選手の肖像権が収益を生む――スポーツ産業における知的財産ビジネス

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スポーツ選手の価値は、競技場での活躍だけで決まる時代ではなくなっています。

選手の名前や肖像、チームの名称やロゴ、試合映像などが、世界中で商品やサービスを生み出す重要な経営資産になっています。

その代表例が、米国のスポーツ投資会社レッドバード・キャピタル・パートナーズによる知的財産ビジネスです。

同社は2019年、米大リーグや米プロフットボールリーグNFLの選手会と共同で、選手の肖像権などを一括管理する会社を設立しました。

2022年までに1万人を超える選手が登録する基盤となり、トレーディングカードやゲームなどへの使用許諾を通じて、新たな収益機会を生み出しました。

こうした仕組みは、スポーツチームや選手が持つ知的財産を、継続的な収益につなげる経営手法として注目されています。

今回は、スポーツ産業における知的財産の仕組みと収益化の方法、契約管理、税務・会計上の留意点について、税理士・FPの視点から解説します。

スポーツ産業を支える知的財産の価値

知的財産とは、人間の創造的な活動などから生まれる無形の財産です。

特許権、商標権、著作権などが代表的ですが、スポーツ産業では選手の肖像や氏名、チームのブランドなども重要な経済的価値を持っています。

例えば、人気選手の写真を使用したトレーディングカードや、実在する選手が登場するゲームなどが挙げられます。

チームのロゴを使用した衣料品や雑貨、試合映像を利用した動画配信なども、知的財産を活用した事業です。

重要なのは、こうした価値が競技場の外でも収益を生み出すことです。

試合の観客数には競技場の収容人数という制約がありますが、デジタルコンテンツやライセンス商品は、世界中のファンに提供できます。

知的財産を適切に管理し、商品やサービスに活用することで、スポーツ産業の収益機会は大きく広がります。

肖像権とパブリシティ権の違い

スポーツ選手の肖像を事業に利用する場合、肖像権とパブリシティ権の理解が重要です。

肖像権は、自分の容貌や姿態をみだりに撮影されたり、公表されたりしない利益に関係する権利です。

一方、パブリシティ権は、著名人の氏名や肖像などが持つ顧客吸引力を排他的に利用する利益に関係する権利です。

例えば、人気選手の写真を商品に使用することで販売促進効果が生まれる場合、その肖像には経済的価値があります。

日本では、パブリシティ権について独立した包括的な法律が制定されているわけではありませんが、最高裁判例などによって法的保護が認められています。

ただし、選手の写真や氏名を使用する行為が、すべて権利侵害になるわけではありません。

報道、論評、商品販売など、利用目的や態様によって判断が異なります。

スポーツビジネスでは、利用目的や媒体、期間などを明確にした契約を締結することが重要です。

選手の権利を一括管理するビジネスモデル

レッドバードが関与する事業で注目されるのが、多数の選手の肖像権などを一括管理する仕組みです。

従来、ゲーム会社や商品メーカーが複数の選手の肖像を使用する場合、それぞれの権利関係を確認し、必要な許諾を取得する必要がありました。

対象となる選手が数百人、数千人に増えれば、契約交渉や権利管理の負担も大きくなります。

そこで、選手会などと連携して権利を集約し、利用企業に対して一括して使用許諾を提供する仕組みが有効になります。

利用企業は、個別交渉の負担を軽減でき、選手側も商品化やゲーム化などの機会を広げられます。

ただし、実際に一括管理できる権利の範囲は契約によって異なります。

選手個人の肖像、チームの商標、リーグの名称、試合映像などは、それぞれ権利者が異なる場合があります。

一括管理の仕組みがあるからといって、関連するすべての権利を自由に使用できるわけではありません。

権利の範囲と許諾条件を明確にすることが、事業の安定性を支えます。

ライセンス契約が生み出す継続収入

知的財産を収益化する代表的な方法が、ライセンス契約です。

ライセンス契約とは、権利者が一定の条件で知的財産の使用を認め、その対価を受け取る契約です。

例えば、スポーツチームが衣料品メーカーにロゴの使用を許諾し、メーカーが商品を販売する仕組みが考えられます。

使用料の設定方法には、固定額方式や売上高に連動する方式などがあります。

仮に、ライセンス商品の年間売上高が10億円で、契約上の使用料率が5%であれば、単純計算で5,000万円の使用料が発生します。

ただし、実際の契約では、売上高の定義、返品、値引き、最低保証額、対象地域、契約期間などによって金額が変わります。

ライセンス事業の特徴は、権利者自身が商品の製造設備や販売網を保有しなくても、収益を得られる可能性があることです。

一方で、商品品質の低下や不適切な販売方法によって、ブランド価値が損なわれるリスクもあります。

収益の拡大とブランド管理を両立させることが重要です。

トレーディングカードとゲーム市場の成長

スポーツ選手の肖像を活用する代表的な商品が、トレーディングカードです。

人気選手のカードには、収集品としての価値が生まれる場合があります。

また、スポーツゲームでは、実在する選手の名前や姿、チームの名称などを使用することで、現実の競技に近い体験を提供できます。

こうした商品では、選手やチームの知名度が販売力に直結します。

特にデジタルゲームは、国境を越えて利用者を獲得できるため、グローバルな収益機会につながります。

ただし、トレーディングカードの市場価格が上昇しても、その値上がり益がそのまま選手や権利者の収益になるとは限りません。

権利者が受け取る収入は、ライセンス契約などの条件によって決まります。

また、カードやデジタル商品には人気の変動や価格下落のリスクがあります。

商品としての販売収益と、購入者が期待する資産価値を区別して考える必要があります。

チームのブランド価値を守る商標管理

スポーツチームの名称やロゴは、ブランドを象徴する重要な資産です。

商標登録によって一定の法的保護を受けることで、無断使用や模倣品への対応が可能になります。

特に、海外市場に商品を展開する場合には、国ごとの商標制度や権利取得状況を確認する必要があります。

日本で商標登録されていても、その効力が当然に世界中へ及ぶわけではありません。

また、商標を保有しているだけで十分とはいえません。

使用許諾先の管理、商品の品質確認、契約終了後の使用停止など、継続的な管理が必要です。

スポーツチームにとって、ブランド価値の維持は長期的な収益力の確保につながります。

これは中小企業にも共通する課題です。

自社の商品名やロゴ、独自技術などを適切に保護し、事業に活用することは、企業価値の向上に役立ちます。

知的財産の会計処理で注意すべき点

税理士の視点から重要なのが、知的財産の会計処理です。

企業が外部から商標権や著作権などを取得した場合、取得内容や適用会計基準に応じて、無形固定資産として計上することがあります。

一方、企業が長年の事業活動によって築き上げたブランド価値は、経済的価値があるからといって、必ずしも貸借対照表に計上できるわけではありません。

自己創設ブランドなどについては、会計基準上、資産計上が制限される場合があります。

また、企業買収では、取得した識別可能な無形資産の評価や、のれんの認識が問題になります。

スポーツチームの買収でも、商標、契約上の権利、顧客関係などの評価が重要になる可能性があります。

ただし、会計上の資産価値と、投資家が評価する企業価値は必ずしも一致しません。

将来の収益力を分析する際には、貸借対照表に計上されていない無形の経営資産にも注目する必要があります。

ライセンス収入に関する税務上の留意点

知的財産の使用許諾によって収益が発生する場合、税務上も適切な処理が必要です。

国内企業が商標や著作権などの使用料を受け取る場合には、契約内容や取引実態に応じて収益を認識し、法人税や消費税の取扱いを検討します。

また、海外企業とのライセンス契約では、国際税務の問題が生じる場合があります。

例えば、日本企業が海外の権利者に使用料を支払う場合、国内源泉所得に該当するかどうかや、源泉徴収義務の有無を確認する必要があります。

租税条約によって税率が軽減されたり、免税となったりする場合もありますが、適用には所定の手続きが必要になることがあります。

さらに、国外関連者とのライセンス取引では、移転価格税制の検討が必要になる場合があります。

知的財産の使用料は、取引価格の妥当性が問題になりやすい分野です。

契約書の整備、使用実態の確認、対価の算定根拠の保存などが重要になります。

選手個人にとっての収入と資産管理

スポーツ選手にとっても、肖像権やブランドの活用は重要な収入源になります。

競技による報酬だけでなく、広告出演、スポンサー契約、商品化、ライセンス契約などから収入を得ることができます。

ただし、これらの収入の税務上の取扱いは、契約内容や活動実態、権利の帰属などによって異なります。

個人が受け取る報酬についても、所得区分や源泉徴収の要否を個別に判断する必要があります。

また、海外で活動する選手の場合には、居住者・非居住者の判定や、活動地における課税、租税条約なども重要になります。

FPの視点では、競技による収入と知的財産から得られる収入を区別し、長期的な資産形成を考えることが大切です。

現役期間中に高額な収入を得られても、その収入が引退後まで継続するとは限りません。

契約期間、収入の変動、税負担、引退後の生活設計などを踏まえた資金管理が求められます。

日本のスポーツ産業における知的財産の可能性

日本にも、知的財産として高い価値を持つスポーツ資産があります。

プロ野球、Jリーグ、Bリーグなどのチームブランドに加え、国内外で活躍する選手の知名度も重要な資産です。

今後は、こうした価値を国内市場だけでなく、海外市場でも活用することが期待されます。

例えば、海外向けの公式商品販売、ゲームへのライセンス供与、デジタルコンテンツの配信などが考えられます。

一方で、知的財産ビジネスを拡大するためには、権利関係の整理や契約管理、収益配分の透明性が欠かせません。

選手、チーム、リーグ、スポンサー、商品メーカーなど、多くの関係者が関与するためです。

また、権利の商業利用を拡大する際には、選手本人の意思や人格的利益にも十分配慮する必要があります。

知的財産の収益化は、権利者の利益を適切に保護する仕組みがあってこそ持続的に発展します。

結論

スポーツ産業における知的財産は、競技場の外でも継続的な収益を生み出す重要な経営資産です。

選手の肖像、チームの名称やロゴ、試合映像などを適切に管理し、商品やサービスに活用することで、新たな収益機会が生まれます。

米レッドバードが関与する選手の権利管理事業は、知的財産を集約し、利用企業との契約を効率化することで、収益機会を広げる仕組みの一例です。

日本のスポーツ産業でも、知的財産の価値を適切に評価し、国内外で活用することが成長戦略の重要な柱になると考えられます。

ただし、収益化を優先するあまり、選手の権利やファンとの信頼関係を損なうことがあってはなりません。

税理士・FPとして注目したいのは、知的財産が単なる法律上の権利ではなく、企業価値や個人の収入、資産形成に直接関係する経済的な資産であることです。

知的財産の価値を高めるためには、権利を保有するだけでなく、適切な契約管理と収益化の仕組みを整え、長期的なキャッシュフローにつなげることが重要です。

この考え方は、スポーツ産業だけでなく、ブランドや技術、顧客基盤などの無形資産を持つ中小企業の経営にも共通しています。

参考

日本経済新聞 2026年11月8日 朝刊
「ACミランを所有の世界最大級スポーツファンド、日本進出 政投銀出資」

日本経済新聞 2026年11月8日 朝刊
「スポーツ投資とは ファンドや選手個人も担い手に」

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