行動変容とは何か 運動した方がよいと分かっていても人が運動しない理由編

人生100年時代
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健康のためには運動した方がよい。

歩くことが身体によい。

座り続けるより、適度に身体を動かした方がよい。

多くの人はこうしたことを知っています。

それでも、運動を習慣にできる人ばかりではありません。

健康診断の直後には運動しようと思っても、数週間すると元の生活に戻ってしまうことがあります。

スポーツジムに入会しても、次第に通わなくなることもあります。

ここに健康経営の難しさがあります。

健康について正しい情報を伝えるだけでは、人の行動は必ずしも変わらないのです。

そこで重要になるのが行動変容という考え方です。

知っている状態から、実際に行動する状態へ移り、その行動を習慣として続けてもらう。

企業の健康経営も、社員に健康知識を提供するだけの段階から、健康的な行動を自然に続けられる仕組みをつくる段階へ進みつつあります。

行動変容とは何か

行動変容とは、これまでの行動や生活習慣を望ましい方向へ変えていくことです。

健康分野では、運動を始める、食生活を見直す、睡眠習慣を改善するといった変化が代表的です。

重要なのは、一度だけ行動することではありません。

たとえば会社のスポーツイベントで1日だけたくさん歩いても、その後まったく運動しなければ生活習慣が変わったとは言いにくいでしょう。

運動していなかった人が歩き始める。

それを数週間続ける。

さらに数カ月続ける。

やがて特別に意識しなくても歩くことが生活の一部になる。

このような変化が行動変容です。

健康経営の最終的な目的も、イベントへの参加人数を増やすことではなく、社員の日常的な行動を変えることにあります。

知識があっても人は行動しない

健康施策では、まず正しい知識を伝えることが重要です。

しかし、知識だけでは十分ではありません。

運動不足が健康に良くないと理解している人でも、仕事が忙しければ運動を後回しにします。

健康のメリットは将来現れることが多い一方、運動の負担は今すぐ発生するからです。

30分歩けば時間を使います。

スポーツジムへ行けば移動する必要があります。

疲れていれば自宅で休みたくなります。

これに対して、運動によって将来病気になる可能性が低くなるという利益は目に見えにくいものです。

人間は必ずしも長期的な利益だけを基準に行動するわけではありません。

この特徴を理解しなければ、健康施策は運動してくださいという呼びかけだけで終わってしまいます。

大きな目標ほど挫折しやすい

行動変容を考えるときに重要なのが目標設定です。

運動不足だから、明日から毎日1時間走る。

現在3000歩程度しか歩いていない人が、突然毎日1万歩を目指す。

このような大きな目標は、一見すると意欲的です。

しかし、実際には継続が難しくなる場合があります。

最初の数日は頑張れても、仕事が忙しい日や天気が悪い日が続くと途切れてしまいます。

一度できなくなると、もう続けられないと考えてしまうこともあります。

行動変容では、最初から理想的な状態を目指すより、実行できる小さな行動から始めることが重要になります。

小さな目標から始める

たとえば現在1日3000歩の人であれば、まず4000歩を目指します。

エレベーターを使っていた人が、1日に一度だけ階段を使う。

昼休みに5分だけ歩く。

長時間座っている人が、1時間に一度立ち上がる。

こうした小さな行動であれば、日常生活に取り入れやすくなります。

目標を達成すると、自分にもできるという感覚が生まれます。

4000歩が習慣になったら5000歩を目指す。

5分歩くことが当たり前になったら10分にする。

小さな成功を積み重ねることで、無理なく行動を変えていくわけです。

企業の健康施策でも、一律に高い目標を設定するより、社員それぞれが現在の状態から少し改善できる仕組みの方が参加しやすくなります。

数字で見えると続けやすくなる

行動変容では、自分の行動を確認できることも重要です。

ウォーキングであれば歩数があります。

スマートフォンやウェアラブル端末を利用すれば、毎日の歩数を簡単に確認できます。

昨日は5000歩。

今日は6000歩。

今週は先週より平均500歩増えた。

こうした変化が数字で見えると、努力の結果を実感できます。

体重や健康状態は短期間では大きく変わらないことがありますが、歩数であればその日のうちに結果が表示されます。

短期的な達成感をつくれることが、行動を継続するうえで役立ちます。

インセンティブが最初のきっかけになる

健康ポイントや報奨金も行動変容を促す方法の一つです。

一定の歩数を達成するとポイントがもらえる。

ウォーキングイベントへ参加すると特典がある。

自分で設定した健康目標を達成すると報奨がある。

このような仕組みです。

健康になるという将来の利益だけでは行動しにくい人に、今日行動する理由を与えることができます。

ただし、ポイントをもらうこと自体が最終目的ではありません。

ポイントをきっかけに歩き始め、それを繰り返すうちに運動が生活の一部になることが理想です。

インセンティブは、習慣形成までの最初の一歩を後押しする仕組みと考えることができます。

一人より仲間がいる方が続く場合もある

行動を継続するためには、周囲の人との関係も利用できます。

一人でウォーキングを続ける。

部署でウォーキングイベントに参加する。

この二つでは、後者の方が続けやすい人もいるでしょう。

今日は歩いたのかという会話が生まれる。

チーム全体で目標を目指す。

同僚と昼休みに散歩する。

こうした環境があれば、運動が仕事とは別の孤独な活動ではなくなります。

企業が健康経営に取り組む強みは、個人だけではつくりにくい環境を職場全体でつくれることにあります。

意志の強さに頼らない仕組みが重要

運動が続かないと、自分は意志が弱いと考えてしまうことがあります。

しかし、行動変容を考えるうえでは、本人の意志だけに原因を求めないことが重要です。

毎日残業が続く職場で、社員に運動してくださいと求めても難しいでしょう。

昼休みも十分に取れない環境で、ウォーキングを勧めても定着しません。

職場の環境そのものを変える必要があります。

業務時間に短い運動時間を設ける。

階段を利用しやすくする。

昼休みに歩ける環境を整える。

一定時間座り続けたら休憩する習慣をつくる。

健康的な行動を選びやすい環境に変えることで、本人が強く意識しなくても身体を動かすようになります。

習慣になれば意識しなくても行動できる

行動変容の一つの到達点が習慣化です。

毎朝歯を磨くたびに、今日は歯を磨くべきかと真剣に考える人は少ないでしょう。

生活の一部になっているからです。

運動についても同じ状態をつくることができれば、継続しやすくなります。

昼食後には10分歩く。

駅では階段を使う。

仕事の合間には立ち上がる。

帰宅するときには少し遠回りする。

最初は意識して行っていたことが、繰り返すうちに当たり前になります。

健康経営で本当に目指すべきなのは、社員が毎日健康について考え続けなければならない職場ではなく、自然に健康的な行動を取れる職場なのかもしれません。

全員を同じ方法で変えようとしない

人によって行動を変えるきっかけは違います。

数字を見ることでやる気が出る人。

同僚と一緒なら運動する人。

ポイントがあると始める人。

自分のペースで静かに取り組みたい人。

企業が一つの方法だけを全社員に押し付けても、うまくいかない可能性があります。

歩数目標。

健康ポイント。

社内イベント。

短時間運動。

ウェアラブル端末。

さまざまな選択肢を用意し、社員が自分に合った方法を選べるようにすることが重要です。

健康経営では、健康の強制ではなく、健康的な選択肢を増やすという考え方が求められます。

企業の役割は行動できる環境をつくること

社員の健康は本人の責任だという考え方もあります。

もちろん、自分の健康を最終的に管理するのは本人です。

しかし、働く人は一日の長い時間を職場で過ごします。

企業の働き方や職場環境は、社員の健康行動に大きな影響を与えます。

長時間労働を減らす。

身体を動かす時間をつくる。

健康的な行動を評価する。

運動へ参加しやすい環境を整える。

こうした取り組みは企業だからこそできます。

社員に健康になりなさいと言うのではなく、健康になりやすい職場をつくる。

これが行動変容を取り入れた健康経営の考え方です。

結論

行動変容とは、健康について知識を持つだけで終わらず、実際の行動を変え、その行動を習慣として続けられる状態へ移っていくことです。

運動した方がよいと分かっていても人が運動しないのは、単純に意志が弱いからとは限りません。

将来の健康効果より目の前の負担を大きく感じたり、忙しい職場環境によって運動する時間を確保できなかったりすることもあります。

だからこそ、大きな目標を一度に求めるのではなく、小さな目標から始める。

歩数などで成果を見えるようにする。

ポイントなどで最初の一歩を後押しする。

同僚とのつながりを利用する。

そして、健康的な行動を自然に選びやすい職場環境をつくる。

こうした仕組みを組み合わせることが重要になります。

健康経営の本当の成果は、スポーツイベントを何回開催したかではありません。

その結果として社員の日常生活がどれだけ変わり、その行動がどれだけ長く続いたかです。

これからの企業には、社員へ健康知識を教えるだけではなく、健康的な行動が自然に習慣になる環境を設計する役割が求められていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊 スポーツ推進企業に支援

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