応能負担とは何か 所得の多い人ほど社会保障を多く負担する考え方編

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医療や介護などの社会保障制度では、すべての人が同じ金額を負担しているわけではありません。

所得が多い人にはより多くの負担を求め、所得が少ない人の負担を軽くする仕組みが数多く取り入れられています。その基本となる考え方が「応能負担」です。

高齢者医療でも、この考え方は重要になっています。

75歳以上の医療費は原則1割負担ですが、一定以上の所得があれば2割、現役並み所得者であれば3割になります。

高齢者だから一律に負担を軽くするのではなく、その人の経済的な負担能力も考慮する方向へ制度が変化しているのです。

今回は、応能負担とは何か、応益負担とはどう違うのか、そして高齢者医療改革とどのように関係するのかを整理します。

応能負担とは何か

応能負担とは、その人の「負担する能力」に応じて負担額を決める考え方です。

簡単にいえば、所得などが多く経済的な余力がある人にはより多く負担してもらい、所得が少ない人の負担は軽くするという考え方です。

代表的なものが所得税です。

日本の所得税では、所得が増えるにつれて高い税率が適用される累進課税が採用されています。

社会保障制度でも、保険料や医療費の自己負担などに負担能力を反映させる仕組みがあります。

社会全体で制度を維持しながら、低所得者に過度な負担が集中しないようにする役割があります。

応益負担とは何か

応能負担と対になる考え方として「応益負担」があります。

応益負担とは、受ける利益やサービスに応じて負担するという考え方です。

例えば、一定のサービスを利用した人が利用料を支払う仕組みは、応益負担的な考え方といえます。

医療で考えれば、医療サービスを利用した人が窓口で一定割合を自己負担する仕組みには、こうした考え方が含まれています。

つまり社会保障制度には、

負担能力に応じて支払う応能負担

受けるサービスなどに応じて支払う応益負担

という異なる考え方があります。

実際の制度は、どちらか一方だけではなく両者を組み合わせて設計されています。

医療保険には二つの考え方が入っている

公的医療保険を見ると、応能負担と応益負担の双方が使われていることが分かります。

例えば会社員の健康保険料は、給与や賞与などを基礎として決まります。

給与が高ければ、一定の上限まで保険料も高くなります。

これは応能負担的な仕組みです。

一方、病院を受診したときには、医療費の一定割合を窓口で支払います。

医療サービスを利用した際に負担するという点では、応益負担的な要素があります。

さらに高額療養費制度によって、所得区分に応じて月々の自己負担上限が変わります。

一つの医療保険制度の中に複数の負担原則が組み込まれているのです。

高齢者医療でも応能負担が強まっている

後期高齢者医療制度では、75歳以上の窓口負担は原則1割です。

しかし、すべての高齢者が1割ではありません。

一定以上の所得がある人は2割、現役並み所得者は3割を負担します。

つまり、

年齢だけで負担を決める

という考え方から、

年齢に加えて負担能力も考慮する

という方向へ制度が変化しています。

高齢者の所得や働き方が多様化していることも、その背景にあります。

なぜ年齢だけでは公平でなくなっているのか

かつては、高齢者になると仕事を引退し、主な収入が年金になるという人生モデルが一般的でした。

しかし現在は状況が変化しています。

65歳や70歳を過ぎても働く人が増えています。

75歳以上でも給与所得や事業所得を得る人がいます。

一方、現役世代であっても所得が低く、社会保険料や生活費の負担が重い人もいます。

この状況で、

高齢者だから負担を軽くする

現役世代だから多く負担する

という年齢だけを基準とした制度を続ければ、負担能力との間にずれが生じる可能性があります。

そこで応能負担という考え方が重要になります。

3割負担は応能負担の一例

75歳以上でも現役並み所得がある人は、医療費の窓口で3割を負担します。

これは負担能力のある高齢者には、現役世代と同程度の負担を求めるという考え方です。

高齢者の中でも所得状況に応じて負担割合を変えるため、応能負担を反映した仕組みといえます。

2025年度には3割負担となる75歳以上が約165万3000人となり、前年度から約13万4000人増えました。

高齢者の就労拡大や所得上昇が続けば、負担能力のある高齢者をどのように扱うかは、さらに重要な政策課題になります。

応能負担を強めれば現役世代は楽になるのか

ここで注意したいのが、負担割合と財源構造は別の問題だということです。

高所得の高齢者を3割負担にすれば、本人の負担は増えます。

その分、現役世代の負担が減るように思えます。

しかし、現在の後期高齢者医療制度では、現役並み所得の3割負担者について、その給付費に原則として通常の公費が投入されません。

そのため3割負担者が増えると、公費が減る一方、現役世代からの後期高齢者支援金が増える場合があります。

日本経済新聞の試算では、2025年度に3割負担者が増えたことによって、現役世代からの支援金が約400億円増えました。

高齢者本人への応能負担を強めても、制度全体の設計によっては現役世代の負担軽減につながらないのです。

所得だけで負担能力を判断できるのか

応能負担を考えるときに難しいのが、「何を負担能力の基準にするのか」という問題です。

給与所得

年金所得

事業所得

不動産所得

金融所得

など、高齢者の収入源はさまざまです。

さらに所得はそれほど多くなくても、大きな金融資産や不動産を持っている人もいます。

反対に、一定の所得があっても住宅費や医療費などの負担が大きい人もいます。

所得だけで負担能力を正確に把握できるとは限りません。

高齢者医療改革では、金融所得や資産をどこまで負担能力の判定に反映させるのかも重要な論点になります。

応能負担にも限界がある

所得の多い人に負担を求めれば、すべて解決するわけではありません。

特定の所得層に負担を集中させすぎれば、制度への納得感が低下する可能性があります。

また、所得基準の境目で負担が急激に変われば、わずかな所得差によって大きな負担差が生じることもあります。

そのため、

どこから負担を増やすのか

どの程度増やすのか

負担が急変しない仕組みにするのか

といった制度設計が重要です。

公平性と制度の持続可能性を同時に考える必要があります。

高齢者対現役世代という議論から離れる

高齢者医療改革では、高齢者と現役世代のどちらに負担してもらうかという議論になりがちです。

しかし、応能負担という視点から見ると、問題の見え方が変わります。

重要なのは年齢そのものではなく、負担能力です。

所得の高い高齢者もいれば、所得の低い現役世代もいます。

今後は、

高齢者だから支えられる側

現役世代だから支える側

という単純な区分ではなく、世代を超えて負担能力に応じて支える仕組みをどう作るかが重要になります。

高齢者医療改革の本当の論点

高齢者医療改革では、75歳以上の窓口負担を原則3割に引き上げるといった議論があります。

しかし、本当に重要なのは負担割合だけではありません。

高齢者本人の窓口負担

高齢者自身の保険料

現役世代の社会保険料

国や地方自治体の公費

をどのように組み合わせるかという問題です。

応能負担を強化する場合にも、その結果として公費や現役世代の負担がどう変化するのかまで検証する必要があります。

制度全体を見なければ、本当の負担軽減にはつながらないからです。

結論

応能負担とは、所得などの負担能力に応じて社会保障費などを負担する考え方です。

これに対して、受けるサービスや利益などに応じて負担する考え方を応益負担といいます。

現在の医療保険制度には、この二つの考え方が組み合わされています。

高齢者医療でも、一定以上の所得がある75歳以上を2割負担、現役並み所得者を3割負担とすることで、応能負担の考え方が取り入れられています。

少子高齢化と高齢者就労が同時に進む日本では、年齢だけを基準に「支える側」と「支えられる側」を分けることは難しくなっています。

今後求められるのは、高齢者か現役世代かという二者択一ではなく、それぞれの負担能力に応じて公平に社会保障を支える仕組みです。

同時に、高齢者の自己負担、公費、社会保険料の関係を一体として見直さなければなりません。

応能負担をどこまで取り入れれば公平で持続可能な制度になるのか。それが今後の社会保障改革における重要なテーマになるでしょう。

参考

日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
高齢者の貢献、現役に打撃 医療費3割負担なら公費ゼロ 昨年度日経試算、「仕送り」400億円増の矛盾」

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