賃上げ促進税制とは何か 給料を上げると法人税が安くなる仕組み編

税理士
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企業が従業員の給料を増やすと、法人税が安くなる制度があります。

賃上げ促進税制です。

政府が企業に直接お金を渡すのではなく、賃上げした企業の税負担を軽くすることで、企業に給与を増やしてもらおうという仕組みです。

特に人手不足が深刻な中小企業では、人材を確保するために賃上げせざるを得ない企業も増えています。

一方で、税金を安くしなくても企業は賃上げするのではないかという指摘もあります。

租税特別措置を見直す議論でも大きな焦点となっている賃上げ促進税制について、その仕組みを見ていきます。

賃上げ促進税制とは何か

賃上げ促進税制とは、企業が従業員に支払う給与を一定以上増やした場合、その増加額の一部を法人税から差し引くことができる制度です。

例えば前年に従業員へ1億円の給与を支払っていた会社があるとします。

今年の給与総額が1億300万円になれば、給与は300万円増えています。

一定の要件を満たしていれば、この給与増加額をもとに計算した金額を法人税から控除できます。

つまり、

賃上げする

給与総額が増える

一定の要件を満たす

法人税の税額控除を受ける

という流れです。

企業にとって賃上げは人件費の増加になりますが、その一部を税負担の軽減によって支援する制度と考えると分かりやすいでしょう。

給料を上げれば必ず使えるわけではない

重要なのは、従業員一人の給料を少し上げただけで自動的に税金が安くなるわけではないことです。

制度では、一定の給与等支給額について前年度と比較してどの程度増加したかを判定します。

中小企業向けの制度では、給与等支給額の増加割合が一定水準以上になっていることが基本的な条件になります。

単純化すると、

今年の給与等支給額から前年の給与等支給額を差し引く

その増加額を前年の給与等支給額で割る

ことで賃上げ率を求めます。

例えば前年の給与等支給額が1億円で、今年が1億150万円なら150万円増えています。

増加率は1.5%です。

このように会社全体の給与支給額などを基準として判定するのが特徴です。

中小企業では1.5%以上の増加が一つの基準

中小企業向け賃上げ促進税制では、給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加することが基本的な適用要件となっています。

例えば前年の給与等支給額が1億円だった会社の場合、1.5%は150万円です。

今年の給与等支給額が1億150万円以上になれば、基本となる賃上げ要件を満たすことになります。

さらに賃上げ率が高くなれば、税額控除率も高くなる仕組みになっています。

つまり政府は、

少し賃上げした企業

大きく賃上げした企業

を同じように扱うのではなく、より積極的に賃上げした企業ほど税制上のメリットを大きくする設計にしています。

税額控除とは何か

賃上げ促進税制を理解するときに重要なのが税額控除です。

税額控除とは、計算された法人税額から一定額を直接差し引く仕組みです。

例えば通常の計算による法人税額が500万円だったとします。

賃上げ促進税制による税額控除額が100万円なら、

500万円から100万円を差し引いて400万円

という考え方になります。

100万円分だけ課税所得を減らすという意味ではありません。

最終的に計算された税額そのものから100万円を差し引きます。

そのため税額控除は企業にとって比較的分かりやすい税制上のメリットになります。

賃上げ額がそのまま法人税から引かれるわけではない

ここは誤解しやすいところです。

給与を1000万円増やしたからといって、法人税が1000万円安くなるわけではありません。

給与等の増加額に一定の税額控除率を掛けて、控除額を計算します。

例えば単純化して、

給与増加額500万円

税額控除率15%

だったとします。

500万円に15%を掛けると75万円です。

この75万円が法人税から控除されるという考え方になります。

したがって企業が負担した賃上げ費用を国がすべて税金で補填する制度ではありません。

あくまで賃上げによる人件費増加の一部を税制面から支援する仕組みです。

中小企業ほど手厚い制度になっている

賃上げ促進税制には企業規模による違いがあります。

政府はこれまで、大企業、中堅企業、中小企業について異なる仕組みを設けてきました。

なかでも中小企業向けについては、比較的低い賃上げ率から制度を利用できるようにするなど、手厚い仕組みが設けられてきました。

理由の一つが中小企業の賃上げ余力です。

大企業は利益や内部留保が大きく、自社の経営判断によって賃上げできる企業も多くあります。

一方、中小企業では原材料費や電気代、人件費などが上昇しても、それを販売価格に十分転嫁できない場合があります。

利益が増えていなくても、人材を確保するために給与を引き上げなければならない企業もあります。

こうした企業の賃上げを税制で支援する考え方です。

人手不足による防衛的賃上げもある

最近の中小企業の賃上げを考えるうえでは、防衛的賃上げという言葉も重要です。

業績が大幅に改善したから給与を上げるのではなく、従業員が辞めることを防いだり、新しい人材を採用したりするために給与を上げることです。

例えば周辺企業の時給が上昇しているのに自社だけ給与を据え置けば、人材が他社へ流れる可能性があります。

そこで利益に余裕がなくても賃上げします。

中小企業では、このような人材獲得競争への対応として賃上げしている企業もあります。

2026年度税制改正でも政府はこうした事情に配慮し、中小企業向け賃上げ促進税制については現行制度を維持しました。

大企業向け制度は廃止された

一方、大企業については政策の方向が変わっています。

2026年度税制改正では、大企業向けの賃上げ促進税制が2026年3月31日をもって廃止されました。

大企業では賃上げが広がっていることなどから、税制によって賃上げを促す必要性が以前より低下したと判断されたためです。

中堅企業向けについても要件を厳しくしたうえで、2027年3月31日の適用期限をもって廃止する方向です。

これに対して中小企業向けについては制度を維持しています。

つまり賃上げ促進税制は、

すべての企業の賃上げを広く支援する制度

から、

自力での賃上げが難しい中小企業を重点的に支援する制度

へと性格が変わりつつあります。

税制がなければ賃上げしなかったのかという問題

一方で、この制度には難しい問題があります。

企業が賃上げ促進税制を利用して法人税を減らしたとしても、その会社が税制優遇を理由に賃上げしたとは限らないからです。

例えば深刻な人手不足に直面している会社なら、税制がなくても給与を上げた可能性があります。

物価上昇を受けて労使交渉によって賃上げする会社もあります。

こうした企業まで税額控除を受ければ、

税制が企業の行動を変えたのか

単に賃上げした企業の税金を後から安くしただけなのか

という問題が生じます。

賃上げ促進税制を巡る議論では、税収を減らした金額に見合うだけの追加的な賃上げが生まれたのかを検証することが重要になります。

結論

賃上げ促進税制とは、企業が従業員への給与支給額を一定以上増やした場合、その増加額の一部を法人税から直接差し引くことができる制度です。

中小企業向けでは、給与等支給額が前年度から1.5%以上増加することが基本的な要件となり、賃上げの程度などによって税額控除を受けられる仕組みになっています。

特に中小企業では、人手不足による防衛的な賃上げを迫られている企業も多いため、税制による支援が維持されています。

一方、大企業向けの制度は2026年3月末で廃止されました。

今後の大きな論点は、税制優遇が本当に追加的な賃上げを生み出しているのかという政策効果です。

企業の賃上げを後押しする制度として見るだけでなく、税収を減らしてまで支援する必要があるのかという視点からも、賃上げ促進税制を見る必要があります。

参考

日本経済新聞 2026年8月23日 朝刊 維新が税優遇廃止案 賃上げ税制やサ高住 政府・自民と調整難しく

財務省 2025年12月26日 令和8年度税制改正の大綱

財務省 2026年4月 令和8年度税制改正について

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