非上場株の相続税評価で使われる代表的な方法の一つが、純資産価額方式です。
この方法は、会社が持っている資産と負債を基礎として、会社全体の純資産価値から1株当たりの評価額を計算する仕組みです。
会社に現金や預金、不動産、有価証券などが多ければ、それだけ株式の評価額も高くなりやすくなります。
一方で借入金などの負債が多ければ、純資産は小さくなり、株価も低くなる方向に働きます。
現在の非上場株評価では、小規模会社を中心に重要な役割を果たしてきました。
今回は、純資産価額方式とはどのような仕組みなのか、なぜ資産を多く持つ会社ほど自社株評価が高くなりやすいのかを整理します。
純資産価額方式とは何か
純資産価額方式とは、会社の資産から負債を差し引いて会社全体の純資産価値を求め、それを発行済株式数で割ることで1株当たりの評価額を計算する方法です。
考え方は比較的分かりやすいものです。
たとえば、会社が持つ資産の評価額が10億円で、負債が6億円だったとします。
単純化すれば、差額の4億円が会社の純資産です。
発行済株式数が4万株であれば、1株当たりの純資産価値は1万円となります。
実際の税務計算ではさらに調整がありますが、基本的な発想は、
会社を清算したとしたら株主にどの程度の価値が残るのか
を見る方法だと考えると分かりやすくなります。
決算書の数字をそのまま使うわけではない
純資産価額方式で重要なのは、貸借対照表に記載された帳簿価額をそのまま使うわけではないという点です。
たとえば会社が土地を5000万円で購入し、帳簿にも5000万円で載っていたとします。
しかし、相続時点でその土地の相続税評価額が1億円であれば、純資産価額方式では原則として税務上の評価額へ置き換えて計算します。
有価証券などについても、帳簿上の取得価額と現在の評価額が異なることがあります。
つまり、純資産価額方式は、
会社の決算書上の純資産
をそのまま株価にする方式ではなく、
会社の資産や負債を相続税評価上の金額に置き換えて純資産を計算する方式
です。
ここが簿価純資産との大きな違いです。
資産は相続税評価額などに置き換える
会社が保有する資産にはさまざまなものがあります。
現金や預金は、基本的に額面に近い金額で評価されます。
土地は路線価などを基礎とした相続税評価額を使います。
建物についても税務上の評価額があります。
上場株式などの有価証券は市場価格などを基礎として評価します。
このように、それぞれの資産を税務上の評価額に置き換えていきます。
その結果、帳簿上の資産額と税務上の資産額が大きく異なる場合があります。
特に長年保有している土地や株式では、この差が大きくなりやすくなります。
含み益が大きい会社では株価が高くなりやすい
純資産価額方式を理解するうえで重要なのが含み益です。
含み益とは、帳簿価額より現在の価値が高くなっている部分です。
たとえば会社が30年前に土地を3000万円で購入したとします。
その土地が現在、相続税評価上1億円になっていれば、7000万円の含み益があります。
決算書を見るだけでは、その土地は3000万円程度の資産に見える場合があります。
しかし、純資産価額方式では現在の税務上の価値を反映するため、会社の純資産価値が大きく増加します。
結果として、自社株評価額も高くなります。
昔から土地を保有している会社で自社株評価が高くなりやすい理由の一つがここにあります。
含み損がある場合は逆に評価額が下がることもある
反対に、帳簿価額より現在の価値が下がっている資産があれば、純資産価額は小さくなる場合があります。
たとえば1億円で購入した有価証券の評価額が6000万円まで下がっていれば、4000万円の含み損があります。
こうした含み損を反映すれば、会社の純資産価値は低くなります。
したがって、純資産価額方式では、
会社が何を持っているのか
その資産の帳簿価額はいくらなのか
現在の税務上の評価額はいくらなのか
が非常に重要です。
法人税額等相当額を控除する仕組みがある
純資産価額方式では、含み益をそのまますべて株価に反映するわけではありません。
帳簿上の純資産価額と相続税評価額による純資産価額との差額には、将来その含み益が実現した際に法人税などがかかる可能性があります。
そこで一定の法人税額等相当額を控除する仕組みがあります。
つまり、
資産の含み益を評価に反映する
一方で、
その含み益に対応する将来の税負担も一定程度考慮する
という考え方です。
この調整があるため、単純に時価資産から負債を引いた金額がそのまま自社株評価になるわけではありません。
現金や預金が多い会社では評価額が下がりにくい
土地や株式だけでなく、現金や預金を多く持つ会社も純資産価額が高くなりやすくなります。
現金には通常、大きな含み損がありません。
たとえば会社が現預金5億円を保有し、借入金がほとんどなければ、その5億円に近い価値が純資産に残ります。
長年利益を出し、その利益を配当などで社外に出さず、預金として積み上げてきた会社では純資産が大きくなります。
経営上は財務体質の強い優良企業です。
しかし、相続税評価という視点では、豊富な現預金がそのまま自社株評価額を押し上げる要因になることがあります。
不動産を多く持つ会社でも評価額が高くなりやすい
純資産価額方式の影響が特に大きくなりやすいのが、不動産を多く持つ会社です。
賃貸不動産を多数保有する会社。
工場用地を長年保有している会社。
本社ビルや店舗用地を所有している会社。
こうした会社では、不動産が会社資産の大きな割合を占めることがあります。
取得時期が古ければ、帳簿価額と現在の評価額との間に大きな差が生じていることもあります。
土地価格が長期的に上昇した地域では、含み益が数億円に達するケースもあります。
その含み益が純資産価額方式による株価を押し上げます。
なぜ小会社ほど純資産価額方式が重視されるのか
現在の制度では、原則として小会社ほど純資産価額方式が重視されます。
小規模な同族会社では、経営者個人と会社が密接に結びついている場合が多くあります。
株式の市場性も極めて低く、上場会社との比較が難しいことがあります。
そこで、会社が実際にどれだけの財産を持っているかを見る純資産価額方式が重視されてきました。
一方、大会社では類似業種比準方式を中心に評価します。
中会社では両者を組み合わせます。
この会社規模による使い分けが、現在の非上場株評価の大きな特徴です。
資産管理会社では純資産がそのまま企業価値に近くなる
純資産価額方式が特に重要になるのが資産管理会社です。
資産管理会社とは、不動産や有価証券などの資産を保有し、その賃料収入や配当収入などを得ることを主な目的とする会社です。
一般の事業会社では、従業員やノウハウ、ブランド、取引先との関係など、貸借対照表に表れにくい価値があります。
一方、資産管理会社では、会社価値の多くが保有資産そのものにあります。
そのため、
どの土地を持っているか
どれだけ現金を持っているか
どれだけ有価証券を持っているか
という資産内容が株価に直接結びつきやすくなります。
特定の会社では純資産価額方式が強く求められる
現行制度では、会社の資産構成などによっては、通常の会社規模区分とは別に純資産価額方式が強く適用される会社があります。
たとえば、土地保有割合が非常に高い会社や、株式などを多く保有する会社です。
こうした会社では、類似業種比準方式だけで評価すると実際の資産価値から大きく離れる可能性があります。
そのため、資産内容を直接反映する純資産価額方式が重要になります。
これは、非上場株評価が単純に会社の売上高や従業員数だけで決まるものではないことを示しています。
純資産価額方式と新ルール案は似ているようで違う
今回検討されている新しい非上場株評価ルールでは、会社の純資産が重要な要素になる方向が示されています。
そのため、
新ルールは純資産価額方式と同じなのではないか
と感じるかもしれません。
しかし、両者は同じではありません。
現在の純資産価額方式では、会社の資産を相続税評価額などに置き換え、含み益や含み損を反映して純資産を求めます。
一方、新ルール案では、直前期末の簿価純資産を基礎とし、さらに今後5年間の収益力を考慮する方向が示されています。
つまり、新制度は、
会社に現在どれだけ財産があるのか
だけでなく、
会社が今後どれだけ利益を生み出せるのか
も評価する考え方です。
純資産だけで企業価値を決める方式とは異なります。
新制度では不動産会社の評価がどうなるかが重要になる
新ルールで簿価純資産が利用される場合、不動産を多く持つ会社がどのように評価されるのかは重要な論点になります。
古くから保有している不動産は、簿価が非常に低い場合があります。
たとえば帳簿上5000万円の土地が、現在数億円の価値を持っていることもあります。
もし簿価を中心に評価するのであれば、この含み益がどの程度新制度へ反映されるのかが問題になります。
反対に、含み益を全く反映しなければ、実際に多額の資産を持つ会社の株価が低くなりすぎる可能性もあります。
したがって、新制度の具体的な計算式では、資産価値と収益力をどのようにバランスさせるのかが注目されます。
純資産が多いことは経営上の強みでもある
自社株評価の話をすると、純資産が大きいことが悪いことのように見えることがあります。
しかし、経営上は必ずしもそうではありません。
純資産が多い会社は、借入依存度が低く、財務基盤が安定している場合があります。
不況時にも耐えやすくなります。
金融機関からの信用力も高まりやすくなります。
投資余力も持てます。
したがって、相続税を下げるためだけに純資産を減らせばよいという話ではありません。
重要なのは、
会社経営として必要な財務基盤
と
事業承継時の自社株評価
を分けて考えることです。
税負担だけを理由に会社の経営力を弱めてしまっては本末転倒です。
結論
純資産価額方式とは、会社が保有する資産と負債を税務上の評価額に置き換え、会社全体の純資産価値から非上場株の評価額を計算する方法です。
現金や預金、不動産、有価証券などの資産が多く、借入金などの負債が少ない会社では、純資産価額が高くなりやすくなります。
特に長期間保有している土地などに多額の含み益がある会社では、帳簿上の純資産より税務上の純資産が大きくなることがあります。
その結果、自社株の評価額も高くなります。
一方、資産に含み損がある場合には評価額が下がることもあります。
純資産価額方式は、会社が現在どれだけの財産を持っているのかを直接見る方法です。
これに対し、検討されている新しい評価ルールでは、簿価純資産だけでなく今後5年間の収益力も評価に取り込む方向が示されています。
非上場株評価は、会社が持つ財産を中心に見る仕組みから、財産と利益を生み出す力を組み合わせて評価する仕組みへ変わろうとしています。
参考
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案
日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式