「株価が上がると景気が良くなる」「住宅価格が上昇すると消費が活発になる」といった話を耳にしたことはないでしょうか。これは単なる気分の問題ではなく、経済学では「資産効果」と呼ばれる現象として説明されています。
人は毎月の給与だけで生活を考えているわけではありません。預貯金や株式、不動産など、自分が保有する資産の価値も将来の生活設計に大きく影響します。そのため、資産価値が上昇すると消費が増え、逆に資産価値が下落すると消費を控える傾向があります。
この記事では、資産効果の基本的な考え方と、日本経済への影響について分かりやすく解説します。
資産効果とは何か
資産効果とは、保有する資産の価値が変化することで、人々の消費行動が変わる現象をいいます。
例えば、株式や投資信託の評価額が大きく増えれば、「資産が増えた」という安心感から旅行や高額商品の購入に積極的になる人もいます。
反対に、株価や住宅価格が大きく下落すると、「資産が減った」という意識が強まり、将来への不安から支出を控える傾向が生まれます。
このように、実際に資産を売却していなくても、資産価値の変化だけで消費行動が変わることが資産効果の特徴です。
株高が消費を押し上げる理由
株価が上昇すると、株式や投資信託を保有する人の金融資産は増加します。
たとえ利益を確定していなくても、資産残高が増えたことで経済的な余裕を感じやすくなります。
その結果、自動車や住宅リフォーム、旅行など比較的大きな支出を行う人が増えることがあります。
企業にとっても株価上昇にはメリットがあります。
株価が高ければ資金調達がしやすくなり、新しい設備投資や研究開発、人材採用を進めやすくなります。
こうした企業活動の活発化は雇用や所得の増加につながり、さらに消費を押し上げる好循環を生み出します。
不動産価格との関係
資産効果は住宅価格にも当てはまります。
自宅の評価額が上昇すると、「資産が増えた」という意識から消費を増やす家庭があります。
また、不動産価格の上昇は担保価値を高めるため、金融機関から融資を受けやすくなるという効果もあります。
一方で、住宅価格が高騰すると、これから住宅を購入する若い世代にとっては負担が増えるという側面もあります。
このように、不動産価格の変動は、所有者と購入予定者で影響が大きく異なります。
日本では資産効果が限定的といわれる理由
欧米では株式保有率が高いため、株価上昇が消費へ与える影響は比較的大きいとされています。
一方、日本では長年にわたり家計金融資産の多くを預貯金が占めてきました。
そのため、株価が上昇しても恩恵を受ける人は比較的限られ、資産効果も欧米ほど大きくは表れないと考えられています。
しかし近年は、新NISAの普及などを背景に株式や投資信託を保有する人が増えています。
今後、家計の資産構成が変化すれば、日本でも資産効果がこれまで以上に重要になる可能性があります。
金融政策とのつながり
中央銀行は資産効果も意識しながら金融政策を運営しています。
金利を引き下げると、企業の資金調達環境が改善し、株価や不動産価格が上昇しやすくなります。
その結果、家計の資産価値が高まり、消費を後押しすることが期待されます。
反対に、金利が上昇すると株価や不動産価格には下押し圧力がかかることがあり、資産効果を通じて消費が弱まる場合もあります。
このように、金融政策は金利だけでなく、資産価格を通じても経済に影響を及ぼしているのです。
結論
資産効果とは、株式や住宅などの資産価値が変化することで、家計の消費行動が変わる現象です。資産価値が上昇すれば消費は活発になりやすく、反対に資産価値が下落すれば消費は慎重になる傾向があります。
日本では預貯金中心の資産構成から資産効果は欧米ほど大きくないとされてきました。しかし、資産運用の普及が進む中で、その影響力は徐々に高まる可能性があります。金融政策を理解するためには、金利だけでなく、株価や住宅価格が家計心理や消費に与える影響にも目を向けることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月4日 朝刊 経済教室「金利上昇と日本経済(上) 家計に重い負担 是正が必要」 中園善行(横浜市立大学教授)