スチュワードシップコードとは何か 機関投資家に企業との対話が求められる理由編

経営

機関投資家は、企業の株式を大量に保有しています。

そのため、株主総会で議決権を行使したり、経営者と対話したりすることで、企業経営に大きな影響を与えることがあります。

では、機関投資家は好きなように議決権を使ってよいのでしょうか。

もちろんそうではありません。

機関投資家の多くは、自分自身のお金だけを運用しているわけではありません。

投資信託を購入した人や、年金加入者など、多くの人から預かった資金を運用しています。

そのため、資金を預けた人の利益を意識しながら、責任ある投資行動をとることが求められます。

この考え方を示すのが「スチュワードシップコード」です。

スチュワードシップコードとは何か

スチュワードシップコードとは、機関投資家が投資先企業と適切に対話し、中長期的な企業価値の向上を通じて、最終的な資金提供者の利益につなげていくための原則です。

「スチュワード」とは、もともと財産や資産を預かって管理する人という意味です。

機関投資家は多くの人から資金を預かっています。

その資金をただ運用するだけではなく、責任を持って企業を評価し、必要に応じて対話や議決権行使を行うことが求められます。

つまりスチュワードシップコードは、「株を持っているだけではなく、責任ある株主として行動しましょう」という考え方だと理解すると分かりやすいでしょう。

なぜ機関投資家に責任が求められるのでしょうか

例えば個人が自分のお金100万円を運用しているとします。

どの株を買うか。

いつ売るか。

株主総会でどう投票するか。

基本的には本人の判断です。

一方、機関投資家は多数の人から集めた巨額の資金を運用しています。

投資信託なら購入者のお金です。

年金基金なら加入者や受給者に関係するお金です。

つまり機関投資家の判断は、自分だけではなく多くの人の将来の資産へ影響します。

だからこそ、投資先企業を十分に調べ、責任を持って議決権を行使することが求められるのです。

株式を持っているだけでは十分ではありません

以前は、機関投資家の役割は主に「良い会社を選んで投資すること」だと考えられがちでした。

企業の経営が悪くなれば株を売ればよい。

より成長する会社へ資金を移せばよい。

この考え方にも合理性があります。

しかし機関投資家が巨大化し、株価指数に連動する運用も増えると、簡単に売却できない場面が増えてきます。

そこで重要になるのが、

企業を調べる。

企業と対話する。

改善を求める。

議決権を行使する。

という株主としての行動です。

投資先企業との関係そのものが、運用の重要な一部になってきたのです。

企業との対話が重要な柱になります

前回取り上げたエンゲージメントは、スチュワードシップ活動の重要な一部です。

機関投資家は企業へ投資した後も、経営状況を継続的に確認します。

例えば、

経営戦略は合理的か。

資本効率は改善しているか。

過剰な現預金を抱えていないか。

取締役会は十分に機能しているか。

重大な経営リスクを放置していないか。

といったことを確認します。

疑問があれば経営者と対話します。

ただ株価の動きを見ているだけではなく、企業そのものを理解しようとするわけです。

議決権行使も重要な責任です

スチュワードシップコードを考えるうえで、株主総会の議決権行使も重要です。

例えば取締役選任議案があります。

機関投資家は、

この取締役を選任してよいのか。

経営責任は適切に果たされているか。

取締役会は株主の利益を意識しているか。

などを考えて賛否を判断します。

企業側が出した議案だからといって、自動的に賛成するわけではありません。

必要であれば反対票を投じます。

議決権を実際に使うことで、企業に対して意思を示すわけです。

すべての議案へ一律に反対するわけでもありません

一方、厳しい基準を持つことと、機械的に反対することは違います。

例えば一定の基準だけを見て、

条件を満たさないから反対。

数字が低いから反対。

という判断だけでは、企業ごとの事情を十分に考慮できない可能性があります。

企業によって事業内容や成長段階は違います。

大規模投資の途中にある会社もあります。

一時的に利益率が低下している会社もあります。

だからこそ企業との対話が重要になります。

数字だけでは見えない事情を理解したうえで、議決権を行使する必要があるのです。

対話と議決権行使は別々ではありません

スチュワードシップ活動では、企業との対話と議決権行使はつながっています。

例えば機関投資家が企業へ資本効率の改善を求めたとします。

1年目に対話する。

2年目に改善策を確認する。

3年目になっても進展がない。

その結果として経営トップの取締役選任議案に反対することがあります。

この場合、株主総会で突然反対したわけではありません。

その前に長期間の対話があります。

議決権行使は、エンゲージメントの結果を示す手段の一つでもあるのです。

最終的に守るべき相手は誰なのでしょうか

機関投資家が責任を負う相手は、投資先企業ではありません。

最終的には、その資金を提供している人たちです。

例えば投資信託なら受益者です。

年金なら加入者や受給者などです。

機関投資家は企業と仲良くなるために対話するわけではありません。

投資先企業の価値が長期的に向上することで、預かった資産の価値を高めることが目的です。

この点がスチュワードシップという考え方の中心になります。

短期的な株価上昇だけを求めるものではありません

企業価値向上という言葉から、すぐ株価を上げることだけが目的だと思うかもしれません。

しかしスチュワードシップの考え方は、より中長期的な視点を重視します。

研究開発。

人材育成。

設備投資。

新規事業。

事業ポートフォリオの見直し。

こうした取り組みは成果が出るまで時間がかかります。

短期間の利益だけを最大化しようとすれば、将来の成長に必要な投資まで減らしてしまう可能性があります。

機関投資家には、企業の長期的な価値創造を見極める力も求められます。

企業側にも説明責任が生まれます

スチュワードシップコードは機関投資家側の原則ですが、企業側にも影響を与えます。

投資家が積極的に質問するようになれば、企業は自らの経営戦略を説明する必要があります。

なぜこの事業へ投資するのか。

なぜこの会社を買収するのか。

なぜ現金を多く保有するのか。

なぜこの取締役を選任するのか。

こうした問いに経営者が合理的に説明できなければ、投資家から支持を得にくくなります。

投資家の責任ある行動が、結果として企業側の説明責任を高める面もあります。

実質株主を把握することが重要になる理由

ここで、これまで取り上げてきた実質株主の問題につながります。

企業が機関投資家との対話を重視しても、本当の投資家が誰なのか分からなければ対話できません。

株主名簿にカストディアンなどの名前しか載っていない場合、その背後で実際に投資判断をしている機関投資家を把握する必要があります。

誰が自社株を保有しているのか。

誰が議決権行使を判断しているのか。

誰と経営戦略について話すべきなのか。

スチュワードシップ活動が活発になるほど、企業側にとって実質株主の確認が重要になります。

企業と投資家の両方が責任を持つ時代になります

企業統治の改革というと、企業だけが変わればよいように思えるかもしれません。

しかし、株主にも責任があります。

企業側は適切に経営する。

投資家側は企業をきちんと評価する。

企業は戦略を説明する。

投資家は対話する。

必要なら議決権を使って意思を示す。

企業と株主の双方が役割を果たすことで、企業価値の向上を目指すという考え方です。

スチュワードシップコードは、その投資家側の責任を明確にするものといえます。

議決権を使わないことにも説明が必要になります

機関投資家が株式を保有していても、議決権を形式的に行使するだけでは十分ではありません。

なぜ賛成したのか。

なぜ反対したのか。

どのような考え方で企業を評価しているのか。

こうした情報を開示することも重要になっています。

資金を預けている側から見れば、自分たちのお金を運用する機関投資家がどのような行動をしているのか知る必要があるからです。

機関投資家自身にも説明責任が求められるわけです。

コーポレートガバナンスコードとは立場が違います

似た言葉に「コーポレートガバナンスコード」があります。

混同しやすいところです。

スチュワードシップコードは、主に機関投資家側の行動原則です。

一方、コーポレートガバナンスコードは、主に上場企業側の企業統治についての原則です。

つまり、

企業側の責任を考えるのがコーポレートガバナンスコード。

投資家側の責任を考えるのがスチュワードシップコード。

と整理すると分かりやすいでしょう。

両方が機能することで、企業と投資家の建設的な関係をつくろうとしているのです。

結論

スチュワードシップコードとは、機関投資家が資金を預けた人たちに対する責任を果たすため、投資先企業を適切に評価し、対話や議決権行使を通じて中長期的な企業価値向上につなげていくための原則です。

機関投資家は単に株式を買って保有するだけの存在ではありません。

企業の経営状況を確認し、必要に応じて経営者と対話します。

改善が十分でなければ、株主総会で反対票を投じることもあります。

こうした行動の目的は、企業へ一方的に要求することではありません。

最終的には投資信託の受益者や年金加入者など、資金を提供している人たちの利益につなげることです。

そして機関投資家が企業との対話を重視するほど、企業側には「本当の株主は誰なのか」を把握する必要が生まれます。

株主名簿の背後にいる実質株主を確認することが重要になる理由もここにあります。

企業には企業としての責任があります。

株主には株主としての責任があります。

スチュワードシップコードは、株主を単なる資金提供者ではなく、企業の長期的な価値創造に責任を持って関わる存在として位置づける考え方なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 会社と株主 変わる会社法下 株主総会の景色変えるか

日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 実質株主の確認、海外先行

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