上場企業で会計不正など重大な問題が発生すると、東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定されることがあります。
ニデックも2025年10月に特別注意銘柄に指定されました。
名前だけを見ると、投資家に注意を促すための制度のようにも思えます。しかし、単なる注意喚起ではありません。
上場企業として必要な内部管理体制に重大な問題があるものの、直ちに上場廃止とするのではなく、改善状況を確認するための制度です。
ニデックでは2026年10月末に内部管理体制に関する重要な期限を迎えます。
では、特別注意銘柄に指定されると企業には何が求められるのでしょうか。
上場企業には内部管理体制が求められる
株式市場では、多くの投資家が企業の公表する情報を基に投資判断を行います。
売上高はいくらなのか。
利益はいくらなのか。
資産や負債はいくらあるのか。
将来どのような事業を展開するのか。
こうした情報が正確に開示されることが市場の前提です。
そのため上場企業には、正確な財務情報や重要情報を作成し、適切に開示できる内部管理体制が求められます。
会計不正などによってその仕組みに重大な問題があると判断されれば、上場会社としての適格性が問われることになります。
特別注意銘柄は改善を求める制度
内部管理体制に問題があったからといって、すべての企業が直ちに上場廃止になるわけではありません。
問題はあるものの、改善する機会を与えることが適当な場合があります。
そこで使われるのが特別注意銘柄の制度です。
指定された企業には内部管理体制の改善が求められます。
つまり特別注意銘柄への指定は、問題が解決したことを意味するものではありません。
むしろ上場を継続するために、内部管理体制を立て直すことが求められている状態です。
何が問題だったのかを明らかにする
内部管理体制を改善するためには、まず不祥事の原因を明らかにする必要があります。
なぜ不適切な会計処理が行われたのか。
なぜ社内のチェックで発見できなかったのか。
経営陣は問題を把握していたのか。
内部監査は機能していたのか。
子会社管理に問題はなかったのか。
取締役会は十分に監督していたのか。
原因を特定しなければ、適切な再発防止策を作ることはできません。
そのため第三者委員会などによる調査結果も重要になります。
内部管理体制確認書が重要になる
特別注意銘柄に指定された企業では、その後の内部管理体制の改善状況が審査されます。
ニデックの場合、2026年10月末に東証への内部管理体制確認書の提出期限を迎えます。
ここで重要なのは、単に「改善しました」と会社が説明すればよいわけではないということです。
どのような問題があったのか。
どのような改善策を実施したのか。
組織や権限をどう変更したのか。
内部監査をどう強化したのか。
改善策が実際に機能しているのか。
こうした内容が問われます。
東証は「整備」と「運用」を見る
内部管理体制の審査を理解するうえで重要なのが、「整備」と「運用」です。
整備とは、必要な仕組みが作られていることです。
例えば重要な会計処理について複数の承認を必要とする。
子会社から本社への報告制度を作る。
内部監査部門を強化する。
監査法人への情報提供体制を整える。
こうした制度を作ることが整備です。
一方の運用は、その制度が実際に機能していることを意味します。
規程が存在するだけでは十分ではありません。
整備できてもすぐ解除されるとは限らない
新しい内部統制制度を作ることは、比較的短期間でも可能です。
しかし、その制度が実際に機能しているかを確認するには時間が必要です。
例えば新しい承認制度を導入したとします。
制度を作った翌日には、規程自体は存在しています。
しかし、その制度によって不適切な取引を防止できることが確認されたわけではありません。
一定期間運用して初めて、実効性を評価できます。
そのため内部管理体制の整備が確認されても、運用状況を継続して確認する必要が生じることがあります。
制度上は指定が長期化する場合もある
特別注意銘柄は、指定から一定期間が経過しただけで自動的に解除される制度ではありません。
内部管理体制の改善状況によって、その後の扱いが変わります。
体制が整備され、適切に運用されていることが確認されれば、指定解除につながります。
一方、体制は整備されていても運用実績が十分でなければ、指定を継続しながら確認が続く場合があります。
ニデックを巡る報道では、制度上は最大3年間指定が継続する可能性があるとされています。
重要なのは期間そのものではなく、内部管理体制が本当に改善されたかどうかです。
改善が困難なら上場廃止の問題になる
より重大なのが、内部管理体制そのものが十分に整備されていない場合です。
さらに、今後速やかに整備することも難しいと判断されれば、上場維持の問題につながります。
ニデックの場合には、監査法人による意見不表明も続いています。
2025年3月期有価証券報告書、2025年4月から9月期の半期報告書、2026年3月期有価証券報告書と3回連続です。
内部管理体制の審査と監査意見は別の仕組みですが、財務報告の信頼性という点では密接に関係しています。
監査法人が十分な監査証拠を得られない状態が続けば、内部管理体制の改善状況を見るうえでも重要な材料になります。
特別注意銘柄と監理銘柄は違う
混同しやすいのが「特別注意銘柄」と「監理銘柄」です。
特別注意銘柄は、内部管理体制に問題があり、その改善状況を確認する必要がある企業です。
これに対して監理銘柄は、上場廃止基準に該当する可能性がある場合などに指定されます。
つまり意味が違います。
特別注意銘柄だから上場廃止が決まったわけではありません。
しかし内部管理体制を改善できなければ、上場廃止につながる段階へ進む可能性があります。
この違いを理解しておくことが重要です。
整理銘柄とも違う
さらに「整理銘柄」という制度もあります。
整理銘柄は、上場廃止が決定した銘柄について、投資家が売買する期間を確保するための仕組みです。
大まかに整理すると、特別注意銘柄は内部管理体制の改善を求められている段階です。
監理銘柄は上場廃止の可能性について確認が行われている段階です。
整理銘柄は上場廃止が決定した後の段階です。
名称が似ていますが、それぞれ意味が異なります。
指定解除には会社の説明だけでは足りない
企業が再発防止策を発表すると、問題が解決したように見えることがあります。
しかし特別注意銘柄の審査で重要なのは、発表内容だけではありません。
経営陣を交代した。
新しい規程を作った。
内部監査の人員を増やした。
コンプライアンス研修を実施した。
これらは改善策として意味があります。
しかし実際に機能しているかが重要です。
監査法人へ正確な情報が提供されるようになったのか。
不適切な会計処理をチェックできるようになったのか。
子会社から正確な情報が上がるようになったのか。
取締役会が経営陣を監督できるようになったのか。
実効性まで問われます。
東芝にも長期間指定された事例がある
過去には東芝が2015年、当時の制度である特設注意市場銘柄に指定されました。
その後、内部管理体制の改善を進め、約2年後に指定が解除されました。
この事例からも、企業統治の改善には一定の時間が必要になることが分かります。
新しい制度を作るだけではなく、その制度を運用し、実際に問題を防止できる状態になったことを示す必要があるからです。
ニデックでも、今後どのような制度を導入するかだけでなく、それを継続して機能させられるかが重要になります。
投資家は指定された理由を見る
特別注意銘柄という名称だけを見て判断するのではなく、なぜ指定されたのかを確認することが重要です。
会計不正なのか。
情報開示の問題なのか。
子会社管理なのか。
経営トップの関与なのか。
内部監査の問題なのか。
原因によって改善に必要な対応は変わります。
さらに指定後の会社の対応も確認します。
経営体制はどう変わったのか。
再発防止策は実施されたのか。
監査法人の意見は改善したのか。
内部管理体制の審査はどうなったのか。
時間の経過とともに確認する必要があります。
結論
特別注意銘柄とは、単に投資家へ注意を促すための名称ではありません。
上場企業として必要な内部管理体制に重大な問題があり、その改善状況を確認する必要がある企業に対する重要な制度です。
指定された時点で上場廃止が決まっているわけではありません。
一方で、内部管理体制を十分に改善できなければ、上場維持そのものが問題になる可能性があります。
特に重要なのが、内部統制の整備と運用です。
新しい規程を作るだけでは足りません。
その規程が実際に機能し、正確な財務情報を継続して作成できることを示す必要があります。
ニデックにとっても、2026年10月末に向けて重要なのは、再発防止策を並べることだけではありません。
監査法人が必要な監査証拠を取得でき、内部管理体制が実際に機能する会社へ変わったことをどこまで示せるかです。
特別注意銘柄への指定は、上場廃止の決定ではありません。
しかし上場会社としての内部管理体制を改めて問われる重要な局面なのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック監査、再び不表明 前期有報 上場維持厳しさ増す 最終赤字5646億円」
日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック統治、再構築急ぐ PwC『適切な監査証拠入手できず』 東証報告、月末に迫る」