会社員の給与明細を見ると、毎月かなりの金額が厚生年金保険料として差し引かれています。
パートで働いていた第3号被保険者が勤務先の厚生年金に加入すると、それまでなかった厚生年金保険料の本人負担が発生します。
そのため、
厚生年金に入るとこんなに保険料を取られるのか
と感じる人もいるでしょう。
しかし、給与明細に表示されている金額だけが厚生年金の保険料ではありません。
厚生年金には「労使折半」という仕組みがあり、原則として本人が負担するのと同額を勤務先も負担しています。
つまり会社員は、自分一人で厚生年金保険料を負担しているわけではありません。
この労使折半を理解すると、第3号被保険者から第2号被保険者へ移る意味も違って見えてきます。
労使折半とは何か
労使折半とは、社会保険料を労働者と使用者が分けて負担する仕組みです。
厚生年金保険料の場合、原則として被保険者本人と事業主が半分ずつ負担します。
ここでいう労は労働者、使は使用者を意味します。
例えば厚生年金保険料全体がある月に3万円だったとします。
労使折半であれば、
本人が1万5000円
会社が1万5000円
という形で負担するイメージです。
給与明細から差し引かれるのは基本的に本人負担分です。
会社負担分まで本人の給与から差し引かれるわけではありません。
給与明細に見えるのは本人負担分
厚生年金の労使折半が分かりにくい理由の一つは、会社負担分が給与明細では見えにくいことです。
例えば給与明細に、
厚生年金保険料 2万円
と記載されていたとします。
本人から見ると、毎月2万円を負担していることが分かります。
しかし厚生年金制度には、それとは別に会社負担分があります。
そのため制度全体では、本人の給与明細に表示されている金額より大きな保険料が納められています。
本人が目にするのは自分の負担だけです。
このため、
社会保険料はすべて自分が払っている
ように感じやすいのです。
厚生年金保険料はどう決まるのか
厚生年金保険料は、単純に毎月実際に受け取った給与額に保険料率を掛けて計算するわけではありません。
基本となるのが標準報酬月額です。
毎月の給与などを一定の幅で区分し、その区分ごとに標準報酬月額を決めます。
そして、
標準報酬月額に厚生年金保険料率を掛ける
という考え方で保険料を計算します。
賞与についても、標準賞与額をもとに保険料を計算します。
厚生年金の保険料率は18.3パーセントです。
これを原則として本人と会社が折半します。
したがって本人負担分は基本的に9.15パーセント相当となります。
例えば標準報酬月額10万円ならどうなるのか
仕組みを単純化して考えてみます。
仮に標準報酬月額が10万円だったとします。
厚生年金保険料率18.3パーセントを掛けると、保険料全体は1万8300円です。
これを労使折半します。
本人負担は9150円。
会社負担も9150円。
合計1万8300円が厚生年金の保険料として負担されるイメージです。
本人の給与から差し引かれるのは9150円なので、
自分は9150円しか厚生年金に関係していない
ように見えます。
しかし制度上は会社も同程度を負担しています。
この会社負担分が、会社員の社会保険を考えるうえで非常に重要です。
第1号被保険者との大きな違い
労使折半の意味は、第1号被保険者と比較すると分かりやすくなります。
自営業者や一定のフリーランスなどの第1号被保険者は、原則として国民年金保険料を自分で納付します。
会社が半分を負担してくれる仕組みではありません。
一方、会社員などの第2号被保険者は厚生年金に加入し、保険料を勤務先と分けて負担します。
つまり、
自分で国民年金保険料を負担する第1号
と、
会社と厚生年金保険料を負担する第2号
では、保険料の負担構造そのものが違います。
第3号被保険者制度を見直す際に、第3号を第1号へ移すのか、第2号へ移すのかが重要になる理由もここにあります。
第3号から第2号になると会社負担が生まれる
第3号被保険者本人は、国民年金保険料を直接納付していません。
その人が勤務時間を増やすなどして勤務先の厚生年金に加入すると、第2号被保険者になります。
すると給与から厚生年金保険料が差し引かれます。
本人から見ると、新しい負担の発生です。
しかし同時に勤務先にも新しい負担が発生します。
会社も厚生年金保険料を負担するからです。
したがって第3号から第2号への移行は、
本人だけに保険料を負担させる改革
ではありません。
働く本人と企業の双方が社会保険を支える仕組みに移ることを意味します。
会社負担分が自分の口座に積み立てられるわけではない
ここで誤解してはいけない点があります。
会社が本人と同程度の厚生年金保険料を負担しているからといって、
本人負担分と会社負担分を合わせた金額が自分専用の年金口座に積み立てられている
わけではありません。
日本の公的年金は、自分が支払った保険料を自分だけのために積み立てる単純な積立制度ではありません。
現役世代が負担する保険料などを、その時点の年金給付にも充てる社会保険の仕組みを基本としています。
本人の将来の老齢厚生年金は、加入期間や報酬などをもとに計算されます。
したがって、
会社が払った分をそのまま将来受け取れる
という意味ではありません。
労使折半と個人積立は別の話です。
それでも会社負担には大きな意味がある
会社負担分が本人専用に積み立てられないとしても、労使折半の意味が小さいわけではありません。
社会保険制度を維持するための費用を、働く本人だけでなく雇用する企業も負担しているからです。
企業から見ると、従業員を雇うために必要なのは給与だけではありません。
給与とは別に社会保険料の事業主負担があります。
そのため企業にとって社会保険の適用拡大は、人件費の増加にもつながります。
パート労働者への厚生年金適用を広げる政策では、
労働者の手取り
だけでなく、
企業の社会保険料負担
も重要な論点になるのです。
健康保険にも事業主負担がある
会社員の社会保険で企業が負担するのは、厚生年金だけではありません。
健康保険料についても、基本的に事業主と被保険者が負担する仕組みになっています。
さらに、企業には社会保険に関連するさまざまな負担があります。
そのため第3号被保険者だったパート労働者が勤務先の社会保険に加入すると、
本人の負担が増える
と同時に、
企業の負担も増える
ことになります。
社会保険の適用拡大が企業経営にも影響する理由です。
なぜ企業にも負担を求めるのか
社会保険料を労働者だけではなく企業にも負担させるのには理由があります。
企業は労働者の働きによって事業活動を行っています。
一方、労働者が高齢になったり、病気になったり、障害を負ったりすれば、個人だけでそのリスクを負担することは困難です。
そこで社会全体でリスクを分担します。
企業にもその費用の一部を負担してもらうことで、労働者の生活保障を社会全体で支える仕組みにしています。
社会保険は、
働いた本人だけの自己責任
ではなく、
本人
企業
社会
が共同で支える制度だと考えることができます。
給与だけで会社の人件費は分からない
労使折半を理解すると、企業の人件費についても見方が変わります。
例えば企業が従業員に月給30万円を支払っているとしても、企業の人件費が30万円だけというわけではありません。
厚生年金や健康保険などについて企業負担分があります。
したがって、企業が従業員一人を雇用するために負担する金額は、額面給与より大きくなります。
これはパート労働者でも同じです。
社会保険の適用対象になれば、企業側にも新しい社会保険料負担が生じます。
そのため社会保険の適用拡大では、企業側が勤務時間を短く調整するなどして加入を避けようとする可能性にも注意が必要です。
働き控えは労働者側だけで起こるとは限らないのです。
労使折半でも経済的な負担の議論は残る
なお、法律上会社が半分を負担しているからといって、経済的な負担について議論がなくなるわけではありません。
企業にとって社会保険料は人件費の一部です。
企業負担が増えれば、長期的には賃金や採用などに影響する可能性もあります。
そのため、
会社が半分払うのだから本人には関係ない
と考えるのも単純すぎます。
ただし、制度上、給与から差し引かれる本人負担とは別に事業主負担が存在することは重要な事実です。
社会保険を考えるときには、
誰が法律上負担するのか
と、
最終的な経済的負担がどこに及ぶのか
を分けて考える必要があります。
第3号縮小を見るうえで労使折半が重要になる
第3号被保険者制度の縮小では、現在の第3号をどこへ移すのかが重要になります。
第3号から第1号へ移れば、原則として本人が国民年金保険料を負担します。
会社負担はありません。
一方、第3号から第2号へ移れば、本人に厚生年金保険料負担が発生しますが、勤務先にも事業主負担が発生します。
さらに本人には老齢厚生年金が積み上がります。
このため、
第3号を減らす
という一言だけでは改革の中身を判断できません。
働く第3号をできるだけ第2号へ移すのか。
働いていない第3号を第1号へ移すのか。
それによって本人にも企業にも影響が大きく変わります。
結論
厚生年金の労使折半とは、厚生年金保険料を原則として労働者本人と勤務先が半分ずつ負担する仕組みです。
給与明細に表示されている厚生年金保険料は、基本的に本人負担分です。
その裏側では、勤務先も制度上の保険料を負担しています。
厚生年金の保険料率は18.3パーセントで、原則として本人と会社が折半するため、本人負担は基本的に9.15パーセント相当となります。
ただし、会社負担分まで本人専用の口座に積み立てられるわけではありません。
公的年金は社会全体で支え合う社会保険だからです。
それでも労使折半は、第3号被保険者から第2号被保険者へ移る意味を考えるうえで重要です。
第3号から第2号になると本人の手取りは社会保険料の分だけ減ります。
しかし同時に企業も保険料を負担し、本人には厚生年金が積み上がります。
一方、第3号から第1号になれば、原則として国民年金保険料を本人が負担し、勤務先による折半はありません。
第3号被保険者制度の改革を見るときには、
保険料を払うか払わないか
だけではなく、
本人と企業がどのように負担を分けるのか
まで見る必要があります。
労使折半とは、会社員の社会保障を労働者だけに負担させず、雇用する企業にも支える役割を求める仕組みなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握