税務職員には、税法を知っているだけでは対応できない仕事があります。
企業会計を読み解く。
複雑な取引の実態を調べる。
相続財産を確認する。
国際的な取引を分析する。
納税者からの相談に対応する。
税制が複雑になり、経済取引も高度化するほど、税務職員に求められる専門性は高くなります。
こうした税務職員の人材育成を担っているのが税務大学校です。
国税庁の2027年度機構要求を見ると、税務大学校についても組織体制の見直しが要求されています。
税務行政を支えるのは人数だけではありません。
職員をどのように育成するかも重要なのです。
税務大学校とは何か
税務大学校は、国税庁の職員に必要な教育や研修などを行う機関です。
税務行政では、所得税、法人税、消費税、相続税など幅広い税目を扱います。
さらに徴収、税務調査、国際課税など、業務によって必要となる知識も異なります。
職員がこうした専門知識を身につけるためには、体系的な研修が必要です。
税務大学校は税務職員の専門能力を育成する重要な基盤となっています。
税法を覚えるだけでは足りない
税務職員の仕事は、法律の条文をそのまま当てはめれば終わるものばかりではありません。
例えば法人に対する税務調査では、決算書や帳簿を確認する必要があります。
売上が正しく計上されているか。
経費に事業と関係のないものが含まれていないか。
資産の取得や売却がどのように処理されているか。
取引の実態と会計処理が一致しているか。
こうしたことを確認するためには、税法だけでなく会計についての知識も必要です。
税務行政では法律と会計の両方を理解する専門性が求められます。
会計専門官の新設が要求されている
2027年度の機構要求では、税務大学校に会計専門官を新設することが求められています。
税務行政と会計は密接な関係があります。
特に法人税では、企業が作成した決算を基礎として税務上必要な調整を行います。
企業の取引が複雑になれば、会計処理も複雑になります。
税務職員が適正な課税を行うためには、企業会計についての専門知識が欠かせません。
会計専門官の新設要求からも、人材育成において会計分野の専門性が重要になっていることが分かります。
税務大学校の施設整備も必要になる
税務大学校では、人材だけでなく研修環境の整備も必要です。
今回の要求では、和光校舎の大規模改修や東京研修所の建て替えに対応するため、会計専門官の新設が求められています。
職員を継続的に育成するためには、研修を行う場所や設備を維持する必要があります。
税務行政というと税務署の窓口や税務調査に目が向きやすいですが、その仕事を支える研修施設も行政基盤の一つです。
組織の名称変更にも意味がある
税務大学校では、組織上の役職についても見直しが要求されています。
総務課の課長補佐を企画調整官へ変更することが求められています。
また、教務課の課長補佐を教務専門官へ変更する要求もあります。
単なる名称変更に見えるかもしれません。
しかし、専門的な役割を明確にすることは、組織の中で誰がどの機能を担うのかを分かりやすくすることにつながります。
税務大学校そのものの企画や教育機能を強化していく動きとして見ることができます。
税制改正が続けば研修も必要になる
税務職員が一度知識を身につければ、それで終わりというわけではありません。
税制は毎年のように改正されます。
新しい制度が導入されれば、税務職員自身がその内容を理解する必要があります。
制度の対象者は誰なのか。
どの時点から適用されるのか。
経過措置はどうなっているのか。
申告や調査ではどのように取り扱うのか。
こうした実務を全国で統一的に運用するためにも研修が必要です。
税制改正が続く限り、税務職員の学び直しも続くことになります。
租税回避の複雑化も専門性を高める
国税庁は2027年度に租税回避対策を強化する方針を示しています。
租税回避スキームへの対応として57人の増員を要求し、新たに租税回避対策企画官の設置も求めています。
複数の法人や契約、金融商品などを組み合わせた取引を分析するには、高度な専門知識が必要です。
税法だけを見ていても取引全体を理解できないことがあります。
会計。
金融。
企業取引。
国際取引。
こうした周辺分野の知識も必要になります。
税務行政が複雑になるほど、職員教育の重要性も高まります。
デジタル化でも人材育成は不要にならない
税務行政ではデジタル化も進んでいます。
大量の申告データを分析し、調査対象を効率的に選ぶことができれば、税務行政の生産性を高めることができます。
しかし、データが示した異常をどう解釈するかは別の問題です。
なぜこの数字が通常と違うのか。
単なる特殊事情なのか。
申告誤りなのか。
それとも意図的な不正なのか。
最終的には取引内容や事実関係を確認して判断する必要があります。
デジタル化が進むほど、職員にはデータを使いこなす能力と専門的な判断能力の両方が求められるようになります。
増員だけでは税務行政を強化できない
国税庁は2027年度に730人の増員を要求しています。
定員合理化552人を差し引くと、純増要求は178人です。
しかし、単純に職員数を増やすだけでは税務行政の能力が高まるとは限りません。
新しく採用した職員を育成する。
既存の職員に新しい税制を学んでもらう。
高度な専門分野を担当できる人材を育てる。
管理職や専門官を育成する。
こうした長期的な人材育成が必要です。
税務大学校は、国税庁の定員政策と人材政策をつなぐ存在ともいえます。
税務行政は知識を蓄積する組織
税務行政には長年の経験によって蓄積される知識があります。
帳簿を見るポイント。
取引実態を確認する方法。
納税者への説明方法。
複雑な税法を実務へ適用する方法。
こうした知識の中には、マニュアルだけでは十分に伝えにくいものもあります。
経験のある職員から次の世代へ知識を引き継ぐことも、人材育成の重要な役割です。
税務大学校による研修は、個人の能力を高めるだけでなく、国税組織として専門知識を継承する意味も持っています。
結論
税務行政を支えているのは、税法やシステムだけではありません。
それを実際の取引へ適用する税務職員の専門性が必要です。
企業会計を読み解く。
複雑な取引を分析する。
税制改正へ対応する。
租税回避スキームを調べる。
データを活用して調査する。
こうした仕事を担うためには、継続的な人材育成が欠かせません。
2027年度の機構要求では、税務大学校に会計専門官を新設することや、企画調整官、教務専門官への役職見直しが求められています。
税務行政の高度化を考えるとき、職員を何人増やすのかだけを見ていては十分ではありません。
その職員をどのように育て、専門知識を組織として蓄積していくのか。
税務大学校は、そのための重要な役割を担っているのです。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 国税庁の9年度予算概算要求と定員・機構要求、租税回避対策企画官の新設を