会社が従業員に将来支払う退職金は、実際に退職金を支払った年度に突然すべての費用が発生すると考えるのではなく、従業員が働いている期間に対応させて会計上の費用を認識していきます。
そのために関係するのが退職給付に関する会計処理です。
ところが、会計上で退職給付に関する費用を認識しても、税務上は同じタイミングで損金として認められるとは限りません。
その結果、会計上の費用と税務上の損金の認識時期にズレが生じます。
今回の参考記事では、税効果会計について、会計上の資産または負債の額と税務上の資産または負債の額に一時差異がある場合、その差異に係る法人税等を適切な会計期間に配分する手続きだと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
退職給付に関する会計処理も、この考え方を理解するうえで重要なケースです。
退職給付引当金とは何か
企業が退職金制度を設けている場合、従業員が退職したときに一定の退職金を支払うことがあります。
しかし、その退職金は退職した年度だけの労働に対する対価ではありません。
たとえば30年間勤務した従業員に退職金を支払うのであれば、その退職金は長期間にわたる勤務によって形成されてきたものと考えられます。
そこで会計では、将来支払う退職給付に関する負担を、従業員が勤務している期間に対応させて費用として認識していきます。
その結果、貸借対照表に退職給付引当金などの負債が計上されることがあります。
実際に退職金を支払う時期よりも前から、会計上の費用や負債が認識されることがポイントです。
会計と税務では費用になる時期が違う
ここで問題になるのが税務との違いです。
会計では、将来支払う退職給付に関する負担を現在の費用として認識することがあります。
一方、税務上は、会計で費用を認識したという理由だけで、その金額が同じ事業年度の損金として認められるとは限りません。
つまり、
会計では費用を認識している
税務ではまだ損金になっていない
という状態が生じます。
参考記事の貸倒引当金でも、会計上の費用として計上する時期と、税務上損金として認められる時期が異なる場合があることが説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
退職給付についても、同じように会計と税務の認識時期の違いから考えると分かりやすくなります。
将来損金になることで税負担が軽くなる
会計上の退職給付に関する費用が現在の税務上の損金にならなかったとしても、税金への影響が永久になくなるとは限りません。
将来、実際に退職金を支払うなどして税務上の損金算入要件を満たせば、その時点で損金になることがあります。
つまり、
現在は税務上損金にならない
将来は税務上損金になる
という時間的なズレが生じます。
将来損金になれば、その事業年度の課税所得を減らす方向に働きます。
その結果、将来の法人税等の負担を軽減する効果が期待できます。
このように将来の課税所得を減らす方向に働く一時差異が、将来減算一時差異です。
繰延税金資産を計上する理由
簡単な例で考えてみます。
会計上、退職給付に関係する負債として1000万円を認識している一方、その1000万円が税務上まだ損金になっていないとします。
仮に税効果を計算する税率を30パーセントとすると、
1000万円掛ける30パーセント
で300万円となります。
将来、この1000万円が税務上損金になれば、それによって将来の税負担を減らす効果が生じます。
一定の要件を満たしていれば、この税負担軽減効果を繰延税金資産として認識することになります。
参考記事でも、将来損金として認められることによって税負担が軽くなると見込まれる金額を繰延税金資産として計上する考え方が示されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
法人税等調整額で税金費用を調整する
繰延税金資産を計上するときには、法人税等調整額が関係します。
参考記事では、繰延税金資産を計上するときには法人税等調整額を貸方に計上し、税金費用を減額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
たとえば300万円の繰延税金資産を計上するのであれば、基本的な関係は、
繰延税金資産300万円
法人税等調整額300万円
となります。
これによって、会計上すでに認識した費用に対応する将来の税負担軽減効果を現在の決算にも反映させます。
実際に税務署へ支払う法人税を300万円減らしているわけではありません。
税金費用を適切な会計期間に配分しているのです。
将来損金になると繰延税金資産を取り崩す
その後、従業員が退職して退職金が支払われるなど、一時差異が解消すれば、計上していた繰延税金資産も取り崩していきます。
参考記事では、繰延税金資産を取り崩す場合には法人税等調整額を借方に計上し、税金費用を増額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
つまり、繰延税金資産は将来の節税効果を永久に資産として残しているわけではありません。
会計と税務のタイミングのズレが存在している間だけ、その税金への影響を貸借対照表に反映していると考えると分かりやすいでしょう。
将来税金が減るからといって必ず資産にできるわけではない
もう一つ重要なのが、繰延税金資産の回収可能性です。
将来損金になる金額が存在していても、将来十分な課税所得がなければ、その損金によって税金を減らす効果を十分に利用できない可能性があります。
たとえば、将来にわたって大幅な赤字が続く会社では、損金が増えても、そもそも課税所得がなければ法人税等を減らす効果がありません。
そのため、将来減算一時差異が存在することと、その全額について繰延税金資産を計上できることは同じではありません。
退職給付に関する負債は金額が大きくなることもあるため、その税効果を考える際には将来の課税所得などを踏まえて繰延税金資産を認識できるかを判断することが重要になります。
貸倒引当金や賞与引当金と基本構造は同じ
今回の参考記事の貸倒引当金と、前回取り上げた賞与引当金、そして今回の退職給付に関する負債には共通する考え方があります。
会計では先に費用を認識する
税務ではすぐに損金にならない
将来損金になることで課税所得が減る
将来の税負担を軽減する効果が生じる
一定の要件を満たせば繰延税金資産を認識する
という流れです。
参考記事では、こうした会計と税務の時期の違いによる税金への影響を適切な事業年度に配分することが税効果会計の役割として説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
個々の勘定科目は違っても、「会計と税務でいつ費用になるのか」を確認することが税効果会計を理解する基本になります。
結論
退職給付に関する会計処理では、将来支払う退職金などの負担について、従業員が働いている期間に対応させて会計上の費用を認識していきます。
しかし、会計上で費用を認識しても、税務上同じ時期に損金になるとは限りません。
そのため、会計ではすでに費用になっているのに、税務ではまだ損金になっていないという一時的なズレが生じることがあります。
将来、その金額が税務上損金になれば課税所得が減少し、税負担を軽減する効果が生じます。
一定の要件を満たす場合、この将来の税負担軽減効果を繰延税金資産として認識し、法人税等調整額によって税金費用を適切な会計期間に配分します。
貸倒引当金、賞与引当金、退職給付に関する負債を並べて考えると、税効果会計は複雑な仕訳を覚える制度というより、会計と税務のタイミングの違いを税金にも反映させる仕組みだと理解しやすくなります。
参考
企業実務 2026年9月 なるほど納得勘定科目 会計上の利益と税金の費用を対応させるには