株主が株主総会に議題や議案を提出できる株主提案権には、一定の要件があります。
現行の会社法では、取締役会設置会社について、原則として総株主の議決権の1パーセント以上、または300個以上の議決権を一定期間保有することなどが要件となります。
ここで注目したいのが300個以上という基準です。
会社全体の1パーセントに満たない株主でも、300個以上の議決権を持っていれば株主提案権を行使できる場合があります。
そのため、時価総額が大きい上場企業では300個要件が個人株主にとって重要な意味を持ちます。
一方、この300個要件によって持株比率が極めて小さい株主でも提案できることが、現在進められている会社法改正の大きな論点になっています。
そもそも300個とは何を数えているのでしょうか。
そして、なぜ300個という基準が設けられているのでしょうか。
300個とは何か
300個とは、株式が300株あるという意味ではありません。
数えているのは議決権です。
議決権とは、株主総会で議案について賛成や反対の意思を示す権利です。
上場会社では100株を1単元としているケースが一般的です。
100株を1単元とする会社では、原則として1単元につき1個の議決権があります。
この場合、
100株なら1個
1000株なら10個
1万株なら100個
3万株なら300個
という関係になります。
したがって、100株を1単元とする会社で300個の議決権を持つためには、基本的には3万株が必要になります。
300個要件を理解するときには、300株ではなく300個の議決権であることが重要です。
1パーセント要件との違いは何か
株主提案権には、議決権割合による基準もあります。
原則として総株主の議決権の1パーセント以上を持つ株主です。
300個要件との最大の違いは、会社全体に占める割合を見るのか、それとも議決権の絶対数を見るのかという点です。
1パーセント要件は会社全体に対する割合です。
会社の議決権数が増えれば、必要となる議決権数も増えます。
一方、300個要件は絶対数です。
会社全体の議決権が10万個でも100万個でも、基準そのものは300個です。
この違いが、大企業における株主提案で重要になります。
会社が大きいほど300個の割合は小さくなる
たとえば総株主の議決権が3万個の会社を考えてみます。
300個の議決権を持っていれば、会社全体の1パーセントです。
この場合、1パーセント要件と300個要件は同じ水準になります。
ところが総株主の議決権が30万個ならどうでしょうか。
300個は0.1パーセントです。
総株主の議決権が300万個なら、300個は0.01パーセントです。
会社の規模が大きくなり、総議決権数が増えるほど、300個が会社全体に占める割合は小さくなります。
そのため大企業では、持株比率が1パーセントを大きく下回る株主でも300個要件によって株主提案ができる場合があります。
いよぎんホールディングスでは約0.01パーセントだった
今回の会社法改正を巡る議論を象徴する事例の一つが、2026年6月のいよぎんホールディングスの定時株主総会です。
個人株主が会社の社名を変更する株主提案を行いました。
提案した株主が保有していた議決権は302個でした。
会社全体に占める割合は約0.01パーセントです。
1パーセント要件だけで考えれば、株主提案を行うための水準には大きく届きません。
しかし300個以上という要件を満たしていたため、株主提案が可能になりました。
最終的な賛成率は0.9パーセント未満でした。
この事例を見ると、300個要件が少数株主に大きな発言機会を与えていることが分かります。
同時に、会社全体から見れば極めて小さな持株比率の株主による提案に、会社や他の株主がどこまで対応する必要があるのかという問題も浮かび上がります。
なぜ300個という基準が作られたのか
現在につながる株主提案制度の要件は、1981年の旧商法改正で導入されました。
当時は総会屋が社会問題となっていた時代です。
一方で、一般株主が株主総会で十分に発言できないという問題もありました。
そこで一般株主にも会社経営について問題を提起する機会を与え、株主総会を健全化する狙いがありました。
1パーセントという割合だけを基準にすると、大企業では非常に多くの株式を取得しなければ株主提案ができません。
そのため議決権割合とは別に、一定数の議決権を持っていれば提案できる仕組みが設けられました。
300個要件は、資金力の小さい少数株主にも株主総会で問題提起する機会を確保する役割を持っているのです。
40年以上で株式市場は大きく変わった
問題は、300個という基準が作られてから40年以上が経過していることです。
その間に日本の株式市場は大きく変化しました。
株式分割などによって投資単位を引き下げる企業が増えました。
個人投資家が上場株式を購入しやすい環境も整ってきました。
東京証券取引所の試算によると、1981年当時の上場企業の投資単位は約41万円でした。
これに対して直近では約28万円まで低下しています。
つまり、同じ300個という基準でも、それを満たすための経済的なハードルは制度導入当時より低くなっています。
東証の試算では、1981年当時に300個要件を満たすために必要だった投資額は、現在の投資単位で考えると441個分に相当するとされています。
そこで300個という数字を40年以上たった現在も維持することが適切なのかという議論が出ています。
300個要件には少数株主を守る役割がある
300個要件を単純に株主提案をしやすくする制度と考えるだけでは、その意味を十分に理解できません。
重要なのは、少数株主を保護する機能です。
大企業では1パーセントの議決権を取得するために巨額の資金が必要になります。
時価総額が1兆円規模の会社なら、単純な市場価値で考えると1パーセントは100億円規模になります。
一般の個人投資家が取得できる金額ではありません。
もし1パーセント要件しかなければ、大企業に対する株主提案権は大株主や巨額の資金を運用する機関投資家などに事実上限定される可能性があります。
300個要件は、それほど大きな資金を持たない株主にも会社へ問題を提起する入口を残しています。
一方で会社には対応コストが発生する
株主提案は、会社に提出すれば終わりではありません。
会社側は提案内容を精査します。
会社法上適法な提案なのかを確認します。
取締役会として賛成するのか反対するのかを検討します。
社外取締役などへの説明も必要になります。
株主総会資料への記載も行います。
しかも、これらを限られた期間で処理しなければなりません。
提案内容に問題があると考えても、会社が簡単に株主総会から排除できるとは限りません。
不適法として取り扱えば、株主との間で訴訟になる可能性もあります。
そのため一見すると実現可能性が低い提案でも、会社側は慎重に検討する必要があります。
300個要件によって提案の入口を広くすることは、会社側の対応コストと表裏一体なのです。
他の株主にもコストがかかる
負担するのは会社だけではありません。
株主提案が株主総会の議案になれば、他の株主もその内容を確認して賛成か反対かを判断する必要があります。
特に機関投資家は、議決権行使について一定の方針を定め、一つ一つの議案を検討しています。
株主提案が増えれば、提案した株主以外の株主にも判断のためのコストが生じます。
したがって株主提案権の問題は、
提案する株主
対
会社
だけの問題ではありません。
株主総会に参加する他の株主も含めて考える必要があります。
300個要件を廃止する案がある
こうした背景から、現在進められている会社法改正では300個要件の見直しが検討されています。
2026年3月に法制審議会会社法制部会がまとめた中間試案では、大きく二つの方向性が示されました。
一つは、議決権数による要件そのものを廃止する考え方です。
つまり300個以上という絶対数の基準をなくす方向です。
もう一つは、議決権数による基準は残しながら、300個より多い一定数へ引き上げる考え方です。
300個をなくすのか。
それとも300個というハードルを高くするのか。
この違いは少数株主の発言機会に大きく影響します。
廃止すれば乱用的な提案は減るのか
300個要件を廃止すれば、持株比率が非常に小さい株主による提案は減る可能性があります。
会社側の事務負担も軽減されるかもしれません。
しかし、それだけで問題が解決するとは限りません。
株主提案が可決されなかったからといって、必ずしも無意味な提案とはいえないからです。
株主提案をきっかけに会社と株主の対話が始まることがあります。
資本政策や企業統治について経営陣が問題を認識する場合もあります。
提案自体は否決されても、一定割合の株主が賛成すれば経営陣へのメッセージになります。
300個要件を厳しくすれば乱用的な提案を抑えられる一方、こうした建設的な問題提起まで減らしてしまう可能性があります。
問題は300という数字だけではない
今回の会社法改正では、300を400にするのか500にするのかといった数字だけが問題なのではありません。
より根本的には、どの程度の株式を持つ株主に会社全体へ問題を提起する権利を認めるべきなのかが問われています。
持株比率が小さくても重要な問題を発見する株主はいます。
一方、持株比率が極めて小さい株主による提案でも、会社や他の株主には対応コストが発生します。
少数株主の権利を守ることと、株主総会を効率的に運営すること。
300個要件は、この二つをどこでバランスさせるのかという問題なのです。
結論
株主提案権の300個要件とは、原則として300個以上の議決権を一定期間保有する株主に、株主提案権を認めるための基準です。
300個とは300株という意味ではありません。
100株を1単元とする会社であれば、原則として3万株で300個の議決権になります。
300個要件の大きな特徴は、会社全体に占める持株比率が1パーセント未満でも株主提案ができる場合があることです。
そのため大企業でも個人株主などの少数株主が会社へ問題を提起するための重要な入口になっています。
一方、制度が導入された1981年から40年以上が経過し、株式の投資単位は低下しました。
その結果、300個という要件を満たす経済的なハードルも相対的に低くなっています。
実現可能性の低い提案への対応が会社や他の株主の負担になるという問題もあります。
そこで現在の会社法改正では、300個要件を廃止する案や、必要な議決権数を引き上げる案が検討されています。
300個要件をどうするのかという問題は、単なる数字の見直しではありません。
少数株主が会社経営に意見を示す機会をどこまで保障し、そのために会社や他の株主がどこまでコストを負担するのかという、株式会社における株主の権利そのものに関わる問題なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 株主提案、要件見直しで火花
日本経済新聞 2026年8月31日 朝刊 業務執行の提案巡り議論