小規模宅地等の特例は建物の所有者だけで判断してはいけない

税理士
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相続税の申告において、小規模宅地等の特例は税額に大きな影響を与える重要な制度です。

被相続人が住んでいた自宅の敷地について、一定の要件を満たせば330㎡まで相続税評価額を80%減額できます。

例えば、相続税評価額が1億円の自宅敷地であれば、特例の適用によって課税価格に算入する金額を2,000万円に引き下げることができます。

ところが、土地の所有者と建物の所有者が異なる場合、適用できるはずの特例を見落としてしまうことがあります。

今回は、2026年度の税理士研修資料に紹介された失敗事例を参考に、土地と建物の所有関係、使用貸借、居住実態という3つの観点から、特例の正しい判断方法を解説します。

長男名義の建物に父母が住んでいた事例

ある家族の相続を考えてみます。

父親は土地を所有していましたが、その土地の上に建っている住宅は長男の所有でした。

長男は父親とは生計を別にしており、土地については父親から無償で借りていました。

一方、その住宅には父親と母親が居住していました。

父母も長男から建物を無償で借りていたため、土地と建物の双方が使用貸借の関係にありました。

その後、父親が亡くなり、母親が土地を相続しました。

相続税申告を依頼された税理士は、建物が被相続人ではなく、生計を別にする長男の所有であったことから、小規模宅地等の特例は適用できないと判断しました。

しかし、この判断には問題がありました。

実際には、土地と建物の使用関係を確認すれば、特定居住用宅地等に該当する可能性があったのです。

建物の名義だけを見て結論を出したことが、失敗の原因でした。

小規模宅地等の特例の基本的な仕組み

小規模宅地等の特例は、租税特別措置法第69条の4に規定されています。

相続によって自宅や事業用の土地を取得した場合、一定の要件を満たすことで、その土地の相続税評価額を減額できる制度です。

特定居住用宅地等については、330㎡を限度として評価額の80%を減額できます。

この制度の重要な目的は、相続税の負担によって相続人の生活基盤が失われることを防ぐことにあります。

自宅の土地は、現金や有価証券と異なり、相続税を納めるために簡単に処分できるとは限りません。

そのため、一定の居住実態がある土地について、税負担を軽減する仕組みが設けられています。

ここで注意したいのは、土地と建物の所有者が必ずしも同一人物である必要はないということです。

制度の対象となるのは、あくまで被相続人等の居住の用に供されていた宅地等です。

したがって、建物の所有名義だけでなく、その建物が誰の生活の本拠として利用されていたかを確認する必要があります。

土地と建物が使用貸借であることの重要性

今回の事例では、父親が土地を所有し、長男が住宅を所有していました。

この場合、土地と建物の間には2つの貸借関係があります。

第1は、父親から長男への土地の使用貸借です。

長男は父親に地代を支払わず、土地を借りて住宅を所有していました。

第2は、長男から父母への建物の使用貸借です。

父母は長男に家賃を支払わず、住宅を借りて生活していました。

この2つの使用貸借が、特例の適用を判断する重要な要素になります。

租税特別措置法関係通達69の4の7では、被相続人の親族が所有する建物について、一定の使用貸借関係がある場合、その敷地が被相続人等の居住用宅地等に該当することを示しています。

つまり、建物が長男名義であることだけを理由として、特例の適用を否定することはできません。

むしろ、土地の貸借関係、建物の貸借関係、実際の居住状況を総合的に確認することが必要なのです。

配偶者が土地を相続する場合の特徴

今回の事例では、土地を相続したのは被相続人の配偶者である母親でした。

ここにも重要なポイントがあります。

特定居住用宅地等を被相続人の配偶者が取得する場合、取得者について、申告期限までの継続居住や継続保有という要件は設けられていません。

これは、同居していた子などが土地を取得する場合とは異なる取扱いです。

例えば、同居していた子が土地を取得する場合には、原則として相続開始時から申告期限まで土地を保有し、所定の期間、建物に継続して居住する必要があります。

一方、配偶者が取得する場合には、そのような取得者固有の継続要件はありません。

ただし、配偶者であれば、どのような土地でも無条件で80%減額できるわけではありません。

まず、その土地が被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当することが前提となります。

今回のように、建物が親族の所有である場合には、使用貸借の関係などを丁寧に確認しなければなりません。

建物の名義だけで判断した場合の税額への影響

仮に、今回の土地の相続税評価額が8,000万円、面積が250㎡だったとします。

ほかの要件を満たし、土地全体について特定居住用宅地等の適用が認められる場合、評価額は次のようになります。

特例適用前の評価額は8,000万円です。

80%の減額額は6,400万円です。

したがって、特例適用後に課税価格へ算入する金額は1,600万円となります。

特例を適用しなければ、8,000万円全額が課税価格の計算に反映されます。

つまり、課税価格に6,400万円もの差が生じることになります。

もっとも、実際の相続税額への影響は、他の相続財産、法定相続人の数、配偶者の税額軽減などによって異なります。

評価額の減額が、そのまま同額の税金の減少を意味するわけではありません。

それでも、適用判定の誤りが相続税負担に大きな影響を及ぼすことは明らかです。

使用貸借と賃貸借を混同してはいけない

実務上、特に注意したいのが使用貸借と賃貸借の違いです。

使用貸借は、無償で物を使用する契約です。

親の土地に子が無償で住宅を建てる場合や、子の住宅に親が無償で住む場合などが典型的です。

一方、賃貸借は、原則として賃料を支払って物を使用する契約です。

親族間であっても、地代や家賃の支払状況によって、税務上の判断が変わる場合があります。

土地の賃貸借が成立している場合には、土地の利用関係や権利の評価も含めて検討する必要があります。

また、実際には金銭の授受があるのに、親族間だからという理由だけで使用貸借と判断することも避けなければなりません。

契約書の有無だけでなく、預金口座の入出金、過去の申告状況、固定資産税の負担関係なども確認することが望まれます。

ただし、固定資産税相当額の負担などについては、支払の実態に応じた個別判断が必要です。

単に金銭の支払があるという事実だけで、直ちに賃貸借と断定できるものではありません。

相続開始前に確認しておきたいこと

このような失敗を防ぐためには、相続が発生する前から不動産の所有関係と利用関係を整理しておくことが重要です。

例えば、父親名義の土地に長男名義の建物がある場合、土地と建物の登記事項証明書を取得することで、それぞれの所有者を確認できます。

さらに、実際に誰が建物に住んでいるかを確認します。

住民票上の住所だけでなく、日常生活の状況、生活用品の所在、家族の居住実態なども重要な判断材料です。

そのうえで、土地の貸借条件と建物の貸借条件を確認します。

特に、親族間の貸借は契約書を作成していないことも多いため、実態を説明できる資料を整理しておく必要があります。

相続税の特例は、相続が発生してから初めて検討するのではなく、生前から適用可能性を確認しておくことが望ましい制度です。

税理士に求められる判断の順序

今回の失敗事例は、相続税申告における確認の順序の重要性を示しています。

最初に土地の所有者を確認します。

次に建物の所有者を確認します。

その後、建物の利用者と居住実態を確認します。

さらに、土地と建物それぞれの貸借関係を確認し、最後に土地を取得する相続人の要件を判定します。

この順序を守ることで、建物の名義だけを理由に特例の適用を否定する危険を減らすことができます。

税務実務では、所有者と利用者が異なること自体が問題なのではありません。

重要なのは、誰が所有し、誰が利用し、どのような法律関係の下で生活していたのかという事実関係です。

小規模宅地等の特例を正しく判断するためには、形式と実態の双方を確認する姿勢が欠かせません。

結論

小規模宅地等の特例は、建物の所有者が被相続人と異なるという理由だけで適用できなくなる制度ではありません。

今回の事例では、父親が土地を所有し、生計を別にする長男が建物を所有していましたが、土地と建物がいずれも使用貸借であり、父母が実際に居住していたことが重要な判断材料となりました。

さらに、土地を取得したのが配偶者であったことも、特例の判定において重要です。

相続税申告では、土地の名義、建物の名義、居住実態、使用貸借、取得者の要件をそれぞれ分けて確認する必要があります。

形式的な所有関係だけで結論を出すのではなく、制度の趣旨と法令通達に立ち返って判断することが、相続税申告の失敗を防ぐ基本となります。

参考

東京税理士会 2026年度第15回会員研修会資料 相続税申告における失敗事例から学ぶ対応法 2026年度版 2ページから14ページ

租税特別措置法第69条の4

租税特別措置法関係通達69の4の7

国税庁 小規模宅地等の特例の対象となる被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の判定

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