銀行の経営を見る指標の一つに「預貸率」があります。
2026年8月時点の預貸率は、都市銀行が57.3%なのに対して、第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%でした。
都市銀行と第二地方銀行では20ポイントもの差があります。
預貸率が高い銀行ほど積極的に融資しているようにも見えますが、単純に高ければよいという数字ではありません。
金利のある世界で銀行の融資競争と預金争奪が激しくなるなか、預貸率から何が分かるのでしょうか。
預貸率とは預金のうちどれだけを貸し出しているかを見る指標
預貸率とは、銀行が集めた預金に対して、どの程度の貸出金を持っているかを見る指標です。
基本的には貸出金を預金で割って求めます。
例えば、預金が1兆円あり、貸出金が7,000億円であれば、預貸率は70%です。
預金100円に対して70円を企業や個人への融資に振り向けているイメージです。
預貸率を見ることで、銀行が預金という資金基盤をどの程度貸し出しに活用しているのかを把握できます。
都市銀行の預貸率は57.3%
2026年8月時点で都市銀行の預貸率は57.3%でした。
単純化すると、預金100円に対して貸出金が約57円あることになります。
一方、第一地方銀行は75.8%です。
預金100円に対して貸出金が約76円あります。
第二地方銀行はさらに高く77.3%です。
預金100円に対して約77円を貸し出している計算になります。
都市銀行と第二地方銀行の差は20ポイントです。
この違いは、大手銀行と地方銀行の資金構造の違いを考える重要な手掛かりになります。
預貸率が低いから融資に消極的とは限らない
都市銀行の預貸率が57.3%だからといって、大手銀行が融資に消極的という意味ではありません。
実際、都市銀行の国内融資残高は2026年8月時点で前年同月比7.9%増の280兆6,561億円まで増えています。
重要なのは貸出金だけでなく、分母となる預金の大きさです。
大量の預金を持っていれば、巨額の融資を行っていても預貸率は低くなることがあります。
また、銀行は預金をすべて企業や個人への融資に回しているわけではありません。
国債などの有価証券で運用したり、現金や日銀当座預金などとして保有したりします。
預貸率だけで銀行の融資姿勢を判断することはできません。
地方銀行の預貸率が高い背景
地方銀行の預貸率は都市銀行より高くなっています。
一つの理由として、地域で集めた預金を地域企業や個人への融資に活用するという地方銀行のビジネスモデルがあります。
地方銀行は地域の中小企業や住宅ローンなどに資金を供給しています。
一方で現在は、預金そのものを十分に増やすことが難しくなっています。
人口減少や高齢化が進む地域では、預金者の数が減っていきます。
さらに相続が発生すると、地方に住んでいた親の預金を東京や大阪など都市部に住む子どもが引き継ぐことがあります。
預金が地域外へ移れば、貸出金が変わらなくても預貸率は上昇します。
預金が減るだけでも預貸率は上がる
ここは重要なポイントです。
預貸率の上昇には2つの方向があります。
貸出金が増える場合と、預金が減る場合です。
例えば預金1兆円、貸出金7,000億円なら預貸率は70%です。
その後、貸出金が7,000億円のままでも預金が9,000億円へ減少すれば、預貸率は約77.8%まで上昇します。
融資を積極的に増やしたわけではありません。
預金が減った結果として預貸率が高くなっただけです。
したがって預貸率が上昇している銀行を見る場合には、貸出金が増えたのか、それとも預金が減ったのかを確認する必要があります。
預貸率が高ければ収益性も高いとは限らない
銀行は預金を集めるだけでは大きな収益を得られません。
集めた資金を融資などで運用し、利息を得る必要があります。
そのため一定程度の預貸率を維持することは銀行経営にとって重要です。
しかし、預貸率が高いほど収益性が高いとは限りません。
貸出金利が低ければ、融資を大量に行っても十分な利益を得られない場合があります。
反対に、大手銀行のように預貸率が比較的低くても、大型M&Aやプロジェクトファイナンスなど収益性の高い融資を獲得できれば利益を確保できます。
量だけでなく、どのような融資を行っているかも重要です。
預貸率が高すぎる場合には注意が必要
預貸率が極端に高くなると、別の問題も出てきます。
銀行は預金者から預金の払い戻しを求められれば対応する必要があります。
しかし企業への貸出金は、預金のようにすぐ現金化できるとは限りません。
長期間の融資であれば、返済期日まで資金が戻ってこない場合があります。
そのため銀行には一定の流動性を確保しておく必要があります。
預金に対して貸出金が過度に大きくなれば、預金流出が起きた場合に外部から資金を調達する必要性が高まることがあります。
預貸率は高ければ高いほどよいという指標ではないのです。
都市銀行には融資を増やす余地がある
都市銀行の預貸率57.3%という数字は、別の見方もできます。
豊富な預金基盤を持っているため、国内融資をさらに増やせる余地が比較的大きいという見方です。
実際、大手銀行は設備投資やM&Aなどの資金需要を積極的に取り込んでいます。
AIや半導体などで巨額の設備投資が続けば、大手銀行の貸出金はさらに増える可能性があります。
豊富な預金を持つことが、大型融資を拡大するための強みになるわけです。
地方銀行では預金の維持そのものが重要になる
地方銀行では事情が異なります。
第一地方銀行の預貸率は75.8%、第二地方銀行は77.3%です。
都市銀行よりすでに高い水準にあります。
ここから地域の預金が減少すれば、預貸率はさらに上昇する可能性があります。
預金が十分に確保できなければ、新しい融資案件があっても積極的に資金を出しにくくなることも考えられます。
地方銀行にとっては貸出先を探すだけでなく、地域の預金を維持すること自体が経営上の重要課題になってきます。
相続による預金流出が大きな問題になる
地方銀行の預金を考えるうえで見逃せないのが相続です。
地方に住む親が地方銀行に預金を持っていても、相続する子どもが都市部に住んでいる場合があります。
相続後に資金を自分が普段利用する都市部の銀行やネット銀行などへ移せば、地方銀行から預金が流出します。
一つ一つの相続では小さな動きでも、高齢化が進む地域で同じことが繰り返されれば大きな資金移動になります。
預貸率の問題は単なる銀行経営の数字ではありません。
人口移動や相続による地方から都市への資金移動とも深く結びついているのです。
預貸率を見るときは3つを一緒に確認する
預貸率を見る場合には、数字だけを見るのではなく、少なくとも預金、貸出金、地域の資金移動を一緒に確認する必要があります。
預貸率が上昇している場合でも、貸出金が増えているのであれば地域企業への資金供給が拡大している可能性があります。
一方、貸出金が変わらず預金だけが減っているのであれば、銀行の資金基盤が縮小している可能性があります。
同じ預貸率上昇でも意味はまったく異なります。
銀行経営を理解するには、比率の裏側にある預金と貸出金の動きを分けて見ることが重要です。
結論
預貸率とは、銀行の預金に対してどの程度の貸出金があるかを示す指標です。
2026年8月時点では、都市銀行が57.3%、第一地方銀行が75.8%、第二地方銀行が77.3%となっています。
都市銀行と第二地方銀行には20ポイントの差があります。
ただし、預貸率が高いほど優れた銀行という意味ではありません。
貸出金が増えれば預貸率は上昇しますが、預金が減った場合にも上昇します。
特に地方銀行では、人口減少や相続による預金流出によって資金基盤が縮小することが大きな課題になっています。
一方、豊富な預金を持つ都市銀行は、大型M&Aや設備投資などの融資を拡大する余力を持っています。
これから銀行を見る場合には、貸出金の大きさだけでなく、その原資となる預金にも注目する必要があります。
そして地方銀行にとって次の大きな問題となるのが、そもそもなぜ地域の預金を集めにくくなっているのかという点です。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰