介護職の離職を防ぐには何が必要なのか 賃上げだけでは人材不足を解決できない理由編

人生100年時代
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介護人材の不足が問題になると、まず議論されるのが賃金です。

仕事に見合った処遇を確保し、他の産業との賃金格差を縮めることは、人材を確保するうえで重要です。

しかし、賃金を引き上げれば介護職の人手不足がすべて解決するわけではありません。

職員が長く働き続けるためには、業務負担、人間関係、カスタマーハラスメント、安全性など、職場環境全体を考える必要があります。

これからの介護人材政策では、新しい人を採用することだけではなく、今働いている人が辞めない環境をつくるという視点がますます重要になります。

介護人材は増やすだけでは足りない

人手不足への対策というと、採用人数を増やすことに目が向きがちです。

例えば、100人必要な職場に90人しかいなければ、10人を新たに採用すればよいと考えることができます。

しかし、10人を採用している間に10人が辞めれば、人数は増えません。

さらに経験豊富な職員が辞め、新しく採用した職員へ入れ替われば、人数が同じでも組織に蓄積された経験やノウハウが失われます。

介護は利用者一人ひとりの状態に応じた対応が必要な仕事です。

単純に人数だけをそろえればよいわけではありません。

採用と同時に定着を考える必要があります。

賃金は重要だがそれだけではない

介護職員の処遇改善は、人材確保の重要な柱です。

同じような条件の仕事と比べて賃金が低ければ、人材が別の産業へ流れる可能性があります。

生活費が上昇するなかでは、安定した収入を得られることも重要です。

一方、給与だけで職場を選ぶわけではありません。

仕事量が多すぎる、休みを取りにくい、相談できる上司がいない、利用者から暴言を受けても事業所が守ってくれないという環境では、賃金が上がっても働き続けることが難しい場合があります。

賃金は重要な条件ですが、定着を左右する条件の一つとして考える必要があります。

カスハラも離職につながる

介護職員の負担を考えるうえで無視できないのが、利用者や家族からのカスタマーハラスメントです。

暴言や威圧的な言動を受けても、介護だから我慢しなければならないという職場では、職員の心理的負担が大きくなります。

特に訪問介護やケアマネジャーは、利用者宅で一人になる場合があります。

その場で助けを求めにくいこともあります。

問題を報告しても事業所が対応せず、同じ利用者への訪問を続けるよう求められれば、職員は組織に守られていないと感じるでしょう。

こうした環境は離職につながりかねません。

カスハラ対策は安全対策であると同時に、人材定着策でもあります。

人手不足そのものが離職を生む

介護業界では、人手不足がさらに人手不足を生む悪循環にも注意が必要です。

職員が不足すると、残った職員一人ひとりの仕事が増えます。

仕事が増えれば、休暇を取りにくくなったり、残業が増えたりする可能性があります。

負担に耐えられず誰かが辞めると、残された職員の仕事はさらに増えます。

その結果、別の職員まで辞めるという連鎖が起こる可能性があります。

人手不足になってから採用活動を強化するだけでは、この悪循環を止めることが難しい場合があります。

早い段階で職員の負担を把握し、離職の兆候を見つけることが重要です。

介護以外の仕事を減らすことも必要

限られた介護人材を有効に活用するには、専門職が何に時間を使っているのかを見直す必要があります。

介護職員やケアマネジャーには、利用者への支援以外にも記録や書類作成、連絡調整など多くの業務があります。

もちろん必要な記録は残さなければなりません。

しかし、同じ情報を何度も入力したり、紙とデジタルの両方で管理したりするなど、効率化できる業務があれば見直す余地があります。

デジタル技術を活用し、事務作業に使う時間を減らせれば、専門職が本来の仕事へ使える時間を増やせます。

人を増やすだけでなく、今いる人の時間を有効に使うことも人手不足対策です。

安心して相談できる職場が重要

介護では、一人で判断することが難しい場面が少なくありません。

利用者の状態が急に変わった。

家族から強い要求を受けた。

訪問先で恐怖を感じた。

こうしたときに職員がすぐ相談できる環境があるかどうかは重要です。

相談すると自分の能力不足だと思われるのではないかという職場では、問題が表面化しにくくなります。

反対に、小さな問題の段階から管理者や同僚へ相談できれば、深刻なトラブルになる前に対応できる可能性があります。

職員を孤立させない組織づくりが必要です。

経験者が辞めないことには大きな価値がある

介護サービスでは、経験によって身につく能力があります。

利用者のわずかな変化に気づくことや、家族とのコミュニケーション、緊急時の判断などは、マニュアルだけですぐに身につくものではありません。

経験豊富な職員が辞めれば、その人が持っていた知識や経験も組織から失われます。

新しい職員を採用しても、一人前になるまでには時間が必要です。

そのため、長く働いている職員の定着は、単純な一人分以上の価値を持つことがあります。

人材確保を採用人数だけで評価するのではなく、経験者がどれだけ働き続けているかを見ることも重要です。

働き続けられる職場そのものをつくる

介護人材不足への対策は、一つの政策だけで解決できるものではありません。

賃金を改善する。

休暇を取りやすくする。

事務負担を減らす。

カスハラから職員を守る。

危険な訪問には複数人で対応する。

相談できる組織をつくる。

こうした対策を組み合わせる必要があります。

重要なのは、人材確保を採用の問題だけにしないことです。

入ってきた人が数年後も働き続けたいと思える職場でなければ、人材不足は繰り返されます。

結論

介護職の人材不足を解決するうえで、賃上げは重要です。

しかし、賃金だけを引き上げれば人材が定着するとは限りません。

過重な業務、休みにくさ、カスハラ、安全への不安、相談しにくい職場環境などが残れば、職員が離職する可能性があります。

これから重要になるのは、新しい人を何人採用したかだけではなく、今いる人が何年働き続けられるかという視点です。

特に経験豊富な職員の離職を防ぐことは、人数だけでは表せない大きな意味を持ちます。

介護需要が増える日本では、人材を採用しては辞めていく仕組みを続ける余裕はありません。

賃金、業務効率化、安全対策、カスハラ対策、働き方を一体として改善し、働き続けたいと思える職場をつくることが必要です。

介護人材を確保する最も基本的な方法の一つは、すでに介護を支えている人を大切にし、その人たちが辞めなくてもよい環境をつくることなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 ケアマネ8割に「カスハラ」

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