外貨投資をしていると、保有しているドルを円に戻さず、そのまま別の外国通貨へ交換することがあります。
例えばドルからポンドへ交換するケースです。
円を受け取っていないため、「まだ利益を確定していないから税金もかからない」と考えたくなるかもしれません。
しかし、税務上はそうとは限りません。
ドルを別の外貨へ交換した時点で、それまでドルに生じていた為替差益が実現したと考えられ、課税対象になる場合があります。
ドルからポンドへの交換とは何か
例えば、1ドル100円のときに100万円をドルへ交換したとします。
為替手数料を考えなければ1万ドルを取得できます。
その後、円安が進んで1ドル160円になったとします。
この時点で1万ドルの円換算価値は160万円です。
ここでドルを円へ戻さず、すべてポンドへ交換したとします。
本人の感覚では、ドルがポンドに変わっただけです。
日本円は1円も受け取っていません。
それでも税務上は、100万円相当で取得したドルを160万円相当の価値で別の資産に交換したと考えることができます。
単純化すれば、ドルを保有している間に生じた60万円の為替差益が実現したことになります。
円に戻していなくても課税される
外貨投資で誤解しやすいのが、円に戻したときに初めて為替差益が確定するという考え方です。
確かに、ドルを円へ交換すれば分かりやすく利益が確定します。
100万円で取得したドルが160万円になって戻ってくれば、60万円の利益が出たことが明確だからです。
ところが、資産の交換という視点で考えると、ドルからポンドへの交換も同じような側面があります。
保有していたドルという資産を手放し、その時点の価値に応じてポンドという別の資産を取得しています。
ドルを持ち続けているわけではありません。
このため、ドルについて生じていた為替差益を交換時点で認識することになります。
2026年6月に最高裁が判断した
この外貨同士の交換を巡り、2026年6月に最高裁が重要な判断を示しました。
外貨を日本円へ交換した場合だけではなく、外貨を別の外貨へ交換した場合でも、円換算した為替差益が生じていれば所得税を課すことは適法だと判断しました。
つまり、ドルをポンドへ交換した場合でも、ドルを取得した時点から交換した時点までに円に対してドル高が進んでいれば、その為替差益が課税対象になる可能性があるということです。
外貨を円に換えて現金化したかどうかだけで課税関係が決まるわけではないことが改めて明確になりました。
新しい税金ができたわけではない
最高裁の判断を受けて、「外貨同士の交換に新しく税金がかかるようになった」と受け止める人もいるかもしれません。
しかし、今回新しい税制が導入されたわけではありません。
税務当局は以前から、外貨を別の外貨へ交換した場合に為替差益が生じていれば課税対象になるという考え方を示してきました。
最高裁が今回、その課税の考え方を適法と判断したという位置づけです。
したがって、2026年6月以降の取引だけが突然課税されるようになったわけではありません。
従来から存在していた税務上の考え方が司法判断によって確認されたと理解する方が適切です。
外貨そのものも一つの資産と考える
なぜ円を受け取っていないのに利益が生じたと考えるのでしょうか。
ポイントは、ドルやポンドといった外国通貨そのものを一つの資産として考えることです。
円でドルを取得します。
そのドルの円換算価値が上昇します。
そしてドルを手放し、その時点の価値でポンドを取得します。
この取引を円換算して考えれば、値上がりしたドルという資産を処分して、新しい資産を取得したと見ることができます。
円という現金を途中で受け取らなくても、資産の交換は行われています。
税務では、この交換によってそれまでの為替差益が実現したと考えるわけです。
外貨を持ち続けているだけならどうなるのか
一方、ドルをそのまま保有しているだけなら考え方は異なります。
例えば1ドル100円で1万ドルを取得し、その後1ドル160円になったとします。
円換算価値は100万円から160万円へ増えています。
しかし、その1万ドルをそのまま保有しているだけであれば、一般に為替レートが上昇するたびに税金を払うわけではありません。
まだドルという資産を手放していないからです。
重要なのは、保有しているだけなのか、それとも別の通貨や資産へ交換したのかという違いです。
外貨を頻繁に交換する人ほど注意が必要
ドルだけを保有し、最後に円へ戻す人なら取引は比較的分かりやすいでしょう。
しかし複数の通貨を運用する場合は複雑になります。
円からドルへ交換し、そのドルをユーロへ交換し、さらにユーロをポンドへ交換するといった取引をすることもあります。
この場合、最後に円へ戻したときだけ確認すればよいとは限りません。
途中の外貨同士の交換についても、その時点の円換算額を確認する必要が生じます。
取引回数が多くなるほど、取得時の為替レートや交換時の為替レートを後から調べることも難しくなります。
外貨を積極的に運用する人ほど、取引記録の保存が重要になります。
税金を払っても円が手元にないことがある
外貨同士の交換で注意したいもう一つの点が、納税資金です。
ドルを円へ戻して60万円の為替差益が生じたなら、手元には円があります。
その一部を納税資金として残すこともできます。
ところがドルをポンドへ交換した場合、資産は引き続き外貨のままです。
円を受け取っていなくても、税務上は為替差益が生じている場合があります。
その結果、税金を納めるための円を別途用意しなければならないことがあります。
利益が出たことと、納税に使える現金が手元にあることは同じではありません。
外貨同士を頻繁に交換する場合には、この点も意識しておく必要があります。
結論
外貨の為替差益は、日本円へ戻したときだけに課税されるわけではありません。
ドルからポンドなど、外貨から別の外貨へ交換した場合でも、それまで保有していた外貨について円換算した為替差益が生じていれば課税対象になる場合があります。
2026年6月の最高裁判断は、この考え方による所得税の課税を適法としました。
重要なのは、円を受け取ったかどうかではなく、保有していた外貨を別の資産へ交換したかどうかです。
外貨を複数通貨で運用する人は、最後に円へ戻したときだけではなく、途中の交換についても記録を残しておく必要があります。
外貨投資では、円に戻していないから税金はまだ関係ない、とは限らないのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日朝刊 外貨預金、課税場面広く
日本経済新聞 2026年9月12日朝刊 所得大きいほど税率高く