企業の中では、新製品の開発、既存製品の改良、市場調査、品質管理など、さまざまな活動が「開発」という大きなくくりで行われています。
しかし、研究開発税制では、企業が研究開発の一環として行っている活動のすべてが「試験研究」になるわけではありません。
研究開発税制の対象となる試験研究と、通常の事業活動を区別する必要があります。
特に注意したいのが、マーケティング、品質管理、単なる模倣、量産化などです。これらは新製品の開発と密接に関係していても、資料では試験研究に含まれない活動として具体的に示されています。
試験研究には明確な境界がある
税務上の試験研究は、新たな知見を得るため、または利用可能な知見の新たな応用を考案するために行う創造的で体系的な活動のうち、自然科学に係るものとされています。
したがって、会社にとって新しい取り組みだからという理由だけで試験研究になるわけではありません。
資料では、試験研究に含まれない活動が具体的に列挙されています。
この対象外となる活動を理解すると、逆に研究開発税制がどのような活動を支援しようとしているのかが見えてきます。
人文科学や社会科学に係る活動は含まれない
資料では、まず「人文科学及び社会科学に係る活動」が試験研究に含まれないものとして挙げられています。
研究という言葉は非常に広く使われます。
経済、経営、消費者行動などについて調査や分析を行うことも一般的には研究と呼ばれることがあります。
しかし、研究開発税制における試験研究は自然科学に係るものを基本としているため、研究と呼ばれる活動なら何でも対象になるわけではありません。
税務上の試験研究には独自の範囲があることを理解しておく必要があります。
リバースエンジニアリングでも単なる模倣は対象外になる
他社製品や既存技術を分析するリバースエンジニアリングにも注意が必要です。
資料では、すでに実用化されている製品や技術の構造や仕組みに関する情報を、自社製品や技術にそのまま利用することだけを目的として解析するリバースエンジニアリングや、その他の単なる模倣を目的とする活動は試験研究に含まれないとされています。
つまり、既存製品を分解して仕組みを調べ、それをそのまま自社製品に利用するだけでは対象になりません。
ポイントは「新たな知見」や「新たな応用」があるかどうかです。
既存技術を調べる行為そのものではなく、その先でどのような創造的な研究を行っているのかが重要になります。
事務作業を効率化しただけでは試験研究にならない
会社では日常的に業務改善が行われています。
例えば、事務処理の手順を変更したり、業務を簡素化したり、部署の編成を変更したりすることがあります。
こうした改善によって大幅な生産性向上が実現することもあります。
しかし、資料では、事務員による事務処理手順の変更や簡素化、部署編成の変更についても試験研究には含まれないとされています。
会社にとって大きな改革であることと、研究開発税制上の試験研究であることは別問題なのです。
マーケティングや販路開拓は対象外になる
新製品を開発するときには、技術開発だけではなくマーケティングも必要になります。
どのような商品が売れるのかを調査したり、新しい販売方法を考えたり、新しい販路を開拓したりします。
しかし、資料では、既存のマーケティング手法や販売手法の導入などによる販売技術や販売方法の改良、販路の開拓は試験研究には含まれないとされています。
さらに、完成品を販売するために行うマーケティング調査や消費者アンケートの収集も対象外です。
新商品の開発プロジェクト全体を一つの研究開発活動として処理するのではなく、その中に含まれる活動を分けて考える必要があります。
デザインや試作でも対象外になる場合がある
新製品の開発では、デザインや試作品の製作も行われます。
しかし、デザインや試作という言葉が付いていれば自動的に試験研究になるわけではありません。
資料では、性能向上を目的としないことが明らかな開発業務の一部として行われるデザインの考案や、そのデザインに基づいて行う設計または試作については試験研究に含まれないとされています。
つまり、見た目を変更するためのデザインと、性能を向上させるための技術的研究では扱いが異なる可能性があります。
何を作ったかだけではなく、何を目的として活動したのかを見る必要があります。
品質管理や製品検査も研究とは区別される
製造業では品質管理が非常に重要です。
完成した製品が一定の品質基準を満たしているかを検査したり、製造工程を管理したりします。
しかし、資料では、既存製品の品質管理、完成品の製品検査、環境管理についても試験研究に含まれない活動として挙げられています。
品質管理は企業にとって不可欠ですが、通常の生産活動を維持するための管理と、新たな知見を得るための試験研究は区別されます。
この違いを理解していないと、品質管理部門などの費用まで試験研究費として集計してしまう可能性があります。
量産化のための試作も対象外になることがある
試作品を作っているから研究開発だとは限りません。
資料では、生産方法や量産方法が技術的に確立している製品について、量産化するために行う試作は試験研究に含まれないとされています。
研究段階では、新たな技術的課題を解決するために試作を繰り返すことがあります。
一方、技術的な問題がすでに解決し、単に大量生産へ移行するために試作品を作っている場合があります。
同じ「試作」であっても、その目的によって扱いが変わるわけです。
ソフトウェア開発にも対象外となる活動がある
ソフトウェア開発でも、すべての作業が試験研究になるわけではありません。
資料では、製品マスター完成後の市場販売目的のソフトウェアについて、プログラムの機能上の障害を除去するなどの機能維持に係る活動は対象外とされています。
さらに、システム運用管理、ユーザードキュメントの作成、ユーザーサポート、ソフトウェアと明確に区分されるコンテンツ制作も試験研究には含まれないとされています。
ソフトウェア企業の場合、開発部門の費用をすべて一括して試験研究費と考えるのではなく、実際の業務内容によって区分することが重要になります。
研究開発プロジェクトの中でも費用を分ける必要がある
ここまでを見ると、研究開発税制の実務で重要になることが分かります。
一つの新製品開発プロジェクトの中には、研究開発税制の対象になる活動と対象にならない活動が混在している可能性があります。
技術的な実験を行う人もいれば、市場調査を担当する人もいます。
試作品の性能向上を研究する費用がある一方で、完成品の販売方法を調査する費用もあります。
これらをすべて「新製品開発費」としてまとめてしまうと、税務上の試験研究費を正確に把握できません。
だからこそ、研究内容、担当者、工数、外注内容などを日頃から整理しておくことが重要になります。
研究開発税制では、費用の金額だけではなく、その費用によって「何をしていたのか」が問われるのです。
結論
研究開発税制では、企業が研究開発の一環として行っている活動のすべてが試験研究になるわけではありません。
人文科学や社会科学に係る活動、単なる模倣を目的とするリバースエンジニアリング、事務処理の改善、マーケティング、販路開拓、品質管理、完成品の製品検査などは、資料では試験研究に含まれない活動として示されています。
さらに、試作やソフトウェア開発についても、目的や作業内容によって対象になるものと対象にならないものがあります。
重要なのは、「研究開発プロジェクトに使った費用か」だけで判断しないことです。
その活動が新たな知見を得るためのものなのか、利用可能な知見の新たな応用を考案するためのものなのかという実態を見る必要があります。
研究開発税制を適切に利用するためには、研究開発の対象になる活動と通常の事業活動を分け、それぞれの費用を管理することが重要です。
参考
第33回青山学院大学同窓祭公開講座 2026年9月23日 R&D税制とイノベーションボックス税制 会計プロフェッショナルによるイノベーション・コンサルテーション