第3号から厚生年金に入ると損なのか 手取りは減っても将来の年金が増える理由編

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会社員の配偶者の扶養に入り、第3号被保険者としてパートで働いている人が勤務時間を増やすと、勤務先の厚生年金に加入することがあります。

すると、それまで給与から引かれていなかった厚生年金保険料や健康保険料が差し引かれるようになります。

給与は増えたのに、思ったほど手取りが増えない。

場合によっては、社会保険に加入する直前と比べて手取りの増加を実感しにくいこともあります。

そのため、

第3号のままの方が得なのではないか

厚生年金に入ると損なのではないか

と考える人もいます。

しかし、社会保険は現在の手取りだけで損得を判断できる制度ではありません。

厚生年金に加入すれば、本人名義の老齢厚生年金が積み上がります。

さらに保険料は本人だけではなく勤務先も負担します。

第3号から厚生年金へ移る意味を考えるには、現在の負担と将来の給付を分けて見る必要があります。

第3号では本人が国民年金保険料を直接払わない

まず、第3号被保険者の仕組みを確認します。

第3号被保険者とは、厚生年金に加入する第2号被保険者に扶養される一定の配偶者です。

第3号被保険者本人は、国民年金保険料を直接納付しません。

それでも第3号であった期間は、原則として国民年金の保険料納付済期間として扱われます。

将来の老齢基礎年金にも反映されます。

そのため現在の負担だけを見ると、

保険料を直接払わずに基礎年金を受け取れる

という第3号のメリットは非常に大きく見えます。

この状態から厚生年金へ加入すれば、新たに本人負担が発生します。

ここが働き控えにつながる大きなポイントです。

厚生年金に入ると給与から保険料が引かれる

第3号被保険者だった人が勤務先の社会保険に加入すると、国民年金では第2号被保険者になります。

給与などに応じて厚生年金保険料を負担します。

健康保険にも本人として加入すれば、健康保険料も負担します。

これらは通常、給与から差し引かれます。

例えば、それまで給与から税金などだけが差し引かれていた人に社会保険料の負担が加われば、額面給与と手取りの差は大きくなります。

このため社会保険へ加入した直後は、

こんなに引かれるのか

と感じやすくなります。

第3号から第2号への移行が心理的にも大きな壁になる理由です。

手取りが減ることと損をすることは同じではない

ここで注意したいのが、

手取りが減る

ことと、

経済的にすべて損になる

ことは同じではないという点です。

税金を支払った場合、その税額が自分名義の資産として積み立てられるわけではありません。

一方、厚生年金保険料を負担して厚生年金に加入すれば、加入期間や給与などに応じて将来の老齢厚生年金につながります。

もちろん、自分が払った保険料をそのまま積み立てて将来自分だけで受け取る制度ではありません。

公的年金は社会保険です。

それでも、厚生年金に加入した実績が本人の将来の年金額に反映される点は重要です。

現在の手取り減少だけを見れば負担ですが、将来の給付まで含めると意味が変わってきます。

第3号には厚生年金の上乗せがない

第3号被保険者として認められた期間は、老齢基礎年金につながります。

しかし、第3号であることによって本人名義の老齢厚生年金が新たに積み上がるわけではありません。

一方、第2号被保険者として厚生年金に加入すれば、

老齢基礎年金

に加えて、

老齢厚生年金

という上乗せを作ることができます。

厚生年金への加入期間が長くなれば、その分だけ上乗せ部分も積み上がっていきます。

第3号と第2号の比較では、この違いを無視することはできません。

厚生年金は長く加入するほど積み上がる

老齢厚生年金の金額は、基本的に現役時代の報酬と加入期間に応じて決まります。

短期間だけ厚生年金に加入する場合と、10年、20年と加入する場合では、将来の年金への影響が違います。

例えば40代で第3号から第2号へ移り、その後長期間厚生年金に加入すれば、その期間に応じて老齢厚生年金を積み上げることができます。

しかも老齢厚生年金は、原則として受給要件を満たせば老後に継続して受け取る年金です。

したがって、

今年の手取りがいくら減るのか

だけではなく、

厚生年金に何年間加入することになるのか

まで考えることが重要です。

会社も厚生年金保険料を負担する

第3号から第2号へ移るメリットを考えるうえで、もう一つ重要なのが労使折半です。

厚生年金保険料は、原則として本人と勤務先が折半して負担します。

給与明細に表示されている厚生年金保険料は、基本的に本人負担分です。

その裏側では勤務先も保険料を負担しています。

例えば本人が一定額の厚生年金保険料を負担していれば、原則として勤務先も制度上の負担をしています。

第1号被保険者として国民年金保険料を自分で負担する場合とは大きく異なる点です。

第3号から第2号になるということは、

自分だけで社会保険料を負担する

ということではありません。

勤務先にも負担してもらいながら、自分自身の社会保障を持つことでもあります。

健康保険も本人として加入する

勤務先の社会保険に加入する場合には、通常、厚生年金だけでなく健康保険にも本人として加入します。

これまでは配偶者の健康保険の被扶養者だった人も、自分自身が被保険者になります。

そのため健康保険料の本人負担も発生します。

ここでも手取りは減ります。

しかし、被保険者本人になることで保障が変わる場合があります。

例えば一定の条件を満たせば、病気やけがで働けなくなった場合の傷病手当金を受け取れることがあります。

出産のため仕事を休む場合には、一定の条件のもとで出産手当金の対象になることもあります。

単に保険料負担が増えるだけではなく、働く本人に対する所得保障も加わるのです。

障害や死亡に対する保障も厚くなる

厚生年金には老後の年金以外の役割もあります。

加入中に一定の障害状態になり要件を満たした場合には、障害厚生年金の対象になる可能性があります。

また、加入者が亡くなった場合には、一定の要件のもとで遺族厚生年金が支給されることがあります。

公的年金というと、

老後のための貯蓄

のように考えられがちです。

しかし実際には、

長生き

障害

死亡

などのリスクに備える社会保険です。

第3号から厚生年金へ加入する意味を考えるときには、老齢厚生年金だけでなく、こうした保障も含めて考える必要があります。

なぜ加入直後は損に見えやすいのか

それでも厚生年金への加入が損に見えやすい理由があります。

負担と給付が発生する時期が違うからです。

社会保険料は今月の給与から差し引かれます。

一方、老齢厚生年金を受け取るのは何年も何十年も先になる可能性があります。

現在の負担は給与明細を見ればすぐ分かります。

将来増える年金は実感しにくいものです。

この時間差によって、

社会保険に入ると手取りだけ減る

という印象が強くなります。

特に家計に余裕がない場合、将来の年金より現在の手取りを優先するのは自然な行動でもあります。

少しだけ壁を超えると負担感が大きい

もう一つの問題は、社会保険加入の境界付近です。

社会保険に加入するために勤務時間を増やしたとしても、収入の増加額が小さければ、新たな社会保険料負担によって手取りの増加が小さくなることがあります。

そのため、

壁を少しだけ超えて働く

よりも、

扶養の範囲内に抑える

という選択が行われやすくなります。

逆に、社会保険へ加入した後に勤務時間をさらに増やし、収入そのものを大きく増やせば、社会保険料を負担しながらでも手取りを増やしやすくなります。

したがって、社会保険加入後の働き方まで含めて考えることが重要です。

第3号にとどまることにも機会費用がある

第3号被保険者でいれば、本人の国民年金保険料の直接負担はありません。

これは確かなメリットです。

しかし、そのために勤務時間を抑え続ければ、本来得られたはずの給与を受け取れなくなることがあります。

厚生年金の加入期間も増えません。

仕事の経験や昇給、キャリア形成の機会に影響する場合もあります。

つまり、

社会保険料を払わずに済んだ金額

だけを見るのでは不十分です。

働く時間を抑えたことで失った収入や将来の年金なども考える必要があります。

目に見える社会保険料だけでなく、目に見えにくい機会費用も存在するのです。

第3号縮小は本人名義の保障を広げる改革でもある

政府が短時間労働者への厚生年金の適用拡大を進めている背景には、働き控えの解消だけではなく、社会保障を働く本人に結び付けるという考え方があります。

配偶者に扶養されることで第3号になるのではなく、働く本人が自分自身の勤務先で社会保険に加入する。

本人と企業が保険料を負担する。

本人自身の厚生年金を積み上げる。

こうした方向への転換です。

そのため第3号被保険者制度の縮小は、

第3号のメリットを取り上げる改革

という側面だけでなく、

働く人自身の社会保障を厚くする改革

という側面からも見る必要があります。

損得は現在の手取りだけでは決められない

もちろん、厚生年金へ加入すれば誰でも必ず金銭的に得になると単純に言うこともできません。

年齢、給与、加入期間、家族構成、今後の働き方などによって影響は異なります。

大切なのは比較する範囲です。

現在の給与明細だけを見るのか。

今後10年、20年の給与まで見るのか。

老後の年金まで含めるのか。

病気や障害などの保障まで含めるのか。

比較する期間と対象を広げるほど、第3号と第2号の違いは単純な保険料の有無ではなくなります。

結論

第3号被保険者から厚生年金に加入すると、本人の社会保険料負担が発生するため、現在の手取りは減ります。

そのため、加入直後だけを見れば損をしたように感じやすくなります。

しかし、第2号被保険者になれば、基礎年金に加えて本人名義の老齢厚生年金を積み上げることができます。

厚生年金保険料は原則として勤務先も負担します。

さらに健康保険に本人として加入することで、一定の場合には傷病手当金や出産手当金などの保障にもつながります。

厚生年金には障害や死亡に対する保障もあります。

したがって、

第3号なら保険料を払わないから得

第2号なら保険料を払うから損

という単純な比較はできません。

現在の手取りを重視すれば第3号のメリットは大きく見えます。

一方、長期的な給与、将来の年金、万一の場合の保障まで考えれば、第2号になる意味も見えてきます。

第3号から厚生年金へ移るということは、単に新しい保険料負担が始まることではありません。

配偶者の扶養による社会保障から、働く本人が自分自身の社会保障を持つ仕組みへ移ることなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握

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