認知症で財産が動かせなくなる前に知っておきたい法定後見制度の大改正

FP
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

認知症になると、本人名義の預金や不動産を家族が自由に動かせなくなることがあります。介護費用を支払うために親の預金を使いたい、自宅を売却して施設への入居費用を準備したいと思っても、本人に十分な判断能力がなければ家族だからという理由だけで手続きを代行することはできません。

こうした場面で利用されてきたのが法定後見制度です。

ただ、現在の制度には「一度利用すると原則として途中でやめられない」「後見人の権限が広すぎる」「専門職への報酬負担が長期間続く」といった問題が指摘されてきました。

そこで2026年6月に改正法が成立し、2028年12月までに新しい制度が施行される予定です。

今回の改正は、認知症になった人の財産を一律に管理する制度から、必要な支援だけを必要な期間利用する制度への大きな転換といえます。

認知症になると家族でも財産を自由に動かせない

認知症になったからといって、直ちにすべての銀行口座が自動的に凍結されるわけではありません。

問題になるのは、本人の判断能力が低下し、金融機関が本人の意思を確認できなくなった場合です。

預金はあくまで本人の財産です。

たとえ配偶者や子どもであっても、本人に代わって自由に引き出したり、解約したりする権限が当然に与えられているわけではありません。

不動産についても同じです。

介護施設への入居費用をつくるため実家を売却したくても、所有者である親が売却を判断できなければ手続きが難しくなります。

そこで家庭裁判所に申し立て、法定後見制度を利用することになります。

法定後見制度の利用は認知症患者の一部にとどまる

法定後見制度の利用者は2025年12月末で約25.7万人です。

一方、65歳以上の認知症患者は2025年に推計471万人とされており、単純に比較すると法定後見制度の利用者は認知症患者数の5%程度にとどまります。

さらに認知症患者は2040年には584万人に増える見通しです。

もちろん、認知症になったすべての人に法定後見制度が必要になるわけではありません。

それでも利用が広がらない背景には、現在の制度の使いにくさがあります。

その代表的な問題が、利用を始めると簡単には終了できないことです。

現在の制度は後見と保佐と補助の3段階

現在の法定後見制度は、本人の判断能力に応じて大きく3つに分かれています。

後見、保佐、補助です。

判断能力が大きく低下しているほど、本人を保護するために後見人などに与えられる権限も広くなります。

特に後見では、日用品の購入などを除き、本人の財産管理や契約に関して後見人が非常に広い権限を持ちます。

本人の財産を守るという意味では重要な仕組みですが、本人がまだできることまで後見人が管理してしまう可能性があります。

認知症の程度は人によって大きく異なります。

日常生活にはほとんど問題がなくても複雑な契約だけが難しい人もいれば、日常的な金銭管理まで支援が必要な人もいます。

こうした違いに現在の制度が十分対応できていないことが課題でした。

改正後は補助に一本化される

今回の改正では、現在の後見、保佐、補助という3種類を補助に一本化します。

重要なのは名称が変わることではありません。

本人に必要な支援を個別に設定する仕組みになることです。

例えば本人が日常的な預金管理はできるものの、不動産売却については判断が難しいのであれば、不動産売却についてだけ補助人に権限を与えることが考えられます。

反対に判断能力が大幅に低下し、預金管理、不動産管理、契約などについて幅広い支援が必要なら、それに応じた権限を設定します。

家庭裁判所が申し立ての内容や本人の状態を踏まえて判断します。

いわば一律型からオーダーメード型への転換です。

遺産分割だけ法定後見を利用することも可能になる

今回の改正を理解するうえで分かりやすいのが遺産分割です。

例えば高齢夫婦の夫が死亡し、妻に軽度の認知症があるとします。

妻は普段の買い物や預金管理は自分でできます。

ところが相続人間で行う遺産分割協議については内容が複雑で、十分な判断が難しい状態だったとします。

現在の制度では法定後見を利用すると、その後も制度の利用が続くことが大きな負担になり得ます。

改正後は遺産分割に必要な範囲だけ補助人に権限を与え、遺産分割が終了して支援の必要がなくなれば制度を終了することが可能になります。

本人ができる日常の金銭管理まで第三者に任せる必要はありません。

これは非常に大きな変化です。

必要がなくなれば制度を終了できる

現在の法定後見制度では、原則として本人が死亡するか判断能力が回復するまで制度の利用が続きます。

「相続手続きが終わったから終了する」といった使い方は基本的にできません。

改正後は家庭裁判所が支援の必要がなくなったと判断すれば終了できるようになります。

つまり、

必要なことについて

必要な権限だけを与え

必要な期間だけ利用する

という考え方になります。

人生100年時代では認知機能の状態も長い時間の中で変化します。

一度制度を利用したら生涯続く仕組みよりも、本人の状態に応じて支援内容を変えられる仕組みの方が本人の自己決定を尊重しやすくなります。

後見人を交代させやすくなる

もう1つの重要な改正が後見人などの交代です。

現在は横領などの不正行為があった場合に家庭裁判所が解任したり、健康上の事情などによって後見人自身が辞任したりするケースを除くと、簡単に交代することはできません。

改正後は解任理由として「本人の利益のために特に必要があるとき」が加わります。

不正行為まではなくても、本人と十分に面談しないなど適切な支援が行われていない場合には交代できる可能性があります。

財産を減らさないことだけが本人の利益とは限りません。

本人が長年続けてきた趣味や生活を維持するために適切なお金を使うことも、その人らしい生活を守るうえでは重要です。

財産保護と本人の意思尊重のバランスが、これまで以上に重視されることになります。

専門職後見人には継続的な費用がかかる

法定後見制度を考えるときに忘れてはいけないのが費用です。

家庭裁判所が選任する後見人には、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれる場合があります。

必ず家族が後見人になれるわけではありません。

専門職が後見人になれば報酬が発生します。

例えば東京家庭裁判所では、通常の後見事務について月額2万円から6万円程度が報酬の目安とされています。

月額2万円でも年間24万円です。

10年間続けば単純計算で240万円になります。

もちろん実際の報酬は家庭裁判所が個別に決定しますが、長期間利用する可能性がある制度だけに、費用についても事前に理解しておく必要があります。

必要な期間だけ利用できる新制度になれば、こうした問題の緩和にもつながる可能性があります。

すでに利用している人にも選択肢がある

現在すでに法定後見制度を利用している人についても、改正法施行後にすべて自動的に新制度へ切り替わるわけではありません。

現行制度を継続する、新制度へ移行する、制度の利用を終了するという選択肢があります。

後見や保佐を現在の内容で継続する場合は原則として特別な手続きは必要ありません。

一方、新制度への移行や利用終了を希望する場合には、家庭裁判所への申し立てが必要になります。

したがって現在法定後見を利用している家庭では、施行が近づいた段階で現在の支援内容が本当に必要なのかを確認することも重要になるでしょう。

法改正まで何もしなくてよいわけではない

新制度が使いやすくなるのであれば、2028年の施行まで待とうと思う人もいるかもしれません。

しかし認知症対策では、判断能力が十分にあるうちにしか利用できない仕組みがあります。

例えば金融機関によっては、本人が元気なうちに家族などを代理人として指定しておき、認知症などによって本人自身で取引することが難しくなった場合に備えるサービスがあります。

また、不動産や有価証券など幅広い財産の管理を家族に任せる方法として、民事信託、いわゆる家族信託を検討する方法もあります。

これらは法定後見制度とは仕組みが異なり、万能でもありません。

重要なのは、本人の判断能力が十分な段階では選択肢が多いということです。

判断能力が失われてからでは選べない制度があります。

認知症対策は財産を守ることから財産をどう使うかへ

これまで認知症の財産管理では「財産を減らさないこと」が強く意識されてきました。

しかし老後資金は残すためだけにあるわけではありません。

介護を受ける。

住み替える。

趣味を続ける。

家族との旅行を楽しむ。

自分が望む生活を続ける。

そのためにも財産は使われます。

認知症になった後も、その人の希望を可能な限り尊重しながら財産を管理することが重要です。

今回の法定後見制度の改正は、財産保護を中心とした制度から、本人の自己決定を尊重しながら必要な部分だけ支援する制度へ考え方を変えるものといえます。

結論

2026年6月に成立した改正法によって、法定後見制度は大きく変わります。

後見、保佐、補助の3種類を補助に一本化し、本人に必要な権限を個別に設定する仕組みになります。また、支援が必要なくなれば利用を終了でき、本人の利益のために必要であれば補助人を交代させやすくなります。

ただし、制度改正を待つことが認知症対策ではありません。

預金、不動産、有価証券、相続、介護費用など、自分の財産を判断能力が低下した後に誰がどのように管理するのかを元気なうちに考えておくことが重要です。

認知症への備えとは、財産を凍結させないためだけの対策ではありません。

自分で判断できなくなった後も、自分のお金をできるだけ自分が望む生活のために使える仕組みを準備しておくことです。

法定後見制度が大きく変わろうとしている今こそ、家族で財産管理について話し合う良い機会なのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 マネー相談 黄金堂パーラー 認知症と財産管理 上 変わる法定後見 必要なとき利用 解任も可能

日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 改正法待たず早めに準備を

タイトルとURLをコピーしました