第3号被保険者だった人が勤務先の社会保険に加入すると、給与から健康保険料や厚生年金保険料などが差し引かれるようになります。
そのため、
社会保険に入ると手取りが減るから損だ
と考える人もいます。
確かに、加入直後の給与明細だけを見れば手取りが減ることがあります。
しかし、社会保険の損得を現在の手取りだけで判断することはできません。
厚生年金に加入すれば将来の年金が増えます。
健康保険では、一定の場合に傷病手当金などの保障を受けられるようになります。
さらに社会保険料は本人だけが負担しているわけではありません。
勤務先も保険料を負担しています。
社会保険への加入を考えるときには、
今月いくら引かれるのか
だけでなく、
何の保障を得られるのか
まで含めて考える必要があります。
第3号では本人の直接負担がない
まず第3号被保険者の特徴を確認します。
第3号被保険者は、本人が国民年金保険料を直接納めなくても、その期間が原則として保険料納付済期間として扱われます。
健康保険でも配偶者の被扶養者になっている場合、本人について通常の健康保険料が個別に追加される仕組みではありません。
そのため第3号被保険者から勤務先の社会保険へ移ると、
これまでなかった保険料負担が突然発生した
と感じやすくなります。
給与明細では社会保険料が明確に差し引かれるため、負担増が目に見えるからです。
社会保険に入ると何が給与から引かれるのか
会社員として社会保険に加入すると、代表的には厚生年金保険料と健康保険料が給与から差し引かれます。
年齢などによっては介護保険料も関係します。
さらに雇用保険料などもあります。
ただし、それぞれ目的は異なります。
厚生年金は老後などの所得保障に関係します。
健康保険は病気やけがなどに備える制度です。
介護保険は介護が必要になった場合の給付を支える制度です。
単に給与から引かれるお金としてまとめて見るのではなく、何のための保険料なのかを分けて考えることが大切です。
厚生年金保険料は給与に応じて決まる
厚生年金保険料は、基本的に給与などを基礎として計算されます。
実際の計算では標準報酬月額などが使われます。
したがって、国民年金の第1号被保険者が負担する定額の保険料とは仕組みが違います。
給与が高くなれば厚生年金保険料も増える方向になります。
一方、将来受け取る老齢厚生年金も、加入期間や報酬に応じて計算されます。
つまり、
多く働いて給与が増える
保険料も増える
将来の厚生年金も増える
という関係があります。
厚生年金保険料は会社も負担している
給与明細を見ると、自分の給与から差し引かれた厚生年金保険料が表示されます。
しかし、それが厚生年金保険料の全額ではありません。
厚生年金保険料は原則として労使折半です。
本人が負担する分とは別に、勤務先も負担しています。
例えば本人の給与から一定額の厚生年金保険料が差し引かれていれば、勤務先側にも原則として対応する負担があります。
第1号被保険者として国民年金保険料を自分で納める場合には、このような勤務先負担はありません。
第3号から第2号への移行を見るときには、本人負担だけを見ないことが重要です。
健康保険料も本人と会社が負担する
勤務先の健康保険に加入すれば、健康保険料も給与から差し引かれます。
こちらも本人だけで負担するものではなく、事業主にも負担があります。
実際の保険料率などは加入する健康保険によって異なります。
そのため、
社会保険に入れば年収の何パーセントが必ず手取りから減る
と一律にいうことはできません。
給与水準、年齢、加入する健康保険、地域などによって違いが生じるからです。
自分の場合の手取りを考えるときには、勤務先が加入している健康保険などを確認する必要があります。
社会保険料の全額が手取り減になるわけではない
社会保険に加入した場合の手取りを考えるときには、税金との関係も重要です。
本人が負担した社会保険料は、所得税や住民税を計算する際の社会保険料控除の対象になります。
そのため社会保険料を10万円負担したからといって、税引き後の手取りが必ずそのまま10万円減るとは限りません。
社会保険料を負担した分、課税対象となる所得が小さくなり、所得税や住民税の負担が軽くなる方向に働くからです。
したがって手取りの変化を考える場合には、
給与の増加
社会保険料の増加
所得税や住民税の変化
をまとめて見る必要があります。
壁を少し超えただけでは手取りが増えにくいことがある
社会保険の年収の壁が問題になるのは、加入直後の手取りの変化が大きく感じられる場合があるためです。
例えば勤務時間を少し増やしたことで勤務先の社会保険に加入したとします。
給与は増えます。
しかし新たに厚生年金保険料や健康保険料などが給与から差し引かれます。
その結果、
働く時間を増やしたのに手取りがあまり増えない
場合があります。
これが働き控えにつながります。
壁の直前で勤務時間を抑えた方がよいと考える人が出てくるのです。
壁を超えた後も働けば状況は変わる
しかし、社会保険加入後もさらに勤務時間を増やせるのであれば話は変わります。
社会保険料を負担することになっても、それを上回るだけ給与が増えれば手取りも増えていきます。
問題は、
壁をほんの少しだけ超える
ケースです。
社会保険に加入するなら、その後どこまで収入を増やせるのかが重要になります。
年収の壁を考えるときには、
壁を超えるか超えないか
だけではなく、
壁を超えた後にどれだけ働くか
まで考える必要があります。
厚生年金に加入すれば将来の年金が増える
第3号被保険者の期間は、老齢基礎年金にはつながります。
しかし第3号であることによって、本人名義の老齢厚生年金が新たに積み上がるわけではありません。
勤務先の厚生年金へ加入すれば、その期間と報酬に応じて老齢厚生年金が積み上がります。
例えば短期間だけ加入する場合と、10年、20年と加入する場合では将来への影響が違います。
現在の手取りだけを比較すると社会保険加入前の方が有利に見える場合でも、老後まで含めれば比較結果が変わる可能性があります。
社会保険は現在と将来をつなぐ制度だからです。
健康保険では現役時代の保障も変わる
社会保険加入によるメリットは老後だけではありません。
勤務先の健康保険の被保険者になることで、一定の条件を満たせば傷病手当金などの対象になることがあります。
例えば病気やけがで働けず、給与を受け取れない場合に、一定の所得保障につながる仕組みです。
被扶養者として健康保険に入っている場合と、自分自身が被保険者として加入する場合では、利用できる給付に違いがあることがあります。
そのため健康保険料についても、
病院で3割負担になるためだけのお金
と考えるのは正確ではありません。
働けなくなったときの所得保障なども含まれています。
社会保険は貯金ではない
ただし、
保険料を払えば必ず自分が払った以上のお金を取り戻せる
と考えるのも適切ではありません。
社会保険は個人の積立貯金ではないからです。
病気にならない人もいます。
傷病手当金を一度も利用しない人もいます。
長生きする人もいれば、そうでない人もいます。
社会保険は、さまざまなリスクを社会全体で支える仕組みです。
したがって個人ごとに、
払った保険料
と、
受け取った給付
を単純に比較して損得を決める制度ではありません。
第3号から第2号になる場合は時間軸が重要
第3号から第2号へ移る人にとって、最も分かりやすい変化は現在の手取り減です。
一方、将来の厚生年金増加は何年も先の話です。
この時間差が、社会保険加入を損だと感じやすくする理由の一つです。
現在の1万円と、数十年後に受け取る年金では心理的な感じ方が違います。
さらに将来の給付額を正確にイメージすることも簡単ではありません。
そのため制度改革では、単に加入を義務付けるだけでなく、
保険料をいくら負担するのか
どのような保障が増えるのか
将来の年金がどのように増えるのか
を分かりやすく示すことも重要になります。
世帯ではなく本人単位で見る視点も必要になる
第3号被保険者制度では、配偶者との関係が重要です。
そのため家計では、
夫婦合わせて手取りがいくらになるか
という視点で働き方を決めることがあります。
一方、第2号被保険者になれば本人自身の社会保険加入になります。
本人が保険料を負担します。
本人名義の厚生年金が積み上がります。
本人自身が健康保険の被保険者になります。
これは、
配偶者に扶養される社会保険
から、
自分自身で加入する社会保険
への変化でもあります。
現在の世帯手取りだけでは測れない意味があります。
年収だけで損得を判断できない理由
社会保険加入の損得を、
年収がいくらなら得
年収がいくらなら損
という一つの数字だけで判断することは難しいものです。
年齢が違います。
給与が違います。
働く期間が違います。
加入する健康保険も違います。
将来の厚生年金への影響も違います。
傷病手当金などを利用する可能性も人によって違います。
さらに社会保険加入後に勤務時間をどこまで増やすかによっても、手取りの変化は違います。
だからこそ年収の壁では、壁の金額だけを覚えるのではなく、その先にある仕組みを理解する必要があります。
結論
第3号被保険者から勤務先の社会保険に加入すると、厚生年金保険料や健康保険料などの本人負担が発生します。
そのため加入直後には、給与が増えても手取りが思ったほど増えない場合があります。
これが社会保険の壁を意識した働き控えにつながる理由の一つです。
しかし、
社会保険料を払うから損
と現在の手取りだけで判断することはできません。
厚生年金保険料は勤務先も原則として負担します。
本人には老齢厚生年金が積み上がります。
健康保険では、一定の場合に傷病手当金などの保障につながります。
本人が負担した社会保険料は税金を計算するときの社会保険料控除にもなります。
つまり社会保険への加入は、
現在の手取りを減らす
という一面だけではなく、
現在と将来の保障を増やす
という一面を持っています。
第3号被保険者制度の縮小によって社会保険へ加入する人が増えるのであれば、重要なのは単に保険料負担を求めることではありません。
壁を超えた後に十分働いて収入を増やせる環境を整え、負担によってどのような保障が得られるのかを分かりやすくすることです。
社会保険の損得は、年収という一つの数字だけではなく、現在の手取りと将来の年金、そして現役時代の保障まで含めて考える必要があるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握