類似業種比準方式とは何か 60年以上続いた非上場株評価が廃止される理由編

税理士
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非上場株の相続税評価で長年使われてきた代表的な方法が、類似業種比準方式です。

この方式は、評価する会社と似た業種の上場会社を参考にして、自社株の価値を計算する仕組みです。

非上場株には市場価格がありません。そのため、会社そのものの利益や純資産だけを見るのではなく、似た事業を営む上場会社の株価などを参考にして税務上の株価を算定してきました。

しかし、国税庁が検討している新しい非上場株評価ルール案では、この類似業種比準方式を廃止する方向が示されています。

現在の非上場株評価制度の中核を担ってきた方法が見直されることになれば、事業承継実務への影響は非常に大きくなります。

今回は、類似業種比準方式とはどのような仕組みなのか、なぜ大会社ほど利用割合が高かったのか、そしてなぜ廃止が検討されているのかを整理します。

類似業種比準方式とは何か

類似業種比準方式とは、評価対象会社と似た業種の上場会社の株価などを参考にして非上場株を評価する方法です。

たとえば、非上場の製造会社を評価する場合、同じような業種に属する上場会社の株価や利益などを基準として、自社株の評価額を計算します。

考え方としては、

似た事業を行っている上場会社がこのくらいの株価なら、この非上場会社も利益や純資産などを比較してこの程度の価値になるだろう

という発想です。

非上場会社には市場で形成された株価がありません。

そこで、価格が日々形成されている上場会社を物差しとして利用するわけです。

一社の上場会社と直接比較するわけではない

類似業種比準方式という名前から、特定の上場会社一社と比較するように思えるかもしれません。

しかし、実際には国税庁が業種ごとに公表する類似業種の株価や財務指標を利用します。

会社を業種別に分類し、その業種に属する上場会社のデータを基礎に評価します。

つまり、

自社と似た上場企業を納税者が自由に一社選ぶ

という仕組みではありません。

国税庁が示す業種区分や比準要素に従って計算する方法です。

これにより、納税者ごとに評価方法が大きく変わらないよう一定の統一性を持たせています。

株価だけを比較するわけではない

類似業種比準方式では、上場会社の株価だけを見て非上場株の価格を決めるわけではありません。

評価対象会社と類似業種について、いくつかの財務指標を比較します。

主な要素となるのが、

配当

利益

純資産

です。

この三つの指標を利用して、評価会社が類似業種の上場会社に比べてどの程度の価値を持つのかを計算します。

つまり、単なる株価比較ではなく、会社の業績や財務内容も組み込んだ評価方法です。

配当は株主への利益還元を見る指標

配当は、会社が株主にどれだけ利益を還元しているかを見る指標です。

利益を多く出していても、配当をほとんどしていない会社もあります。

反対に、利益の一定割合を継続的に配当している会社もあります。

類似業種比準方式では、評価会社の配当水準を類似業種と比較し、株価算定に反映します。

もっとも、中小企業では上場企業とは配当政策が大きく異なることがあります。

同族会社では、経営者一族が株主であることも多く、利益が出ても配当をせず会社内部へ留保するケースがあります。

このような中小企業特有の事情と、上場会社を基準とする仕組みとの間には違いがあります。

利益は会社の稼ぐ力を反映する

利益は、会社の収益力を表す重要な要素です。

同じ業種であっても、高い利益を安定して出している会社と、ほとんど利益が出ていない会社では、企業価値は異なります。

そこで類似業種比準方式では、評価対象会社の利益と類似業種の利益水準を比較します。

一般的には、利益が大きければ株価も高くなる方向に働きます。

この点では、新しい評価ルール案で重視される収益力と共通する部分があります。

ただし、新制度案では自社自身の過去の利益などから収益力を把握する方向が示されており、上場会社との比較から離れる点が大きな違いです。

純資産は会社に蓄積された価値を見る

もう一つの重要な要素が純資産です。

純資産は、会社が長年の経営を通じて蓄積してきた財産を示します。

利益を毎年会社内部に残していけば利益剰余金が増え、純資産も大きくなります。

類似業種比準方式では、この純資産についても類似業種と比較します。

したがって、

配当

利益

純資産

という異なる角度から会社を上場会社と比較することで、非上場株の評価額を算定します。

なぜ大会社ほど類似業種比準方式を使うのか

現在の制度では、原則として会社規模が大きいほど類似業種比準方式を利用する割合が高くなります。

理由は、大規模な非上場会社ほど上場会社に近い企業実態を持つと考えられてきたからです。

従業員数が多い。

売上高が大きい。

組織的な経営が行われている。

こうした会社であれば、似た業種の上場会社と比較することにも一定の合理性があると考えられます。

反対に、小規模な同族会社では、上場会社とは事業規模や経営形態が大きく異なります。

そのため、小会社では原則として純資産価額方式を利用します。

中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で併用します。

現在の制度は、会社が大きくなるほど上場会社に近い評価方法を利用する構造になっています。

類似業種比準方式では評価額が低くなるケースがある

類似業種比準方式が注目されてきた理由の一つが、純資産価額方式より低い評価額になるケースがあることです。

たとえば、会社に多額の現預金や不動産などが蓄積されている場合、純資産価額方式ではこれらの資産が株価に大きく反映されます。

一方、類似業種比準方式では、上場会社との比較によって株価を計算します。

そのため、会社が保有している純資産そのものが株価に一対一で反映されるわけではありません。

結果として、純資産を多く持っている会社でも、類似業種比準方式を利用することで評価額が大きく下がるケースがあります。

この差が、近年の制度見直しの重要な論点になっています。

会社規模を大きくすると評価方法が変わることもある

現行制度では、会社規模によって利用できる評価方式が変わります。

そのため、会社規模の判定は自社株評価に大きく影響します。

一定の条件を満たして大会社に区分されれば、類似業種比準方式を中心に評価できる場合があります。

純資産価額方式より類似業種比準方式のほうが低い株価になる会社では、この違いが非常に大きな意味を持ちます。

その結果、会社規模や財務内容を意識した自社株対策が検討されることもありました。

制度上認められた方法を使っているとしても、会社の実際の資産価値と税務上の株価との間に大きな差が生じるケースが問題視されるようになりました。

上場会社と非上場会社を比較することの難しさ

類似業種比準方式には、根本的な難しさもあります。

それは、上場会社と非上場会社では株式の性質が大きく異なることです。

上場株は市場で自由に売買できます。

投資家が多数存在し、毎日株価が形成されています。

一方、非上場株には原則として公開市場がありません。

会社のオーナー一族以外に買い手が存在しないこともあります。

経営権との関係もあります。

さらに、同じ業種であっても会社規模、取引先、財務体質、経営者への依存度などは大きく異なります。

似た業種というだけで上場会社の株価を基準にすることには、制度上どうしても限界があります。

評価方法の違いによる大きな乖離が問題になった

非上場株評価を巡っては、類似業種比準価額と純資産価額との間に大きな差が生じることが問題になってきました。

同じ会社の株式であるにもかかわらず、利用する評価方法によって大きく異なる金額が算出されるケースがあります。

会社が実際に多額の純資産を持っているにもかかわらず、類似業種比準方式を利用すると評価額が大幅に低くなる場合があります。

こうした乖離が大きすぎれば、相続税評価として公平なのかという問題が生じます。

特に会社規模や評価方式を利用して評価額を大きく引き下げる事例が増えれば、同じような経済価値を持つ財産でも税負担に大きな差が生じます。

評価制度の公平性という観点から、見直しの必要性が高まってきました。

会計検査院の指摘も見直しを後押しした

非上場株の評価制度については、会計検査院も評価の公平性に疑問を示しています。

現在の評価方法では、会社規模などによって類似業種比準方式や純資産価額方式を使い分けます。

その結果、評価方式によって株価に大きな差が出る状況が確認されました。

非上場株は相続や贈与で頻繁に問題となる財産です。

それだけに、制度上の評価方法によって税負担が極端に変わることは、公平な課税という観点から問題になります。

こうした指摘も、国税庁が約60年ぶりの抜本的な制度見直しに動く背景となっています。

新ルール案では自社そのものを見る方向へ変わる

新しい評価ルール案の大きな特徴は、類似する上場会社を参考にする考え方から離れることです。

報道されている案では、

会社の直前期末の純資産

今後5年間で見込まれる収益力

を基礎として株式価値を計算します。

つまり、

他社との比較

から

自社の資産と利益

へ評価の軸が移ることになります。

この変更は単なる計算式の修正ではありません。

非上場会社の価値をどう捉えるのかという評価思想そのものが変わることを意味します。

類似業種比準方式を廃止すると制度は分かりやすくなる可能性がある

現在の制度では、まず会社規模を判定する必要があります。

そのうえで、大会社、中会社、小会社などに応じて評価方式を決めます。

さらに中会社では、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で組み合わせます。

この仕組みは専門的で、一般の経営者には非常に分かりにくいものです。

新制度で評価方法が一本化されれば、現在より制度構造は単純になる可能性があります。

会社の決算書から純資産を確認する。

過去の利益から収益力を計算する。

そこに一定の係数を掛ける。

このような形になれば、経営者自身も自社株がなぜその評価額になるのかを理解しやすくなる可能性があります。

廃止されれば従来の自社株対策にも影響する

類似業種比準方式が廃止されれば、従来の事業承継対策にも影響します。

これまでは、

どの会社規模に該当するのか

類似業種比準価額はいくらなのか

純資産価額はいくらなのか

両者をどの割合で使うのか

といった点を確認することが重要でした。

しかし、新ルールでは会社規模による評価方式の違いそのものが大幅に縮小する可能性があります。

そうなれば、大会社になることで類似業種比準方式を利用しやすくするという考え方も意味を失う可能性があります。

自社株対策は、評価方式を選ぶことから、会社そのものの純資産や収益力をどう考えるのかという問題へ移っていくことになります。

結論

類似業種比準方式とは、評価対象となる非上場会社と似た業種の上場会社の株価を基準として、配当、利益、純資産などを比較しながら自社株を評価する方法です。

現在の制度では、会社規模が大きいほど類似業種比準方式を利用する割合が高くなります。

大規模な非上場会社ほど上場会社に近い企業実態を持つという考え方が、その背景にあります。

しかし、上場会社と非上場会社では株式の流動性や経営形態が大きく異なります。

さらに、類似業種比準方式と純資産価額方式の間で株価に大きな差が生じ、会社の実際の資産価値に比べて税務上の評価額が大幅に低くなるケースも問題視されてきました。

そこで新しい評価ルール案では、上場会社との比較をやめ、会社自身の簿価純資産と収益力を中心に評価する方向が示されています。

類似業種比準方式の廃止が実現すれば、約60年以上続いてきた非上場株評価の基本的な考え方が大きく変わります。

非上場株の価値を他社との比較で決める時代から、自社が持つ財産と利益を生み出す力から直接評価する時代へ移ろうとしているわけです。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

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