持株会社の株価評価で見落としやすい現物出資等受入差額

税理士
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非上場株式の相続税評価では、会社の資産内容によって評価方法が変わることがあります。

特に、子会社株式を多額に保有する持株会社では、株式等保有特定会社に該当するかどうかが重要になります。

このような会社では、純資産価額方式による評価が問題になる場合があります。

その際、含み益に対応する法人税額等相当額を控除する仕組みがありますが、過去に株式交換などの組織再編を実施している場合には注意が必要です。

今回は、適格株式交換によって取得した子会社株式の評価に関する失敗事例を解説します。

5年前に株式交換を実施した会社の事例

父親は、A社とB社という2つの株式会社の株式を100%保有していました。

5年前、A社を完全親会社、B社を完全子会社とする株式交換を実施しました。

この株式交換は、税務上の適格要件を満たしていました。

B社株式への当初の出資額は1,000万円でした。

一方、株式交換を実施した時点でのB社株式の相続税評価額は3億円でした。

その後、B社の企業価値は大きく上昇しました。

5年後の相続開始時には、B社株式の相続税評価額が13億円になっていました。

父親の相続が発生し、A社株式を評価することになりましたが、A社は株式等保有特定会社に該当していました。

このため、A社が保有するB社株式について、純資産価額方式による評価が必要になりました。

誤った法人税額等相当額の計算

研修資料では、担当者がB社株式の相続税評価額13億円から、当初の出資額1,000万円を差し引いて評価差額を計算した事例が示されています。

2026年4月1日以後の評価に適用される38%を用いると、計算は次のようになります。

13億円から1,000万円を差し引くと、12億9,000万円です。

これに38%を乗じると、法人税額等相当額は4億9,020万円となります。

しかし、この計算では、過去に実施した適格株式交換の影響を十分に反映していませんでした。

その結果、控除すべき法人税額等相当額を過大に計算していました。

現物出資等受入差額とは何か

財産評価基本通達186の2では、純資産価額方式における評価差額に対する法人税額等相当額について規定しています。

この通達では、現物出資、合併、株式交換、株式移転、株式交付によって著しく低い価額で受け入れた一定の資産について、特別な調整を行うこととされています。

その調整に用いるのが、現物出資等受入差額です。

適格株式交換では、法人税法上、資産の帳簿価額が引き継がれる場合があります。

そのため、取得時点の税務上の帳簿価額と、その時点における相続税評価額との間に大きな差が生じることがあります。

現物出資等受入差額の調整では、一定の要件の下で、組織再編時点の相続税評価額と帳簿価額との差額を考慮します。

今回の事例では、株式交換時点のB社株式の相続税評価額が3億円であったことが重要です。

正しい評価差額の考え方

今回の事例では、B社株式の当初の出資額は1,000万円でした。

株式交換時点の相続税評価額は3億円です。

したがって、当該事例における現物出資等受入差額は、3億円から1,000万円を差し引いた2億9,000万円となります。

この差額を、通達に従って帳簿価額に加算して評価差額を計算します。

つまり、法人税額等相当額の計算上は、3億円を基準とすることになります。

相続開始時点のB社株式の評価額は13億円です。

したがって、評価差額は13億円から3億円を差し引いた10億円です。

これに38%を乗じると、法人税額等相当額は3億8,000万円となります。

これが今回の事例における正しい考え方です。

評価額に1億1,020万円の差が生じる

誤った計算では、法人税額等相当額を4億9,020万円としていました。

一方、現物出資等受入差額を考慮した計算では、3億8,000万円となります。

両者の差額は1億1,020万円です。

したがって、この事例では、誤った計算によって法人税額等相当額の控除額を1億1,020万円過大に算定していたことになります。

これは、持株会社株式の評価額を過少にする方向に作用します。

ただし、実際のA社株式の最終評価額は、ほかの資産や負債、発行済株式数、評価方法などによって異なります。

法人税額等相当額の差額が、そのまま相続税額の差額になるわけではありません。

なぜ38%を用いるのか

法人税額等相当額の計算に用いる割合についても注意が必要です。

2026年3月25日の財産評価基本通達の改正では、取引相場のない株式の純資産価額方式における法人税額等相当額の割合が、37%から38%に改正されました。

これは、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用される防衛特別法人税の創設を踏まえたものです。

改正後の割合は、2026年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した取引相場のない株式の評価に適用されます。

今回の事例では、相続開始時期がこの改正後であるため、38%を用いることになります。

株価評価では、評価時点に適用される通達を確認する必要があります。

過去の計算書をそのまま使うことには注意が必要です。

組織再編の履歴を調べることが重要

持株会社の株価評価では、相続開始時点の貸借対照表だけで判断してはいけません。

過去にどのような組織再編が行われたかを確認することが重要です。

例えば、株式交換、株式移転、合併、現物出資、株式交付などの履歴です。

これらの取引が実施されている場合には、組織再編時点の株価評価資料、税務上の帳簿価額、適格要件の判定資料などを確認する必要があります。

特に、組織再編から長期間が経過している場合には、当時の資料が残っていないことがあります。

しかし、過去の相続税評価額が現在の株価評価に影響する場合には、その資料が極めて重要になります。

会社の組織再編を実施した段階から、将来の事業承継や相続税評価を意識した資料保存が必要です。

株価対策としての組織再編には慎重さが必要

今回の事例では、適格株式交換によって生じた評価上の調整が、持株会社株式の評価に影響しました。

ただし、株式交換をすれば必ず自社株評価額を引き下げられるという意味ではありません。

会社の資産構成、組織再編時点の評価額、適格要件、評価方法などによって結果は異なります。

また、組織再編には法人税、会社法、会計処理、株主間の権利関係など、さまざまな論点があります。

相続税評価への影響だけを目的として組織再編を実施することは、慎重に判断すべきです。

本来は、事業上の合理性や経営体制の整備を踏まえ、その税務上の影響を適切に検討することが重要です。

結論

持株会社の非上場株式評価では、相続開始時点の資産価額と帳簿価額を単純に比較するだけでは、正しい評価差額を算定できない場合があります。

今回の事例では、5年前の適格株式交換によって取得したB社株式について、現物出資等受入差額の調整を失念していました。

その結果、法人税額等相当額を1億1,020万円過大に計算していました。

正しい評価を行うためには、過去の組織再編の履歴を確認し、財産評価基本通達186の2に基づいて計算する必要があります。

さらに、2026年4月1日以後の評価では、法人税額等相当額の割合が38%となったことにも注意が必要です。

非上場株式の評価では、現在の決算書だけでなく、過去の企業再編や税務処理の履歴まで確認することが重要です。

参考

東京税理士会 2026年度第15回会員研修会資料 相続税申告における失敗事例から学ぶ対応法 2026年度版 82ページから90ページ

財産評価基本通達185

財産評価基本通達186の2

国税庁 2026年3月30日 財産評価基本通達の一部改正について 通達のあらましについて

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