給与が上がったはずなのに、思ったほど手取りが増えない。そう感じる会社員は少なくありません。
その理由の一つが社会保険料です。
日本では医療や年金、介護などを社会保険制度によって支えています。なかでも高齢化による医療費の増加は、現役世代が負担する健康保険料と深く関係しています。
会社員が支払う健康保険料は、自分や家族の医療費だけに使われるわけではありません。後期高齢者支援金や前期高齢者納付金などを通じて、高齢者医療にも使われています。
今回は、なぜ社会保険料が上がりやすいのか、医療費増加との関係、税金との違い、そして手取り収入への影響について整理します。
社会保険料とは何か
社会保険料とは、社会保障制度を運営するために加入者や企業などが負担するお金です。
会社員の場合、給与明細を見ると複数の社会保険料が差し引かれています。
代表的なものとして、
健康保険料
厚生年金保険料
介護保険料
雇用保険料
などがあります。
それぞれ目的は異なります。
健康保険は病気やけがなどの医療、厚生年金は老後などの所得保障、介護保険は介護サービスを社会全体で支える制度です。
社会保険料は私たちの生活を支える重要な財源になっています。
社会保険料が上がる最大の背景は高齢化
社会保険料の負担を考えるうえで避けて通れないのが、日本の人口構造です。
高齢になるほど、一般的に医療や介護サービスを利用する機会が増えます。
そのため高齢者人口が増加すると、社会保障給付費も増えやすくなります。
一方、日本では少子化によって現役世代の人口が減少しています。
つまり、
社会保障を必要とする人が増える
保険料を負担する現役世代が減る
という二つの変化が同時に進んでいます。
制度を維持するためには、現役世代一人当たりの負担が重くなりやすい構造です。
医療費が増えると健康保険料にも影響する
会社員が加入する健康保険では、加入者から集めた保険料などを財源として医療給付を行います。
しかし、保険料は自分たちの医療費だけに使われるわけではありません。
健康保険組合や協会けんぽなどは、高齢者医療を支えるための資金も負担します。
代表的なのが、
後期高齢者支援金
前期高齢者納付金
です。
高齢者医療費が増加してこれらの負担が大きくなれば、医療保険者の財政を圧迫します。
その結果、健康保険料率の引き上げなどにつながる可能性があります。
後期高齢者支援金が現役世代に与える影響
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は、高齢者本人の保険料だけで運営されているわけではありません。
給付費については、基本的に高齢者本人の保険料が約1割、現役世代などからの後期高齢者支援金が約4割、公費が約5割という構造で支えられています。
つまり、現役世代が加入する医療保険は75歳以上の医療費の重要な財源です。
後期高齢者が増え、医療費が膨らめば、現役世代側の負担も増えやすくなります。
2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となりました。
高齢者医療の財源問題がこれまで以上に重要になっている理由です。
社会保険料と税金は何が違うのか
社会保障を支える財源には、社会保険料だけでなく税金もあります。
両者には違いがあります。
税金は、国や地方自治体がさまざまな行政サービスを提供するために広く徴収します。
一方、社会保険料は、原則として医療や年金、介護など特定の社会保険制度を支えるために徴収されます。
会社員の場合、社会保険料の多くは給与から直接差し引かれます。
そのため保険料が増えると、手取りへの影響を感じやすいという特徴があります。
税金を減らしても手取りが増えるとは限らない
家計負担の議論では、所得税や住民税などの減税が注目されることがあります。
しかし、税金だけを見ていては実際の負担を十分に把握できません。
仮に所得税が減っても、健康保険料や介護保険料などが増えれば、手取りの増加が相殺される可能性があります。
重要なのは、
税金
社会保険料
を合わせた負担を見ることです。
家計から見れば、どちらも可処分所得を減らす要因だからです。
賃上げしても手取りが増えにくい理由
例えば会社から給与を1万円引き上げてもらったとします。
その1万円がすべて手取りになるわけではありません。
給与が増えれば、一定の条件のもとで税金や社会保険料にも影響します。
そのため額面給与の増加と実際の手取り増加には差が生じます。
社会保険料率そのものが上昇すれば、この差はさらに大きくなります。
賃上げ政策を考える場合にも、額面賃金だけでなく社会保険料を差し引いた可処分所得を見ることが重要です。
企業も社会保険料を負担している
社会保険料の問題は従業員だけに関係するものではありません。
健康保険や厚生年金保険などでは、企業も保険料を負担します。
企業から見れば、従業員一人を雇用するためのコストは給与だけではありません。
給与に加えて、企業負担分の社会保険料があります。
社会保険料負担が増えれば企業の人件費も増加します。
その結果、
賃上げ余力
採用
設備投資
利益
などに影響する可能性があります。
社会保険料の上昇は家計と企業の双方に影響する問題なのです。
高齢者の自己負担を増やせば解決するのか
そこで議論されるのが、高齢者の医療費自己負担の引き上げです。
負担能力のある高齢者により多く支払ってもらえば、現役世代の負担を軽減できそうに見えます。
しかし、制度はそれほど単純ではありません。
現在、現役並み所得のある75歳以上は医療費を3割負担します。
ところが、3割負担者の給付費には原則として通常の公費が投入されません。
そのため3割負担者が増えると、公費が減る一方で、現役世代からの後期高齢者支援金が増える場合があります。
高齢者本人の窓口負担を増やすだけでは、必ずしも現役世代の社会保険料負担の軽減につながらないのです。
重要なのは社会保障全体の負担設計
社会保険料を抑える方法として、公費を増やすことも考えられます。
しかし、公費の財源も税金です。
社会保険料を減らして税金を増やせば、社会全体としては負担を付け替えただけになる場合があります。
だからこそ、
誰が負担するのか
何を財源とするのか
どの程度の給付を維持するのか
という三つを同時に考える必要があります。
社会保険料だけを切り離して議論することは難しいのです。
現役世代の負担軽減には何が必要なのか
現役世代の負担を持続的に軽減するには、単純な保険料率の引き下げだけでは十分ではありません。
医療の効率化や予防医療の推進、医薬品の適正使用などによって医療費そのものの伸びを抑えることも重要です。
さらに、所得や負担能力に応じて高齢者にも適切な負担を求める必要があります。
そのうえで、公費と社会保険料をどのように組み合わせるのかを考えなければなりません。
現役世代の負担軽減と社会保障制度の持続可能性を同時に実現することが求められます。
結論
社会保険料が上がりやすい大きな背景には、高齢化による医療や介護などの社会保障費の増加があります。
特に健康保険では、現役世代が支払う保険料の一部が後期高齢者支援金や前期高齢者納付金を通じて高齢者医療を支えています。
高齢者が増える一方で現役世代が減少すれば、一人当たりの負担は重くなりやすくなります。
そして社会保険料の上昇は、会社員の手取りを減らすだけではありません。企業の人件費を増やし、賃上げや雇用にも影響する可能性があります。
重要なのは、税金と社会保険料を別々に考えないことです。
高齢者本人の負担、現役世代の保険料、公費、そして医療給付そのものを一体として見直すことが、社会保障制度を持続させながら現役世代の負担を抑えるための重要な課題となります。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
高齢者の貢献、現役に打撃 医療費3割負担なら公費ゼロ 昨年度日経試算、「仕送り」400億円増の矛盾