東京23区で新築戸建て住宅の価格上昇が続いています。
不動産調査会社の東京カンテイによると、2026年7月の東京23区における新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格は9321万円となりました。前月比では0.6%の上昇ですが、前年同月比では14.6%、金額にすると1184万円もの上昇です。
平均価格が9000万円台となるのは3カ月連続です。
東京の住宅価格高騰というと、これまでは「億ション」に代表されるマンション市場が注目されてきました。しかし、マンション価格があまりにも上昇した結果、相対的に割安に見える戸建てへ購入需要が移り始めています。
東京の住宅市場では「マンションか戸建てか」という住宅選びの前提そのものが変わりつつあります。
マンションより戸建ての価格上昇は緩やかだった
現在の住宅価格を理解するうえで興味深いのが、マンションと戸建ての価格上昇率の違いです。
東京カンテイが2015年1月から3月期を100として価格を指数化したところ、2026年4月から6月期には、新築戸建てが173となりました。
これに対して、新築マンションは207、中古マンションは263です。
つまり2015年ごろと比較すると、戸建ても大幅に値上がりしていますが、マンション、とりわけ中古マンションの価格上昇はさらに大きかったことになります。
住宅購入者からすると、戸建てが安くなったわけではありません。
マンションがそれ以上に高くなったため、戸建てが相対的に安く見えるようになったのです。
この「相対的な割安感」が現在の戸建て需要を考える重要なポイントです。
なぜマンション価格は戸建て以上に上昇したのか
マンションと戸建てでは需要構造が異なります。
東京のマンションには、自分で住む実需だけではなく、投資目的の資金も入ります。
国内の富裕層だけでなく、投資家や海外マネーなど幅広い購入主体が存在するため、好立地の物件では価格が上昇しやすくなります。
一方、戸建ては基本的に自分や家族が住むために購入する実需が中心です。
そのため、購入者の所得や住宅ローンの借入可能額から大きく離れて価格が上昇することには限界があります。
マンション価格が上昇すればするほど、「同じ予算なら戸建てのほうが広い」という判断をする人が増えることになります。
戸建ての成約件数は大幅に増えている
こうした変化は実際の取引にも表れています。
東日本不動産流通機構によると、東京23区における新築戸建ての2025年度の成約件数は1809件となり、前年度比75.5%増加しました。
かなり大きな増加です。
マンションを探していた購入者が価格の高さから戸建てへ移っている可能性があります。
特に子育て世帯にとって、同じ9000万円を使うのであれば、マンションより広い戸建てを選びたいという判断は十分考えられます。
マンション価格の高騰が、結果として戸建て市場を押し上げる構造になっているのです。
戸建ては管理費や修繕積立金がない
戸建てを選ぶ理由は購入価格だけではありません。
マンションでは購入後も管理費や修繕積立金が必要です。
さらに自動車を所有する場合には駐車場代がかかることがあります。
住宅ローンを完済したとしても、こうした支払いは基本的に続きます。
戸建ての場合、マンションのような管理費や修繕積立金はありません。
もちろん、戸建ても外壁や屋根、給湯設備などの修繕費を自分で準備する必要があります。
したがって「戸建てなら修繕費が不要」というわけではありません。
重要なのは住宅価格だけではなく、購入後の維持費まで含めた総額で比較することです。
戸建てにも建築費上昇の波が押し寄せている
一方で、戸建て価格そのものも上昇しています。
背景にあるのが建築コストの上昇です。
木材や住宅設備などの資材価格に加えて、建設現場の人件費も上昇しています。
住宅メーカーにとって、以前と同じ価格で住宅を販売すれば利益を確保しにくくなります。
そこで採算を確保しやすい好立地に絞り、高価格帯の住宅を供給する動きが出ています。
これが戸建ての平均価格をさらに押し上げています。
つまり現在の戸建て価格上昇には、
マンションから戸建てへの需要移動と、建築コスト上昇による供給価格の上昇という二つの力が働いているのです。
東京では億戸建ても珍しくなくなる
2026年7月には、東京23区のうち10区で新築戸建ての平均希望売り出し価格が1億円を超えました。
特に目黒区、世田谷区、文京区などは、交通利便性や教育環境を重視するファミリー世帯から人気があります。
こうした地域では土地価格そのものが高いうえ、建築費も上昇しています。
マンション市場ではすでに1億円を超える「億ション」という言葉が一般化しました。
今後は戸建て市場でも「億戸建て」が珍しくなくなる可能性があります。
住宅価格1億円という水準が、一部の超高級住宅だけの話ではなくなってきています。
9000万円の住宅ローンは家計への負担も大きい
ただし、戸建てに割安感があるからといって、9321万円という価格そのものが安いわけではありません。
仮に9000万円を35年間、金利2%で借りた場合、元利均等返済の毎月返済額はおおむね30万円程度になります。
年間では約360万円です。
さらに固定資産税や火災保険、将来の修繕費なども必要になります。
金利が上昇すれば負担はさらに大きくなります。
したがって住宅購入では、「マンションより安いから買える」と考えるのではなく、自分の所得に対して無理のない価格なのかを判断することが重要です。
相対的に割安であることと、家計にとって割安であることは別問題です。
価格上昇は東京23区から郊外へ広がる
住宅価格上昇は東京23区だけの問題ではなくなりつつあります。
2026年7月の新築戸建て平均希望売り出し価格は、東京23区以外で5476万円、横浜市で5542万円、川崎市で6096万円、相模原市で4676万円、千葉市で4419万円となりました。
特に横浜市は前月比5.1%、川崎市は4.8%上昇しています。
東京23区で住宅を購入できなくなった世帯が、鉄道などの交通利便性が高い周辺地域へ移れば、郊外の住宅需要も増えます。
これは不動産市場でよくみられる価格上昇の波及です。
都心の価格上昇が周辺地域へ需要を押し出し、その結果、周辺地域の価格も上昇します。
「東京23区を諦めれば安く買える」という選択肢も、徐々に難しくなる可能性があります。
住宅選びは物件価格から総居住コストの比較へ
これから住宅を購入する人にとって重要になるのは、マンションと戸建てを単純な販売価格だけで比較しないことです。
マンションには管理費、修繕積立金、駐車場代などがあります。
戸建てには将来の屋根や外壁、設備更新などの修繕費があります。
さらに固定資産税、住宅ローン金利、火災保険、通勤時間、売却時の資産価値なども考える必要があります。
たとえばマンションの価格が1億円、戸建てが9000万円だったとしても、それだけで戸建てのほうが1000万円得だとは判断できません。
住宅を保有する期間全体で、いくら支払うことになるのか。
これからの住宅購入では「物件価格」ではなく「総居住コスト」で考える視点がますます重要になるでしょう。
結論
東京23区の新築戸建て平均希望売り出し価格は2026年7月に9321万円となり、9000万円台が3カ月連続となりました。
しかし、この動きを単純に「戸建ても高くなった」と見るだけでは住宅市場の変化を十分に理解できません。
重要なのは、マンション価格がそれ以上の速度で上昇した結果、戸建てに相対的な割安感が生まれていることです。
マンションから戸建てへ需要が移り、その需要増加と建築費上昇が戸建て価格を押し上げています。
そして東京23区の価格上昇は横浜、川崎、千葉など周辺地域へ波及する可能性があります。
これまで東京の住宅市場を象徴してきたのは「億ション」でした。
これからは「億戸建て」も決して特別な存在ではなくなるのかもしれません。
住宅購入者に求められるのは、マンションか戸建てかという二者択一だけではありません。
購入価格、住宅ローン金利、維持費、修繕費、立地、広さ、そして将来の売却価値まで含めて、自分の家計にとって本当に合理的な住宅は何かを考えることです。
マンション高騰によって戸建てが割安に見える時代だからこそ、「相対的に安い」と「本当に買える」を分けて考える必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「新築戸建て9000万円台続く 7月東京23区 マンション高騰で需要増」