税制改正の経過措置とは何か 新しい自社株評価へ移行するときに必要になる理由編

税理士
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税制を大きく変更するとき、重要になるのが「経過措置」です。

新しい制度を決めたからといって、翌日からすべての人に新しいルールを適用すればよいとは限りません。

特に、何年もかけて準備する事業承継では、途中で税制の前提が変わると、それまで進めてきた計画そのものを見直さなければならなくなる可能性があります。

現在、国税庁では非上場株式の評価方法について、60年以上続いてきた体系を抜本的に見直す議論が進められています。

仮に新しい評価方法が導入されるのであれば、どの時点から新制度を適用するのか。

すでに進めている事業承継をどう扱うのか。

旧制度と新制度の間をどうつなぐのか。

こうした問題が非常に重要になります。

経過措置とは何か

経過措置とは、制度を変更するときに、旧制度から新制度へ円滑に移行するために設ける特別な取り扱いです。

例えば、新制度を一定の日から適用するとしても、それ以前から契約や手続きを進めていた人については旧制度を一定期間利用できるようにする場合があります。

あるいは、制度変更の影響を数年間かけて段階的に反映させる方法もあります。

つまり、制度を一気に切り替えるのではなく、一定の橋渡し期間を設ける考え方です。

なぜ税制変更に経過措置が必要なのか

税制は、人や企業の行動に影響します。

現在の税制を前提として、贈与をする。

投資をする。

会社を再編する。

事業承継を計画する。

こうした判断を行います。

ところが、計画を実行している途中で制度が大きく変わると、それまでの判断の前提が崩れる可能性があります。

そのため、制度変更の影響が大きい場合には、すでに行動している人への配慮が必要になります。

それが経過措置の役割です。

事業承継は数年単位で進める

事業承継の場合、特に経過措置が重要になります。

後継者を決めます。

経営を少しずつ任せます。

自社株の評価額を確認します。

後継者へ株式を移します。

事業承継税制の利用を検討します。

金融機関や取引先にも経営者交代を説明します。

こうした準備を数年かけて行うことがあります。

その途中で株式評価のルールが抜本的に変われば、計画の前提が変わる可能性があります。

自社株評価が突然変わると何が起きるのか

例えば、現在の評価方法で自社株が1億円と評価されている会社があるとします。

経営者は、その評価額を前提として5年間で後継者へ株式を移す計画を立てています。

ところが、新しい評価方式によって自社株評価額が2億円になったとします。

そうなれば、同じ株式を贈与しても贈与税への影響が変わる可能性があります。

相続で引き継ぐ場合も、相続税の計算に影響します。

その結果、これまで進めてきた事業承継計画を修正しなければならなくなるかもしれません。

すでに株式移転を始めている会社もある

事業承継では、株式を一度にすべて移すとは限りません。

数年間に分けて贈与している会社もあります。

例えば、毎年一定割合ずつ後継者へ株式を移しているケースです。

その途中で評価方法が変われば、前半に贈与した株式と後半に贈与する株式で、評価方法が違う可能性があります。

これでは当初想定していた税負担と大きく変わることがあります。

こうしたケースをどう扱うのかも、経過措置の重要な論点です。

持株会社を設立済みの場合はどうなるのか

事業承継対策として、すでに持株会社を設立している企業もあります。

現行の株式評価制度を前提として、会社の組織を再編したケースです。

その後に評価方法が大きく変われば、当初想定していた評価額や事業承継の効果が変わる可能性があります。

すでに多額の費用や時間をかけて組織再編を行っている企業にとって、制度変更は簡単な問題ではありません。

だからこそ、新制度への移行方法を丁寧に設計する必要があります。

経過措置にはいくつかの方法がある

経過措置には、さまざまな方法が考えられます。

一つは、施行日前に相続や贈与が行われた場合には旧制度を適用し、施行日以後は新制度を適用する方法です。

これは最も分かりやすい方法です。

もう一つは、施行日前から一定の事業承継計画を進めていた場合について、一定期間は旧制度を利用できるようにする方法です。

さらに、新しい評価方法を数年かけて段階的に適用する方法も考えられます。

どの方法を採るかによって、企業への影響は大きく変わります。

単純な施行日方式にも問題がある

例えば、令和10年1月1日から新制度を適用するとします。

令和9年12月31日に贈与した株式は旧制度。

令和10年1月1日に贈与した株式は新制度。

このように区切れば制度としては明確です。

しかし、たった1日の違いで評価額が大きく変われば、納税者にとっては非常に大きな差になります。

制度が大幅に変わる場合ほど、単純に施行日だけで線を引くことが適切なのかを考える必要があります。

駆け込み贈与が増える可能性

新制度によって自社株評価額が上昇すると予想されれば、施行日前に株式を贈与しようと考える経営者が増える可能性があります。

いわゆる駆け込みです。

例えば、令和10年1月1日から評価額が上がると分かれば、令和9年中に株式を移したいという動きが出ることが考えられます。

これは納税者として自然な行動でもあります。

一方、大量の駆け込みが発生すれば、制度変更の目的が損なわれる可能性もあります。

だから発表時期も難しい

経過措置を考えるときには、制度をいつ公表するのかも重要です。

早く公表すれば、企業は十分な準備ができます。

しかし、駆け込み行動が増える可能性があります。

直前に公表すれば、駆け込みは抑えられるかもしれません。

しかし、企業や税理士が準備する時間がなくなります。

このため、

十分な準備期間

制度の公平性

駆け込み防止

という3つのバランスを考える必要があります。

既存の事業承継計画をどこまで保護するのか

難しいのが、「すでに計画していた企業」をどこまで保護するのかという問題です。

例えば、税理士と相談して事業承継計画を作成していた会社があります。

しかし、まだ実際の株式贈与は行っていません。

この会社を旧制度の対象にするのか。

それとも、新制度を適用するのか。

判断は簡単ではありません。

単に「計画していた」と自己申告するだけでは、制度の公平性を保ちにくくなります。

そのため、経過措置を設ける場合には、客観的な基準が必要になります。

基準日をどこに置くのか

経過措置では、基準日が重要です。

例えば、

株式を贈与した日

事業承継計画を提出した日

契約を締結した日

会社再編を行った日

など、さまざまな基準が考えられます。

どこを基準にするかによって、旧制度を利用できる企業と利用できない企業が分かれます。

そのため、経過措置の設計そのものが大きな制度論になります。

経過措置を広げすぎると新制度へ移れない

一方、既存の企業を保護しようとして経過措置を広げすぎると、新制度への移行が進まなくなります。

例えば、今後10年間は旧制度を選択できるようにすれば、企業にとっては安心です。

しかし、新しい評価制度を導入した意味が薄くなります。

また、同じ時期に相続が発生した人でも、旧制度を利用できる人と新制度しか利用できない人が存在することになります。

公平性の問題も生じます。

経過措置にも公平性が必要

経過措置は、納税者を保護するための制度です。

しかし、経過措置そのものが不公平を生む可能性があります。

旧制度の方が評価額が低い場合、旧制度を使える人は税負担が軽くなる可能性があります。

一方、新制度しか使えない人は負担が重くなる可能性があります。

そのため、誰を保護するのかという基準には合理的な説明が必要です。

段階的な移行という方法

もう一つ考えられるのが、段階的に新制度へ移行する方法です。

例えば、新しい評価方式による評価額を一度に100%適用するのではなく、数年かけて反映割合を高めていく方法です。

これなら、評価額が大きく変化する企業へのショックを和らげることができます。

ただし、制度が複雑になるという問題があります。

税理士や企業にとって計算が難しくなり、税務行政の負担も増える可能性があります。

周知期間と経過措置は違う

ここで区別したいのが、周知期間と経過措置です。

周知期間は、新制度が公表されてから施行されるまでの準備期間です。

経過措置は、新制度が施行された後も一定の場合に旧制度などを利用できる仕組みです。

例えば、令和9年1月に新制度を公表し、令和10年1月から施行すれば、1年間の周知期間があります。

さらに、すでに進めている事業承継について令和12年まで旧制度を認めれば、それが経過措置になります。

両方を分けて考えることが重要です。

新制度を理解する時間も必要

評価方法が大きく変わる場合、単に制度を公表すれば終わりではありません。

税理士が新しい計算方法を理解する必要があります。

企業ごとの評価額を試算する必要があります。

顧客へ説明する必要があります。

場合によっては事業承継計画を作り直す必要があります。

金融機関や他の専門家との調整も必要になることがあります。

そのため、十分な周知期間を設けることが重要です。

新制度には判例や実務の蓄積がない

現行の財産評価基本通達には、60年以上の実務の蓄積があります。

一方、新しい評価方式には、そのような蓄積がありません。

制度導入直後には、さまざまな疑問が出てくる可能性があります。

利益が大きく変動した場合はどうするのか。

一時的な特殊要因をどう扱うのか。

特殊な業種はどうするのか。

こうした問題について実務が安定するまでには時間がかかります。

この意味でも、移行期間の設計が重要になります。

令和10年1月1日という時期

今回のインタビューでは、高橋達也税理士が、国税庁は新しい評価方法について令和10年1月1日の施行を考えているのではないかとの見方を示しています。

これは正式に決定された施行日ではありません。

しかし、仮に令和10年1月1日から大幅な制度変更を行うのであれば、それまでに評価方法、還元率、経過措置などを十分早く示す必要があります。

企業側が準備できる期間をどの程度確保するのかが重要になります。

今から駆け込み対策をするべきなのか

新制度が気になるからといって、今すぐ株式を贈与した方がよいとは限りません。

まだ評価方式の詳細も、還元率も、施行日も正式に確定していない段階です。

さらに株式の贈与は、税金だけでなく会社の議決権や経営権にも影響します。

将来の相続にも影響します。

そのため、制度が決まる前に税負担だけを理由として大きな株式移転を行うことには慎重さが必要です。

今できるのは現状把握

一方、何も準備しなくてよいわけでもありません。

現在の自社株評価額を確認しておく。

利益や純資産の推移を整理する。

後継者を確認する。

現在進めている株式移転計画を整理する。

事業承継税制の利用状況を確認する。

こうした準備をしておけば、新制度と経過措置が明らかになったときに速やかに対応できます。

結論

経過措置は、旧制度から新制度へ円滑に移行するための重要な仕組みです。

特に非上場株式の評価方法のように、事業承継や相続税、贈与税へ大きな影響を与える制度では、その役割が重要になります。

事業承継は数年から十年以上かけて準備することがあります。

その途中で評価ルールが大きく変われば、それまでの計画を作り直さなければならない可能性があります。

だからこそ、新制度の内容だけではなく、周知期間、施行日、経過措置をセットで考える必要があります。

一方、経過措置を広げすぎれば、新制度への移行が遅れたり、納税者間の公平性に問題が生じたりします。

既存の計画をどこまで保護し、新制度をいつから全面適用するのか。

そのバランスが重要です。

今回の非上場株式評価の見直しでは、新しい評価方式そのものと同じくらい、旧制度から新制度へどう移行するのかに注目する必要があります。

次回は、令和10年1月1日に非上場株式の評価方法が変わる可能性について取り上げます。

今後どのようなスケジュールで議論が進み、企業や税理士はどの時点から具体的な準備を始めるべきなのかを整理します。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く

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