事業承継税制では贈与者が筆頭株主でなくても適用できる

税理士
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中小企業の事業承継では、後継者に自社株を移転する際の贈与税や相続税が大きな問題になります。

特に、業績が好調で内部留保が厚い会社では、自社株の相続税評価額が高くなり、後継者が多額の税負担を抱える可能性があります。

この問題への対応策の一つが、法人版事業承継税制です。

一定の要件を満たせば、非上場株式に係る贈与税や相続税について納税猶予を受けられる制度ですが、適用要件は複雑です。

今回は、贈与者が後継者よりも少ない株式を保有していたため、制度を適用できないと誤って判断した事例を解説します。

父親より子どもの持株数が多かった事例

ある非上場会社では、父親が代表取締役を務めていました。

株主構成は、父親が350株、後継者となる子どもが450株、父親の妹が150株、取引先が50株でした。

発行株式数は合計1,000株です。

持株比率に換算すると、父親35%、後継者45%、父親の妹15%、取引先5%となります。

父親は、自分が保有する株式を後継者へ贈与し、法人版事業承継税制の特例措置を適用することを検討していました。

しかし、相談を受けた税理士は、父親が筆頭株主ではないことを理由に、贈与者の要件を満たさないと判断しました。

確かに、単純に株式数を比較すれば、後継者が450株で第1位、父親が350株で第2位です。

ところが、この判断は正しくありませんでした。

同族筆頭要件では後継者を除外する

法人版事業承継税制の特例措置では、贈与者について一定の要件が設けられています。

その一つが、いわゆる同族筆頭要件です。

租税特別措置法施行令第40条の8の5第1項第1号ロでは、贈与者が有する議決権数について、特別の関係がある者のうち、一定の者が有する議決権数を下回らないことが求められています。

ただし、この比較では、特例経営承継受贈者となる後継者を除外することとされています。

今回の事例では、子どもが特例経営承継受贈者に該当するため、贈与者である父親の筆頭要件を判定する際には、子どもの450株を比較対象から除外します。

その結果、父親の350株は、父親の妹が保有する150株を上回ります。

したがって、少なくともこの同族筆頭要件については、父親が要件を満たすことになります。

実際の株主順位だけで制度の適用可否を判断してはいけないのです。

同族過半数要件との違い

事業承継税制では、同族筆頭要件に加えて、同族過半数要件も確認する必要があります。

これは、贈与者本人と特別の関係がある者の議決権数の合計が、総株主等議決権数の50%を超えていることを求めるものです。

今回の事例では、父親350株、子ども450株、父親の妹150株を合計すると950株です。

議決権数が株式数と一致するものとすれば、同族関係者の議決権割合は95%となります。

したがって、同族過半数要件についても満たしていると考えられます。

ただし、ここで注意したいのは、過半数要件と筆頭要件では比較方法が異なることです。

過半数要件では、本人と一定の関係者の議決権を合計します。

一方、筆頭要件では、一定の比較対象者の中で本人の議決権数が下回っていないかを確認します。

両者を同じように考えると、制度の適用判定を誤る可能性があります。

株式数ではなく議決権数で判断する

今回の事例では、便宜上、株式数と議決権数が一致するものとして説明しています。

しかし、実際の会社では、すべての株式について同じ議決権が認められているとは限りません。

例えば、議決権制限株式や無議決権株式を発行している会社では、株式の保有割合と議決権の保有割合が異なることがあります。

また、自己株式についても議決権の取扱いが異なります。

そのため、事業承継税制の判定では、株主名簿だけでなく、定款や種類株式の内容などを確認する必要があります。

単純に発行済株式数に対する割合を計算するだけでは、正確な判定ができない場合があります。

親族以外の法人も判定対象となる

研修資料では、同族関係者の範囲について、さらに複雑な事例が紹介されています。

例えば、父親、母親、長男のほかに、親族が関係する別会社が株式を保有している場合です。

このような場合には、法人そのものが特別の関係がある者に該当するかどうかを確認する必要があります。

租税特別措置法施行令第40条の8第11項では、親族や一定の関係者に加えて、一定の議決権支配関係にある会社も特別の関係がある者として規定されています。

したがって、株主名簿に法人が記載されている場合には、その法人の株主構成まで確認することが必要になる場合があります。

特に、複数の会社を通じて間接的に株式を保有している場合には、議決権の支配関係が複雑になります。

要件を満たさない場合の対応策

研修資料では、特別の関係がある法人の存在によって、同族筆頭要件を満たせない場合の対応策も紹介されています。

一つは、議決権のない種類株式への変更です。

もう一つは、株式交換によって企業グループの資本関係を変更する方法です。

ただし、これらは単に株式の名義を変更すればよいという問題ではありません。

会社法上の手続き、株主間の権利調整、法人税や贈与税の課税関係、適格組織再編の要件などを検討する必要があります。

さらに、事業承継税制そのものにも、会社、後継者、贈与者、贈与対象株式などについて複数の要件があります。

そのため、議決権構成の変更を実施する前に、税理士だけでなく、必要に応じて弁護士などの専門家と連携することが望まれます。

事業承継税制は適用後の管理も重要

法人版事業承継税制の納税猶予は、要件を満たして株式を贈与すれば、それで終わる制度ではありません。

適用後も、一定の届出や報告、株式の保有、会社の状況などについて継続的な管理が必要となります。

一定の事由が生じた場合には、猶予されていた税額の納付が必要になることがあります。

したがって、制度の適用を検討する際には、当初の税負担だけでなく、後継者が将来にわたって要件を管理できるかどうかを考える必要があります。

制度の適用期限や提出期限についても、適用時点の最新の法令を確認することが重要です。

結論

法人版事業承継税制では、贈与者が実際の筆頭株主でなければ適用できないとは限りません。

今回の事例では、父親よりも後継者である子どもの持株数が多かったものの、贈与者の同族筆頭要件を判定する際には、特例経営承継受贈者を除外する必要がありました。

その結果、父親は同族筆頭要件を満たすことになりました。

事業承継税制では、同族過半数要件と同族筆頭要件を分けて確認することが重要です。

さらに、株式数ではなく議決権数を基準に判断し、親族や関係法人の範囲も正確に把握する必要があります。

事業承継税制の失敗を防ぐためには、制度の名称や一般的な説明だけでなく、条文に規定された判定方法を一つずつ確認することが欠かせません。

参考

東京税理士会 2026年度第15回会員研修会資料 相続税申告における失敗事例から学ぶ対応法 2026年度版 65ページから81ページ

租税特別措置法第70条の7の5

租税特別措置法施行令第40条の8の5

租税特別措置法施行令第40条の8

国税庁 2025年7月7日 資産課税課情報第9号 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例措置等に関する質疑応答事例について

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