監査証拠とは何か 経営者が問題ないと言うだけでは監査を終えられない理由編

会計
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企業の会計監査では、公認会計士が経営者や経理担当者にさまざまな質問をします。

しかし、会社側が「この会計処理に問題はありません」と説明しただけで監査が終わるわけではありません。

監査人は、その説明が本当に正しいのかを裏付ける情報を集める必要があります。

その情報が「監査証拠」です。

監査人がどのような証拠を集め、その証拠をどう評価するかは、監査の信頼性を左右します。

監査証拠とは何か

監査証拠とは、監査人が監査意見を形成するために利用する情報です。

監査人は企業が作成した財務諸表について、重要な虚偽表示がないかを検討します。

その判断を感覚や経験だけで行うことはできません。

帳簿、契約書、請求書、納品書、銀行の取引記録など、さまざまな情報を確認します。

さらに会社内部の資料だけではなく、銀行や取引先など外部から得られる情報を利用することもあります。

こうした証拠を積み重ねながら、財務諸表が適正に表示されているかを判断していきます。

証憑とは何か

企業の会計処理では「証憑」という言葉がよく使われます。

証憑とは、取引が実際に行われたことや、その内容を証明する書類などです。

例えば商品を販売した場合には、注文書、契約書、納品書、請求書などがあります。

銀行振込で代金を受け取れば、銀行口座の入金記録も確認できます。

経理担当者は、こうした証憑に基づいて会計処理を行います。

監査人も証憑を確認し、帳簿に記録されている取引が実際の取引内容と一致しているかを検討します。

ただし、会社内部で作成された書類が存在するだけで、必ず取引が正しいと判断できるわけではありません。

不正が行われていれば、内部資料そのものが操作されている可能性があるからです。

外部から得た証拠が重要になる

監査証拠の信頼性を考えるとき、証拠をどこから入手したのかが重要になります。

一般的には、会社内部だけで作成された情報より、独立した外部の第三者から直接入手した情報の方が信頼性が高くなる場合があります。

代表的な監査手続きが確認です。

例えば企業の帳簿に銀行預金が10億円あると記載されているとします。

会社が作った預金一覧表を見るだけではなく、金融機関から残高について回答を得る方法があります。

売掛金についても、取引先に残高を確認することがあります。

企業が示した数字と外部の第三者が示した数字を照合することで、より信頼性の高い監査証拠を得ることができます。

経営者の説明だけでは十分ではない

監査では経営者への質問も重要です。

経営者しか知り得ない情報もあるからです。

しかし、質問への回答だけで重要な会計判断を裏付けることはできません。

例えば、固定資産について減損する必要がないと経営者が説明したとします。

監査人は「経営者がそう言っているから問題ない」と判断するのではなく、その判断の根拠を確認します。

対象事業の売上高や利益、将来の事業計画、市場環境などを検討します。

必要に応じて、事業計画の前提と過去の実績を比較することもあります。

説明と客観的な証拠が一致して初めて、その説明の信頼性が高まります。

十分かつ適切な監査証拠が必要になる

監査では「十分かつ適切な監査証拠」という考え方が重要です。

十分という言葉は、主として証拠の量に関係します。

適切という言葉は、証拠の質に関係します。

証拠を大量に集めれば、それだけでよいわけではありません。

信頼性の低い資料を大量に集めても、重要な判断を裏付けられない可能性があります。

反対に、信頼性の高い外部証拠などが強い裏付けになる場合もあります。

監査人は監査リスクなどを考えながら、どの程度の量と質の証拠が必要なのかを判断します。

矛盾する証拠にも目を向ける

監査で注意しなければならないのが、自分の考えに合う証拠だけを集めてしまうことです。

例えば経営者が「来期には業績が大きく回復する」と説明しているとします。

その説明を支持する事業計画だけを確認して監査を終えれば、判断が一方向に偏る可能性があります。

販売数量が減少している、主要顧客との取引が縮小している、市場そのものが縮小しているといった情報があれば、それも検討する必要があります。

日本公認会計士協会が進めている不正に関する監査基準の改正案でも、経営者の主張を裏付ける監査証拠を入手するとともに、矛盾する証拠を除外する方向へ偏らないことが示されています。

監査人には、自分が期待する結論に都合のよい証拠だけを選ばない姿勢が求められます。

不正では証拠そのものが偽造されることがある

会計不正の監査が難しい理由の一つは、証拠そのものが操作される可能性があることです。

架空売上を計上するために、偽の契約書や請求書が作成される可能性があります。

複数の社員が共謀すれば、社内の承認記録まで整っているように見せることも考えられます。

そのため監査人は、書類が存在するという事実だけではなく、その書類が信頼できるのかも考える必要があります。

通常とは異なる取引や不自然な取引があれば、追加的な監査手続きが必要になる場合があります。

不正リスクが高いほど、監査証拠の信頼性を慎重に評価する必要があるのです。

十分な証拠が得られなければ監査意見にも影響する

監査証拠は、最終的な監査意見にも直結します。

監査人が必要と考える十分かつ適切な監査証拠を入手できなければ、通常どおりの適正意見を表明できない可能性があります。

問題の重要性や影響の広がりによっては、限定付適正意見や意見不表明などにつながることがあります。

つまり監査報告書に書かれている監査意見の背後には、監査人が集めた大量の監査証拠があります。

投資家が目にする監査意見は、その証拠を評価した結果として示されているのです。

投資家も証拠を意識して企業を見る

監査証拠という考え方は、個人投資家の企業分析にも応用できます。

例えば会社が「売上高が大きく伸びています」と説明しているなら、売上高だけを見るのではなく、営業キャッシュフローや売掛金の動きも確認できます。

「大型買収によって将来大きく成長する」と説明しているなら、買収後の利益やキャッシュフローが計画どおり推移しているかを見ることができます。

会社の説明を否定する必要はありません。

しかし、その説明を別の数字や情報から確認する習慣を持つことは重要です。

監査人が経営者の説明と監査証拠を照合するように、投資家も企業の説明と実際の数字を照らし合わせることで企業を見る精度を高めることができます。

結論

監査証拠とは、監査人が財務諸表について監査意見を形成するために利用する情報です。

契約書や請求書、納品書、銀行記録など、さまざまな情報が監査証拠になります。

重要なのは、証拠の量だけではありません。

その証拠がどれだけ信頼できるのかという質も重要です。

また、経営者の説明を支持する証拠だけを見るのではなく、それと矛盾する証拠にも目を向ける必要があります。

特に不正では、書類そのものが偽造されたり、複数の関係者が共謀したりする可能性があります。

だからこそ監査人には、十分かつ適切な監査証拠を集め、職業的懐疑心を持って評価することが求められます。

経営者が「問題ありません」と説明することは、監査の終わりではありません。

その説明を裏付ける証拠があるのかを確かめるところから、本当の監査が始まるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

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