会社が保有している工場や店舗などの固定資産は、事業環境の悪化などによって、当初期待していた収益を生み出せなくなることがあります。
このような場合、会計では固定資産の帳簿価額を引き下げ、その減少額を減損損失として計上することがあります。
ところが、会計上で減損損失を計上したからといって、税務上も同じ金額をその事業年度の損金にできるとは限りません。
その結果、会計上の固定資産の帳簿価額と税務上の帳簿価額にズレが生じることがあります。
今回の参考記事では、税効果会計について、企業会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に一時差異がある場合、その差異に係る法人税等を適切な会計期間に配分する手続きだと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
減損損失も、この「会計と税務のズレ」から税効果会計を理解できる代表的なケースです。
減損損失とは何か
会社は工場や店舗、機械などの固定資産を購入すると、通常はその取得価額を一度に費用にするのではなく、減価償却などによって使用期間にわたって費用化していきます。
しかし、固定資産が当初想定していたほどの収益を生み出せなくなることがあります。
たとえば、店舗の売上が大幅に落ち込んで赤字が続いているケースや、工場の生産量が減少して設備の利用価値が低下しているケースなどです。
このような場合、一定の要件に該当すると、会計上は固定資産の帳簿価額を回収可能な金額まで引き下げます。
その際に計上される損失が減損損失です。
減損損失を計上すると、その事業年度の会計上の利益は減少します。
会計で損失になっても税務では扱いが異なる
問題は、会計で減損損失を計上したときに、税務でも同じ金額が直ちに損金になるとは限らないことです。
会計と税務では、固定資産の価値が低下した場合の取り扱いが必ずしも一致しないためです。
その結果、会計上の固定資産の帳簿価額だけが先に小さくなり、税務上の帳簿価額との差が生じることがあります。
ここが税効果会計を考える出発点になります。
参考記事でも、会計上費用として計上する時期と税務上損金として認められる時期が異なる場合があり、その時期の違いによる税金への影響を適切な事業年度に配分する考え方が示されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
帳簿価額の違いから一時差異が生まれる
たとえば、ある固定資産の減損前の帳簿価額が5000万円だったとします。
会社が会計上2000万円の減損損失を計上すれば、会計上の帳簿価額は3000万円になります。
一方、税務上その減損損失が損金として認められず、税務上の帳簿価額が5000万円のままだったとします。
すると、
会計上の帳簿価額は3000万円
税務上の帳簿価額は5000万円
となり、2000万円の差が生じます。
この差が将来解消する性質のものであれば、税効果会計の対象となる一時差異として考えることになります。
参考記事では、税効果会計はこうした企業会計上と課税所得計算上の資産または負債の額の一時差異について、税金への影響を配分する仕組みと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
将来税務上の費用になれば税負担を減らせる
では、会計上の減損損失が現在の税務上の損金にならなかった場合、その税務上の効果は永久になくなるのでしょうか。
将来、その固定資産について税務上認められる減価償却や売却、除却などが行われることによって、会計と税務の帳簿価額の差が解消していく場合があります。
つまり、会計ではすでに損失を認識している一方で、税務では将来になってから課税所得を減少させる効果が現れるわけです。
このような差異は、将来の課税所得を減らす方向に働きます。
そのため、一定の要件を満たす場合には、その税金への影響を繰延税金資産として認識します。
繰延税金資産はいくらになるのか
先ほどの例で考えてみます。
会計上の減損によって生じた一時差異が2000万円だったとします。
仮に税効果を計算する税率を30パーセントとすると、
2000万円掛ける30パーセント
で600万円になります。
一定の要件を満たして繰延税金資産を認識する場合、600万円が将来の税負担を軽減する効果として計上されることになります。
基本的な関係は、
繰延税金資産600万円
法人税等調整額600万円
となります。
参考記事の貸倒引当金のケースでも、貸倒引当金繰入限度超過額300千円に40パーセントの法定実効税率を掛けた120千円を繰延税金資産として計上しています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
対象となる勘定科目は違いますが、一時差異に税率を掛けて税金への影響を認識するという基本的な考え方は共通しています。
法人税等調整額によって税金費用を対応させる
減損損失を計上すると、その事業年度の会計上の利益は減少します。
しかし、その減損損失が税務上すぐに損金にならなければ、実際の課税所得は会計上の利益ほど減少しません。
そこで税効果会計によって、将来の税負担軽減効果を現在の決算にも反映させます。
参考記事では、繰延税金資産を計上するときには法人税等調整額を貸方に計上して税金費用を減額し、取り崩すときには法人税等調整額を借方に計上して税金費用を増額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
法人税等調整額を使うことで、会計上の利益と税金費用を合理的に対応させるわけです。
減損したから必ず繰延税金資産を計上できるわけではない
ここで注意したいのが、繰延税金資産の回収可能性です。
将来減算一時差異が生じたからといって、その税効果を無条件で資産として計上できるわけではありません。
将来十分な課税所得が発生しなければ、課税所得を減らす効果を利用できない可能性があるためです。
特に減損損失が発生する会社では、対象となる事業や資産の収益性が低下している場合があります。
大きな減損損失が発生している状況では、将来の利益見通しについても慎重に考える必要があります。
したがって、減損損失によって将来減算一時差異が生じても、それに対応する繰延税金資産をどこまで認識できるかは別に検討する必要があります。
引当金とは違い資産そのものの金額がずれる
これまで取り上げた貸倒引当金や賞与引当金などでは、会計上先に費用や負債を認識し、税務上の損金算入が後になるという形で税効果会計を考えてきました。
減損損失では、固定資産そのものの帳簿価額に会計と税務の違いが生じるところが特徴です。
しかし基本となる考え方は変わりません。
会計と税務で金額に差が生じる
その差が将来解消する
差が解消するときに税金への影響が生じる
その影響を現在の決算にも反映する
という流れです。
参考記事で説明されている「会計上の利益と税金費用を合理的に対応させる」という税効果会計の考え方を、固定資産まで広げたものと考えると理解しやすくなります。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
結論
減損損失とは、収益性が低下した固定資産について、一定の場合に会計上の帳簿価額を引き下げることで計上される損失です。
会計上で減損損失を計上すると固定資産の帳簿価額は減少しますが、税務上同じ金額が直ちに損金として認められるとは限りません。
その結果、会計上の固定資産の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差が生じることがあります。
その差が将来解消し、将来の課税所得を減少させる性質を持つ場合には、一定の要件のもとで繰延税金資産を認識します。
そして法人税等調整額を使って、その税金への影響を適切な会計期間に配分します。
貸倒引当金などでは「費用になる時期のズレ」に注目しましたが、減損損失では「資産の帳簿価額のズレ」に注目すると、税効果会計の仕組みがより立体的に理解できるようになります。
参考
企業実務 2026年9月 なるほど納得勘定科目 会計上の利益と税金の費用を対応させるには