コンプライ・オア・エクスプレインとは何か 説明責任の本質編

経営

企業経営において、「ルールは守るもの」という考え方は当然のように受け入れられています。しかし、コーポレートガバナンス・コードには、少し異なる考え方があります。それが「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」です。

これは「守るか、守らないなら理由を説明するか」という考え方であり、単なる規則ではなく、経営者の主体的な判断を尊重する仕組みです。

今回は、この「コンプライ・オア・エクスプレイン」がなぜ世界中で採用され、日本企業に何を求めているのかを考えてみます。


コンプライ・オア・エクスプレインとは何か

コンプライ・オア・エクスプレインとは、企業がガバナンス・コードなどの原則について、

「原則に従う」

または

「従わない理由を説明する」

という二つの選択肢を認める制度です。

重要なのは、「必ず従わなければならない」という義務ではないことです。

企業にはそれぞれ異なる事業内容や成長段階、経営環境があります。

すべての企業に一律のルールを適用するよりも、自社にとって最適な判断を行い、その理由を株主や投資家へ説明することが望ましいという考え方なのです。


法令とは異なる原則主義の考え方

法律は基本的に守らなければなりません。

違反すれば罰則が科されることもあります。

一方、コーポレートガバナンス・コードは法律ではありません。

あくまで企業統治の望ましい方向性を示した「原則」です。

だからこそ、

「なぜこの原則を採用したのか」

「なぜ今回は採用しないのか」

を説明することが求められます。

つまり、形式的な順守ではなく、経営者自身の思考や判断が重視されているのです。


説明責任が企業価値を高める

近年の投資家は、「守っているかどうか」だけでは企業を評価しません。

それ以上に重視するのは、

「その判断には合理性があるのか」

「長期的な成長戦略と整合しているのか」

という点です。

例えば、社外取締役の人数が他社より少なくても、その体制で十分な監督機能が働いていることを論理的に説明できれば、投資家はその判断を理解する可能性があります。

一方で、形式的に原則を守っていても、その目的が果たされていなければ評価されません。

説明責任は企業価値そのものにつながる時代になっています。


「説明できる経営」が信頼を生む

コンプライ・オア・エクスプレインの本質は、「説明すること」にあります。

説明とは単なる言い訳ではありません。

経営判断の背景や考え方を共有し、理解を得るための対話です。

経営者が、

「なぜこの投資を行うのか」

「なぜ配当より設備投資を優先するのか」

「なぜ人材育成へ積極的に投資するのか」

こうした理由を自らの言葉で語ることで、株主や金融機関、従業員との信頼関係が生まれます。

信頼は、企業の持続的な成長を支える重要な経営資源なのです。


中小企業にも必要な考え方

この考え方は上場企業だけのものではありません。

中小企業でも、

・金融機関への融資説明

・従業員への賃金制度の説明

・取引先への価格改定の説明

・事業承継の説明

など、日常的に説明責任が求められる場面があります。

「社長が決めたから」

では理解は得られません。

「なぜその判断が会社にとって必要なのか」

を丁寧に説明できる企業ほど、社内外からの信頼を獲得できます。

これは企業規模に関係なく共通する経営の原則です。


AI時代ほど説明する力が差になる

AIは制度やルールを整理し、データを分析することが得意です。

しかし、

「この会社は何を大切にしているのか」

「なぜこの選択をしたのか」

「どんな未来を目指しているのか」

という価値判断や理念は、人が語るからこそ説得力があります。

情報が簡単に手に入る時代だからこそ、「説明する力」が企業の競争力になります。

AI時代に価値を持つのは、知識の量だけではなく、自分の考えを相手に伝え、納得してもらう力なのです。


コンプライ・オア・エクスプレインは経営者への信頼の制度

この制度は、「ルールを減らす仕組み」ではありません。

経営者を信頼し、自ら考え、自ら説明することを求める制度です。

一律の答えを押し付けるのではなく、それぞれの企業が自社に合った最適な選択を行うことを期待しています。

だからこそ、経営者にはより高い説明責任が求められます。

その責任を果たせる企業こそが、投資家や社会から信頼され、長期的な企業価値を高めていくことができるでしょう。


結論

コンプライ・オア・エクスプレインとは、「守ること」よりも「考え、説明すること」を重視するガバナンスの考え方です。

企業に求められているのは、形式的にルールへ従うことではなく、自社の状況に応じた最適な判断を行い、その理由を自らの言葉で説明することです。

この姿勢は上場企業だけでなく、中小企業や個人事業主にも共通します。金融機関、取引先、従業員、お客様との信頼関係は、日々の丁寧な説明の積み重ねによって築かれます。

これからの時代に企業価値を高めるのは、単にルールを守る企業ではなく、自らの理念と戦略をわかりやすく語り、対話を通じて信頼を育む企業ではないでしょうか。


参考

日本経済新聞(2026年7月3日 朝刊)

解説ガバナンス指針(1) 原則の数、6割削減 金融庁など5年ぶり改訂 「細かすぎ・複雑」反省

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