への株式集約の状況
  • 事業承継税制の適用可能性
  • 相続発生時に必要となる納税資金

また、株式評価額が高い企業では、相続税の問題だけでなく、経営権の分散にも注意が必要です。

相続によって株式が複数の相続人に分かれれば、後継者の議決権割合が低下する可能性があります。

税負担への対策と経営権の安定確保を一体として考えることが大切です。

2027年度税制改正で注目すべき論点

今後の議論では、主に3つの点が注目されます。

第1に、国税庁が示した評価方法の見直し案が撤回されるのか、それとも修正されるのかという点です。

第2に、評価方法が変更される場合、既存の中小企業に対する経過措置や負担緩和措置が設けられるのかという点です。

第3に、事業承継税制の特例措置について、期限や適用要件などがどのように整理されるのかという点です。

特に重要なのは、制度変更の適用時期です。

相続税や贈与税の評価方法が変更される場合、いつ発生した相続や贈与から新しいルールを適用するのかによって、実務への影響は大きく異なります。

経営者や後継者は、年末の税制改正大綱だけでなく、その後の法令・通達の整備や適用時期にも注意する必要があります。

結論

非上場株式の相続税評価を巡る自民党の緊急決議は、中小企業の事業承継と相続税の公平性をどのように両立させるかという重要な問題を提起しています。

国税庁が検討する見直し案には、現行制度の評価上の問題を是正するという目的があります。

一方、企業の資産や収益力を評価額に反映させることが、結果として中小企業の相続税負担を増加させ、事業承継や成長投資を妨げる可能性もあります。

重要なのは、税負担の公平性だけでなく、企業の継続性や雇用、地域経済への影響も含めて制度を設計することです。

今回の緊急決議によって、国税庁案の見直しを求める政治的な動きは強まりましたが、制度の最終的な方向性はまだ確定していません。

中小企業経営者に求められるのは、制度変更の見通しだけに左右されるのではなく、現行制度に基づく自社株評価と事業承継計画を確認しておくことです。

企業の成長が将来の事業承継を困難にするのではなく、成長した企業が次世代へ円滑に引き継がれる税制を実現できるかどうか。

2027年度税制改正では、この視点からの議論が求められています。

参考

日本経済新聞 2026年10月30日 朝刊「非上場株の相続評価、自民決議『白地から議論を』 国税庁案認めず」

国税庁「財産評価基本通達」

国税庁「非上場株式の評価に関する取扱い」

国税庁「法人版事業承継税制」

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