地方銀行にとって、預金を安定して確保することが以前より難しくなっています。
地方銀行の預金が減る理由として、まず思い浮かぶのは人口減少でしょう。
地域の人口が減れば、預金者も減ります。
しかし現在起きている預金流出は、人口減少だけでは説明できません。
高齢化、相続、若い世代の都市部への移動、ネット銀行との競争など、複数の要因が重なっています。
そして金利のある世界になったことで、預金を確保できるかどうかが銀行の競争力を左右する時代になってきました。
地方銀行にとって預金は融資の重要な原資になる
銀行は預金者から集めた資金などを企業や個人へ貸し出します。
地方銀行の場合、地域住民や地元企業から集めた預金を地域の中小企業や住宅ローンなどへ振り向けることが基本的なビジネスモデルです。
地域で資金を集め、地域で資金を循環させるわけです。
そのため預金が安定して増えていれば、企業から新しい融資の申し込みがあった場合にも対応しやすくなります。
反対に預金が減り続ければ、資金調達の方法を見直す必要が出てきます。
地方銀行にとって預金は単なる顧客の金融資産ではなく、地域へ融資するための重要な資金基盤なのです。
人口減少によって預金者そのものが減っていく
地方銀行が直面している最も基本的な問題が人口減少です。
地域の人口が減れば、銀行口座を持つ人も減っていきます。
さらに企業数が減少すれば、法人預金の減少にもつながります。
人口減少が進む地域では、店舗を維持するための顧客数も少なくなります。
銀行から見れば、預金残高だけでなく、顧客基盤そのものが縮小していくことになります。
ただし、地方銀行の預金問題は人口の数だけを見ていても十分には理解できません。
より大きな問題となるのが人口の移動です。
若い世代が都市部へ移ると金融資産も移動する
地方では進学や就職をきっかけとして、若い世代が東京や大阪などの都市部へ移ることがあります。
地方に住んでいる間は地元の金融機関を利用していても、都市部で生活するようになれば利用する銀行も変わる可能性があります。
勤務先の給与振込口座を大手銀行にしたり、利便性の高いネット銀行を利用したりするケースです。
その結果、地方から人口が移動するだけでなく、日常的な金融取引も都市部へ移ります。
給与が振り込まれ、住宅ローンを組み、投資信託などを購入する金融機関が変われば、将来蓄積される金融資産も地方銀行には残りにくくなります。
人口移動は長い時間をかけて預金の地域分布を変えていくのです。
高齢者の預金が多いことが将来の流出につながる
地方銀行では、高齢者が多額の預金を保有しているケースがあります。
高齢者が預金を持っている間は、その資金は地域金融機関に残ります。
問題は相続が発生したときです。
例えば地方に住む親が地元の銀行に3,000万円の預金を持っていたとします。
相続人である子どもが東京に住んでいれば、相続後もその3,000万円を地方銀行に置き続けるとは限りません。
普段利用している都市銀行やネット銀行、証券会社などへ資金を移す可能性があります。
この瞬間、地方銀行から預金が流出します。
相続は世代間だけでなく地域間の資金移動になる
相続は一般的には、親から子へ財産が移る世代間の資産移転として考えられています。
しかし地方銀行の立場から見ると、もう一つ重要な意味があります。
地方から都市への地域間資金移動です。
親が地方に住み、子どもが都市部に住んでいる場合、相続によって金融資産の所在地まで変わる可能性があります。
土地や建物は簡単に東京へ移すことはできません。
しかし預金は口座を移せば地域を越えて簡単に動きます。
高齢化が進むほど、この資金移動が繰り返される可能性があります。
地方銀行にとって相続は、将来の預金残高を左右する重要な問題なのです。
ネット銀行の存在も預金競争を変えている
以前は銀行を選ぶとき、近くに店舗やATMがあることが重要でした。
この条件では地域に店舗網を持つ地方銀行に強みがありました。
しかしスマートフォンで銀行取引を完結できるようになると、物理的な距離の重要性は低下します。
地方に住んでいても全国規模のネット銀行へ預金できます。
さらに金利のある世界になると、預金金利の差も意識されるようになります。
預金者が金利や利便性を比較して金融機関を選ぶようになれば、地域に店舗を持っているという理由だけでは預金を維持しにくくなります。
地方銀行の競争相手は近隣の地方銀行だけではなくなっています。
金利のある世界では預金の価値が高くなる
超低金利時代には、銀行が大量の預金を集めても、その資金を高い利回りで運用することが難しい状況でした。
ところが金利が上昇し、企業向け融資の利ざやが改善すると状況が変わります。
安定した預金を多く持つ銀行ほど、その資金を融資へ振り向けて収益を得やすくなります。
つまり銀行にとって預金の価値が高まります。
大手銀行も地方銀行も預金を確保したいと考えるようになれば、預金獲得競争は激しくなります。
人口が増えにくい地方では、新しい預金を獲得するというより、現在ある預金を流出させないことが重要になってきます。
預貸率の高さも地方銀行の問題を難しくする
2026年8月時点の預貸率は、都市銀行が57.3%でした。
これに対して第一地方銀行は75.8%、第二地方銀行は77.3%です。
地方銀行は都市銀行より、預金に対して多くの資金を貸し出している状態です。
ここで預金が減れば、貸出金が変わらなくても預貸率は上昇します。
例えば預金1兆円、貸出金7,500億円なら預貸率は75%です。
預金が9,000億円へ減少し、貸出金が7,500億円のままであれば、預貸率は約83.3%まで上昇します。
預金流出が続けば、地方銀行の資金運営にも影響する可能性があります。
預金を守るには親だけを顧客にしていてはいけない
相続による預金流出を防ぐためには、高齢の預金者だけとの関係では十分ではありません。
重要になるのが、その子や孫との関係です。
親が地方銀行の顧客でも、子どもがその銀行をほとんど利用していなければ、相続後に資金を残してもらうことは難しくなります。
そこで相続相談や資産承継、資産運用などを通じて、相続が発生する前から次世代との接点をつくることが重要になります。
地方銀行の預金戦略は「預金を集める営業」だけではありません。
世代を越えて取引関係を維持する戦略へ変わる必要があります。
預金流出は地域経済にも影響する
地方銀行の預金減少は、銀行だけの問題ではありません。
地方銀行は地域の中小企業にとって重要な資金供給者です。
地元企業の経営者や事業内容を長期間見てきた銀行だからこそ融資できる案件もあります。
その銀行の資金基盤が弱くなれば、新しい設備投資や事業承継、創業などへの資金供給に影響する可能性があります。
地方から預金が流出するということは、単に銀行口座のお金が移動するだけではありません。
地域で循環していた金融資産が地域外へ移っていくことでもあります。
結論
地方銀行が預金集めに苦戦する背景には、人口減少だけでは説明できない構造的な変化があります。
若い世代が都市部へ移れば、給与振込や住宅ローンなどの金融取引も都市部へ移りやすくなります。
さらに地方に残った親世代が保有する預金も、相続をきっかけとして都市部に住む子どもへ移る可能性があります。
ネット銀行の普及によって、預金者が地域に関係なく金融機関を選べるようになったことも大きな変化です。
そして金利のある世界では、預金は銀行にとって以前より価値の高い資金になります。
大手銀行も預金獲得を強化すれば、地方銀行との競争はさらに激しくなります。
地方銀行の預金問題を考えるうえで、特に重要なのが相続です。
相続は親から子への財産移転であると同時に、地方から都市へ金融資産が移動するきっかけにもなっているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月23日朝刊 大手行、国内融資に回帰